師匠、電話口の声がおかしいでっせ?
骨董品販売の手伝いをしていた時期があった。
師匠は当年67歳。僕は唯一の弟子。
僕より遥かに体力もあり、今も方々、走り回っておられる。
骨董品を扱う人というと、小難しい気性かと思うけど、
師匠は、駄洒落を言っているか、大声で笑っている。
でも、商売を語るときのその目は鋭い。
凄いなあ、と何度も感じた。
この師匠、骨董品を扱う傍ら、
便利屋を兼ねるという器用さの持ち主。
2年ほど前「ワシも65歳や。年金もあるし、ここらで引退する。
あとは、遊んで暮らすのじゃ」
という事で、一瞬引退された。
店を閉じた当初は、ご夫妻で、よく旅行に出かけていたが、
ちょこちょこ、お得意さんから買取りや便利屋の依頼がある。
その後も、お得意さんからの依頼は途絶えることなく、
ずるずる現世に引きずり戻された。
そうなると思っていましたぜ、あちきは・・・
先日、師匠のご自宅近くに本の買取りに行った。
本を車に積み込んで店に戻ろうと発進したが、
ふと、師匠に会いたくなった。
で、適当な家の塀に沿って車を止め、
師匠の携帯電話を呼び出した。
1コールあるかないかで
「毎度、元気か~」と、いきなり師匠の声が響いた。
こちらが電話をしておきながら
「びっくりしますやん」と言ってしまった。
「アハハハハハ~」といつのも笑い声。
僕は「今、どちらにいらっしゃるのですか」と。
「今、便利屋の仕事中。裏庭に突き出しのデッキを作ってるねん」と、師匠。
「そうっだたんですか。僕、師匠の自宅近くに本の買取りに来ていたものですから。
ちょっと、顔を出そうかなと思ったんですが。残念です」
「ワシの仕事も自宅の近所やで」と、師匠。
「そうですか。お近くでしたら、ちょっと顔、出しますわ」
「今、どこらあたりや?」と、師匠。
僕は車を降りて、玄関の表札を見た。
ひょっとしたら分かるかと思ってその苗字を言ってみた。
「○○さん?ん~、聞いたことあるな~」
「師匠、ちょっと声がおかしいですわ。電波が悪いみたいです」と僕。
「ほんまやな。なんか、こだましとるみたいやなあ」と、師匠。
僕は「ちょっと移動してみますわ」と言って、その家の塀伝いに回り込んだ。
「もしも~し、聞こえますか~?」と僕。
「もしもし、よう聞こえるで」と、師匠。
やけに声が近い。
何気に先を見ると、
その家の裏木戸から、材木のようなものが突き出している。
僕は「あのねぇ、師匠。師匠が仕事をなさっているお宅の名前は、○○さんち?」
「お~、なんで分かるねんな」と、目いっぱい不思議そうな師匠の声。
「あのですね、師匠。僕、師匠と壁越しにお話ししているんやないでしょうか」
「げぇぇ~。どうりで妙な感じやと思った。聞き覚えのある苗字のはずや」
わしらは、コント55号か。