10月8日(月)祝日 快晴
6時間は寝ただろうか。だらだらと起きて、駅前の喫茶店ロンドンに行ってみた。パンが安く驚いた。焼きそばパンとクロワッサン、惣菜パンを買う。御屋敷の味には遠く及ばないが悪くない。地元の人々に愛されているのだろう。老人が多い。大声でやたらに「欧米に日本が遅れている」と鼓吹する老人が、隣で頷く老婦人とは赤の他人だったのには驚いた。このあたり、大阪である。
買い物をすませ、ホテルへ。チェックアウト間際、誰もいないと勘違いした清掃の人がやたら滅多に鍵をガチャガチャしてきた。
11時、ホテルを出て関空へ。四人がけの壁座席にフィリピン女性が無理矢理座ろうとしてきた。いくら小柄で痩せていても無理がある。笑ってしまった。
関空着。思えば、ここから国内線に乗るのは久しぶりである。というか一度しか乗ったことがない。たしか東京と茨城へ行くのにLCCを試したくて乗ってみたのだが、あまり良い経験ではなかった。ラピートに似た謎の青いキャラクターを通り過ぎて、第二ターミナルへ。第一ターミナルで待ち合わせても良いのだが、友人が乗るバスは第二ターミナルまで来るらしい。わざわざ降りてもらう必要もないのでバーガーキングで一息ついてのち、バスに乗った。アールグレイはうまい。
揺られること数分、第二ターミナル着。やることもないので、週末に予定している読書会のテキストを読む。どう論じたものか、ちょっと分からない。12時半過ぎには友人も到着といっていたが、遅れているらしい。
背後から来る友人をみて、これにて出発条件は整ったので安心した。到着は16時半の予定なので、時間もある。空港値段のつまみとドリンクバーを注文したら、友人はなぜか烏龍茶を飲んでいた。待っていてもしかたないので少々早めに搭乗手続きを開始。財布もメガネもトレイにのせて通過。友人はPCが入っていた鞄を開け忘れて再検査となった。
待合では、友人が関わった商品が売られていたので、それを彼が買い、滞在先への土産とするという。一時間弱は待ったろうか。晴れて飛行機へ、ということで、風の強い夏が戻ってきた滑走路へ出た。待合からそのまま乗れるのも悪くないのだが、滑走路から飛行機へ乗るのはよい。旅感がある。無論、天気がいいときだけの話。
搭乗、出発術式を開始。鉄鳥の唸りと足音が道を蹴り、空へ。友人の顔ごしに関西が傾いていく。沖縄へ行くのにはスカイマークをよく使う。値段も安く座席が広いからだ。そして、機上ではアイスコーヒーをよく頼む。今回もアイスコーヒーを飲もうと思うと、そもそも置いていないらしい。代わりにホットコーヒーを頼んだのだが、まさかの粗相をかました。かまされたのではない。自爆である。本を読もうと思って広げていて、ぼーっとしていたら、そのまま、半分ほどを自分にかけてしまった。幸い、自分にかかっただけで隣席の友人にも見知らぬ女性にも、何なら機体にも被害はない。すべてぼくのズボンと下着が吸収した。
最初の感覚は、熱っ!となり、その後、なんともいえぬコーヒーの香りが漂った。時間がたつほどに、妙に冷えてくる。あまりにも愚かなので笑うしかなかったが、ぼくは生来、根本的な不注意が多いのだ。駄目である。ちなみに、社会学者・岸政彦『はじめての沖縄』を読んでいたのだが、はじめての沖縄でも初めて飲む珈琲でもない。いい本なのに、コーヒーに浸してしまった。
関空と那覇の飛行時間は、前後入れると大体二時間が平均である。が、結局、16時に着陸し、17時に外へ出た。しかも着陸先は、那覇空港の貨物カード集積センターである。なんと、我々は歩く荷物だったのか…、これを非人道的扱いと言わずして何といおう!欧米のクルクルパー活動家ならば、このように言うだろう。今度からは、やはりいつも通り、他の路線で行こうとは思った。
友人にとっては初めての、せっかくの沖縄である。できるだけ、色々なものに触れてほしいとは思い、一つの沖縄らしさとしてのモノレールを考えていたが、時間のロスもあったので、タクシーで国際通りまで向かった。そこから公設市場を覗くためだ。牧志第一公設市場の歴史云々はともかく、色とりどりの南洋の魚が並び、たまに豚の顔もサングラスをかけて並んでいる。古い貧しい時代の沖縄の残り香漂うアーケードの仲を歩けば辿りつく。
とくに予定は決め手いなかったが、ここで夕食とあいなった。沖縄そば、ゴーヤーチャンプルー、島らっきょ、ジューシーを食べた。まずまずの沖縄感である。腹も落ちつき、友人も満足したらしい。何よりだ。
8時半発の高速バスまで時間はあるので、タクシーを飛ばせば、狙いの古本屋へ行けそうだと気付く。リスキーだが行くことにした。もはや暗くなっている。タクシーで国際通りから抜けて、くねくねと道を曲がり、軽い荷物の重さを疲れとしてひざに受けるころに、安里についた。
目的地は「安里古本センター 国書房」である。45年ほど前からやっている老舗らしい。那覇では有名な古本屋だ。今回の沖縄の目的は、基本的に友人の休暇の運転手にかこつけた、ちょっとした気分転換である。しかし、この国書房を訪れるのは、可能ならばやってみたかった。無事に辿りつけたので、うれしい。
7時半過ぎ、いろいろと駆け足でみて、ざっと購入。戦前の『沖縄救済論』というやばいタイトルまで入手。友人も小松左京の文庫を大量に買っていた。遅れては困るので、早々に切り上げて、タクシーに乗り、バスターミナルへ。検索するとバスターミナルが二つ出てくるので困惑していたが、どうやら古いものはなくなって新設されたらしい。10月1日に新規オープンということで、きれいな建物ができていた。記憶の中にある、あの雑踏としかいいようのないバスターミナルはもう取り壊されたようだ。
ファミリーマートも併設されており、何インチかわからない巨大スクリーンが観光へと客をいざなっている。ファミマの手売りソフトクリームを初めてみたので、それを齧りながら、チケットを買うために売り場を求めて、ぐるりと一周。結局、乗車時に買えるとのこと。ニヤニヤと買った古書を眺めていたら時間が来たので、手洗いをすませて、発着場へ。
20時半、出発。さすがに疲れているので、ぼくも友人も寝落ちしながら沖縄自動車道に揺られている。少し遅れたらしいが、21時半前、石川I.C.で降りて、旧友に迎えに来てもらい、久しぶりの恩納村となった。到着後、部屋の案内やら、自己紹介やらをしてもらい、とにかく初日を無事に終えたのであった。
コーヒー洗礼を授けたズボンと下着を洗濯して、コインランドリーで乾燥させる。ヤモリが聞いたこともない声で鳴き、波凪ぐ夜。明日は海でもみようかな。