メイドたちの記憶 16. The Feast of VillAnge | さむの御帰宅日記

さむの御帰宅日記

ネットの海の枯れ珊瑚のあぶく

 

 いよいよ来週の今日、つまり5月20日に、ぼくらの御屋敷ヴィランジュが閉館となる。この書き出しを打つだけで、すこし胸を衝くものがある。それは、きっと夜だからだろう。

 

 先週あたりから、ヴィランジュが控え目にいっても加速している。最後だから、せめてもう一度と思って、御帰宅する善男善女が多いのだろう。ぼくもできるだけ御屋敷で時間を過ごそうと、一時的に事務仕事を外出用タブレットに詰め込んで、御帰宅している。

 

 来月に刊行される雑誌のための原稿は大詰めである。また国に対して、一言でいえば「何でもいいから金をよこせ」という内容を、そうとは書かずに一万字かけて説得してふんだくる書類の〆切も来週となっている。義務を放置しているわけではない。少々、合格が不安な、ぼくが指導する留学生たちにはべらぼうに感謝されているし、家賃のための原稿仕事も追われているが、こなしている。ここで、義務をほったらかしてしまうと、旦那様としてよくないなと思ってしまう。

 

 どうでもよいことに話がそれた。

 

 ぼくと同じように考える旦那様は多いらしく、連日のように常連たちの顔を見ている。もしかするとメイドさんたちよりも多く見かけている顔もあるかもしれない。互いに名前も仕事も知らない。ただあだ名とツイッターアカウントを知っている。

 

 今日も仕事があって、断ってしまったが、見知った顔の旦那様方より同席の誘いを受けた。ものすごく嬉しかったが、火曜夜までには校了したい原稿があるので遠慮してしまった。また機会があるだろうと思っている。

 

 いろいろなことばが浮かぶが、言いたいことは一つだけだ。皆の笑顔がよい。あと一か月、あと二週間、あと一週間と、その日が迫る中で、それぞれが、この瞬間を愛しく楽しく過ごそうと思って、あの場所に集まっている。ことばを交わさずとも、何度も見てきた常連たちの顔だ。考えていることは、きっと変わらないだろう。みな、御屋敷が大好きで、メイドさんたちのことを愛している。

 

 突如として、始まった終わりへと向かうヴィランジュは加速する。それは、南米の祝祭のような雰囲気をたたえて、毎日のように、メイドさんと旦那様お嬢様の笑顔がつらなっていく。祭りのあとに何が待っていて、何が残るのか。それはそのときに考えたらよいだろう。いまは加速する祝祭に、ただ喜びと感謝をたたえて、あの場所にいたいのだ。

 

 ここ最近、視聴履歴からの提案と自動再生で、ももクロ「笑一笑 ~シャオイーシャオ!~」がよくかかっている。改めて聞いてみると、歌詞がいい。耳に残っている部分だけを引用しよう。

 

 笑顔の絆を胸に

 光のほうへ進んでいく

 きみから僕へと伝わってくるこの勇気

 いつも 笑―笑

 世界は一つだけど

 パラレルにも感じられる

 可能性の数は

 無限にあるのだから

 優しいひとに包まれ

 しあわせでねって願うよ だから

 隣へ また隣へ

 優しさの連鎖 贈りたいね

・・・

 こころでこころがまるくなる

 とがった唇も笑う

 今日からの日々もずっとそんな風であるように

 いつも 笑―笑

 

 そう、ただ御屋敷に集う人々の笑顔が印象的な夜である。そして、そんな一週間となるだろう。祝祭はまだ続くのだ!