幾日も幾日も海上で過ごすため、誰もが疲れが出てきた頃、やっと島影が見えてきた。
陸地が近づくにつれ、遠くに山があることに氣づいた。
「あれが三神山なのでしょうか?」
「さて、三神山とは如何なる山を指すのかがわからないことには何とも言えないなぁ~。ここは陸地に上がって現地の人に聞いてみよう」
フツ達は船を停めやすい海岸に停船して船を降り、辺りに人がいないか探した。
しばらく歩いて行くと村があった。
「ここで聞いてみよう」
フツ達は外で作業をしている村人に声をかけ、事情を説明した。
「ああ、君たちみたいに戦を避けて逃げて来た人達はたくさんいたよ。彼らはあちこちに集落をつくって暮らしているよ。行ってみるかい?」
フツ達は自分達と同じ境遇にあった人々に会ってみたいと思った。
しばらく内陸側に歩いて行くと、その人達がつくったという集落が見えてきた。
集落は周囲に環濠が張り巡らされ、物見櫓らしき建物があり、集落の入口にも人がいた。
ここまで案内してしてくれた村人が、入口に立つ人にフツ達のことを話すと、集落の中へと案内された。
「よく来て下さいました。私達は大陸から戦を避けてこの地に来て、地元の人々に助けられながら、同じような境遇の人達と共に、ここに村をつくって暮らしているのです」
それはフツ達の村や国を滅ぼした大国の都とは程遠い規模だが、戦のないこの国で平和に暮らせているのだと、首長らしき人から聞かされた。
「東の海の中にあるという蓬莱島の話は私達も知っています。この村からも蓬莱島を求めて更に東へ向かった人達がいます」
「僕達の他にも蓬莱島を探した人達がいたんだ・・・」
それはフツ達が暮らした大陸全土に古くから伝わる話だった。
そしてそれを求めたのは時の権力者だけでなかったのだ。
「不老長寿の霊薬ですか? この国の各地に色々ありますよ」
「えっ
」「この国に伝わる不老長寿の話は霊薬だけではないのですがね」
「この国にも不老長寿の霊薬の話があるのですか
」フツ達をここまで案内してくれた村人の話にみんなは驚いた。
そして探していた国はここにあったのだと確信した。
村人と首長の話から、蓬莱島は蓬莱山とも言い、更に東にあることがわかった。
フツ達はしばらくこの村に滞在した後、首長がつけてくれた案内人と共に再び船出した。
船は幾つもの小さな島を見ながら、陸地に沿って南へ向かい、さらに岬を回って東へと向かった。
「この国は小さな島や森や山が多く、小さな川もたくさん流れていて、皆さんの国とは違った風情があるでしょう」
「本当に。緑豊かで水清きところですね」
「この国の人達は不老長寿の霊薬など望んではいないのです」
「それには僕も驚いたよ。何しろ大陸の権力者達は不老長寿、いや不老不死を我も我もと求めていたからね。反対に侵略された国や村は人々の心まで退廃しているようで」
「私もこの国に来た当時は、その違いに戸惑いさえ感じましたが、平和であって、生きることに困らないだけでも、穏やかになれるものなのだと、直に体験しましたよ」
案内人が自らの体験を教えてくれた。
「ここからもうしばらく東に行くと、アサクマという山があります。その山の頂上から更にすごいものを見ることができますよ」
「アサクマ?」
「いにしえの民と山を表す名前のようです」
「そうなのか・・・」
一行はアサクマの地に上陸し、アサクマの山に登った。
「今日はよく晴れていてよかった。よく晴れていれば、それもよく見えるのです。ほら
」案内人が東よりやや北の方角を指差し、フツ達はその方角の先を見た。
すると、遥か遠くに白い雪を冠した山が見えた。
「何だ、この山は
」その山の姿を見た瞬間、フツ達は強い衝撃を感じた。
「山から何かがバンッ
て来るような感じがした」同行した仲間からそんな声が聞こえてきた。
「だけど何だか神秘的な姿だ」
「私の村に伝わるシャンバラが浮かんできました」
「シャンバラ? 崑崙山脈の向こうにあるというあのシャンバラか」
「ええ」
「シャンバラは確か地底にある国でしたね。あの山にも地底に国があると言われています」
「え
あの山に?」案内人の話にフツとアーシャは顔を見合せた。
「アーシャ、僕はあの山を目指そうと思うが、君はどうする?」
「私も一緒に行きます。祖母のまた祖母の故郷については、どこかで必ず手掛かりがあると思います」
「あの山まで案内を頼めるかな?」
「いいですよ」
案内人は快く更なる案内を引き受けてくれた。
彼は各地と交流するネットワークを持っているので、わからないことは現地の交流のある人達に聞きましょうと言ってくれた。
一行は東に向けて更に船を進めた。
~続く~