7月27日、深夜。
不思議な体験をした。

1時半頃だったろうか。
犬の人格「ラブ」が、
部屋のすみっこの方を見て、
「ねえ、おんなのひと」と言った。
(因みに犬の人格は喋れる。
自分を犬だと思い込んでいる“人格”に他ならないからだ)
最初はテレビ画面のことかと思ったが、
どうも違うらしい。
僕には見えない“女らしきもの”が、
部屋のすみにうずくまっていると言う。
「え?幽霊・・・?」
まさかとは思いながらもうすら寒くなってきた。
しばらくすると、
“それ”は立ち上がって少し右に移動し、
「音楽がうるさい」
というようなことを言っているらしかった。
コンポのボリュームを下げようとしているらしく、
「ラブ」が真似をする。
・・・・・。

「ラブが幻覚を見てるんだろうか」
と思いながら、
このままではラチがあかないので、
「垓」に意見を求めることにした。
「見えるって言うんだから見えるんじゃないの?
アタシには見えないけど。世の中には不思議なことがあるものよ。
別に今のところ害は無いんだし。良いんじゃない?」
・・・・・。
もう、いいや。
放っておこう。
確かに“今のところ”害は無い。

そこでささやかな疑問が生まれた。
犬に見えるんなら猫はどうなんだろうか。

「ねえ垓さん、猫に代わってくんない?」

猫の「模糊」が目を覚ますと、
「撫でて」のおねだりに応えながら聞いてみた。
「あそこに誰かいる?」
「ええ、いるわよ。黒に花柄のワンピースの女」
やっぱり見えるのか・・。
まあ、もう気にするまい。
次の瞬間、「模糊」は意識を失った。
閉じられた瞼の奥で眼球が目まぐるしく動いている。
彼女達が別の人格に代わる時に見られる現象だ。
しかし。
いつにもまして眼球の動きが激しく、
そして長い。

“彼女”が目を覚ますと、
近くに置いてあったペットボトルのお茶に飛びついて、
それを飲み干し、
「ここ、どこ?」
と聞いてきた。
まさか。
「乗り移った・・?」
「??わからへん・・」
きっとそうだ。
幽霊が本当にいたとしても、
彼女達の脳が作り出した幻だとしても、
この状態はきっとそうなんだ。

つづく
彼女達と知り合って3週間ぐらい経ったある日、
自宅にいた僕に恵から
「頭が痛くて辛いからそばにいてほしい」
という連絡があった。
心配になって行ってみると、
割れそうな頭の痛みに苦しんでいる恵がいた。

当時、
彼女達は6人だったのだが、
新しい人格が生まれる度に同じような痛みがあったらしい。
そう、今、新しい7人目の人格が生まれようとしていた。

しばらくすると恵は意識を失った。
駆け寄り、呼びかけても反応は無い。
1分?2分?
まるで死んでいるようだった。
すると、
急に起き上がり、
押し倒され、
僕は勢い良く首を絞められた。

なんとなく予想していたことだった。
オリジナルの人格に
「血が好きで感情があまり無いらしい」
なんてことを言われていた恵とすら、
何事も無く仲良くなったが、
やはり多重人格者の
“いい話”
なんてものはあまり聞いたことが無い。
“このまま何も無いのはおかしい”
という妙な感覚がずっとあった。

つづく
心は18歳の男だ。
身体の性別は女。
つまり心が出ている時は
性同一性障害も兼ねているようなものだ。

詳しく書くのはアレなので
避けるが、
最近ついに童貞を捨てることに成功した(笑)
出てくる度にレズビアンのサイトをチェックしてたからなあ。
またコイツの好みがウルサイのである。
14~30歳でスリムで巨乳な女性限定。
でもいざ理想の女性が目の前にいると何も出来ない。
そんなかわいい弟という感じなのが心だ。
昨夜、寝ていたところを
「千」に起こされた。
なんと目が見えないという。
驚いた僕は、
今のところ全ての人格の事を把握している
「垓」を呼び出して聞いてみた。
すると
「もう。起こさないでよ、寝てたのに。
どうして千さんの目が見えなかったか?
アタシは全ての人格をリアルタイムで把握しているの。
だからアタシが寝ている時の記憶、
アタシの知りえない事があると、それはエラーなの。」
というようなことを言った。

他の人格にとって“寝ている”とは、
肉体のそれよりも自分が出てない状態を指す。
何故なら彼女達は肉体が寝ている時も
常に入れ替わっているからだ(それが顕著に出るのが寝相だ)。
だがこの「垓」は他の人格が身体の主導権を握っていようが、
身体そのものが寝ていようが、
自分の意識があるのだ。
彼女にとって本当の眠りは
一日に一時間程度、
肉体が寝ている時に訪れるらしい。

また、
彼女は他の人格が出ている際に
“内側”から話しかけることが出来る。
つまり、
一つの脳が同時に二つの思考をしている
ということであり、驚く他無い。

彼女たちと知り合って一年近いが、
いまだに驚くことが多い。

余談だが、
犬の人格「ラブ」の時は
世界がモノクロに見えている
そうだ。
これはオリジナル人格が
犬は色盲である
という事を知っていたからに他ならない。
また新しい人格が生まれた。
名前は「垓(がい)」。
26歳の女性で、
顔つきや雰囲気、声は「恵」に酷似している。

特徴としては、
1.自分より古い人格全員分の記憶の保持。
2.他人格が出ている時に、
 名前を呼ぶことで出てこられる。
3.自分が出ている時に、
 他人格に代わることが出来る。
と、ここまでは「零」「厘」「京」の3人も
持っている能力だが(2と3は自分より古い人格に限る)、
この新しい人格は
4.自分が出ている時でも、
 そうでない時でも、
 他人格に話かけることが出来る。
という能力を持っているというのだ。

今日生まれたばかりなので、
まだ解らないことが多いが、
仲良くしたいと思う(小学生か・・)。

那由他。
14歳女性。
対人恐怖症。

初めて彼女と会った時は、
どこかに隠れてしまって
まともに話も出来なかったけど、
最近はやっと笑顔で話が出来るぐらいになってきた。
が、
僕以外の人間はやっぱり恐いみたいだ。

僕が仕事等で居ない時に
彼女が出てきた時は、
恐いからずっと布団をかぶって過ごすそうだ。

もう彼女を一人ぼっちにしたくないと思った。
妙ちゃん。
5歳の女の子だ。

“彼女達”には2種類のタイプがある。
一つは、
オリジナル人格の元々ある多面性の
一部分が強調されて作られた人格。
もう一つはオリジナル人格の過去の姿。
妙ちゃんは後者だ。

当たり前で、
相手は子供なのでこちらが与える立場になることが
圧倒的に多い。
折り紙を教えて遊んであげたり、
絵本を読んであげたり、
ご飯を準備したり、
お風呂に入れてあげたり。

何度か夜中に妙ちゃんが出てきて、
叩き起こされたかと思えば、
「絵本読んで!」
でもやっぱり怒れないんだなあ。
子供だから。
刹那。
普段は“刹那さん”と呼んでいる。
彼女のキャラクターがそうさせるのだが、
「めぞん一刻」の響子さんと言えば解ってもらえるだろうか。
また、性格的にも役割的にも”管理人さん”といった感じだ。

家事が好きで、
読書が好きで、
物腰柔らか。

ただ、
そんな彼女だけどもう一つの特徴としては、
時に“冷たさ”すら感じることもあるほどに
現実的に物事を考えることだ。
まず自分の保身を考える。
彼女がいかにも他人に好かれそうなキャラなのも、
半分ぐらいは
“そのほうが得”という理由からだからだ。
もう半分はそういう風に作られたから。

でもそんな彼女のことも
とても人間らしいと思うし、
愛している。

あなたがいるから“いつ死んでもいい”って思うけど、
あなたがいるから“死にたくない”ってもがくの。

恵と付き合う上で、
案外と障害は感じなかった。
ただよく言われたのは
「いつ消えてしまうかも知れないのに」
ということだった。
でも普通の人間だって何時、
事故や病気で突然“消えて”しまわない保証があるだろう。
だからそんなことは僕には大した問題では無かった。

僕と恵は、
他人が見たら頭に“バ”が付いてしまうぐらい、
普通のカップルだ。
僕は好きになった恵を
どこかに遊びに連れて行こうと思った。
不安や孤独を一時でも忘れさせてあげたかった。
また、彼女の笑顔を沢山見たいと思った。

そして数日後、
彼女と神戸でデートをした。
プリクラを撮ったり、
お茶を飲んで話をしたり、
観覧車に乗ったり。

どれも彼女がくだらないと思っていたことだし、
自分がそれをするなんて想像もしていなかっただろう。
僕達は普通の男女のように楽しんだ。
いや、
僕達は20代のごく普通の男女に他ならなかった。
恵は沢山、笑顔を見せた。