23/10/12 藤岡陽子 波風 | ptureのブログ

お初の作家の短編集。一話目は二人の女性看護師が沖縄に行く話。旅行の他に主人公の友人のほうが元彼に会いにいく。二話目は重病で手術中の母親を待機室で待つ娘と継父の話。三話目は二人の姉弟を引き取って育ててくれたおばさんと姉の、弟おごりの外食での風景。四話目は野球部の二人の高校生の話。五話目は着付け教室に参加したおじいさんと主人公の若い女性の話。六話目は介護老人ホームでバイトする主人公の青年がお見舞いに来るきれいな女性に惚れる話。七話目は金優先のひどい個人病院で働く女性事務員の話。バリエーション豊かでどの話もお、って意外性があって、ついつい次の話を求めちゃう。継父、屋なやつだと思ったけど、実はいいヤツなんじゃないって展開はテッパンだけど好き。ほっとする。おばさんにとかく反抗して、気丈で明るい叔母さんを悲しませた弟くんが、しっかり大人になって叔母さんへの感謝がいっぱいのいいやつに育ってるハッピーさよ。これもテッパンだけど涙ぐんでしまうぞ。天才的な才能を持つ友人にかかる悲劇。目をそむけたいけど、それでも周りを明るくする友人。義手に何度も助けられる主人公。切ない。切ないけどいい話だな。そして主人公、友人の分までしっかりがんばってるじゃないか。それを押し隠してる雰囲気がまた彼をいつまでも忘れたくないって気持ちに転嫁されてて、なんて染み入ってくるんだろう。女性だらけの中のおじいさん。奥さんへの愛の無骨なれど半端なさがこれまたすごかった。そしておじいさんに喝采を送る教室の女性たちという存在もまた清々しいなあ。お見舞いにきてた女性と死に際のお母さんとの仲直り。よかったねえ。ひでえ病院だ。怒りを覚える。でも、一方で主人公はそのおかげでもしかして幸せをつかめるかもしれない。人生なんてそんなものと、ほっとする。いろんな感情がほとばしる。静かな文面にもかかわらず。これはいい短編集。おもしろかった。