[粒子線治療][陽子線治療][菱川良夫] 名誉センター長のこばなし ~がんから学ぶこと~ -36ページ目

[粒子線治療][陽子線治療][菱川良夫] 名誉センター長のこばなし ~がんから学ぶこと~

一般社団法人 メディポリス医学研究所
メディポリス国際陽子線治療センター 名誉センター長
菱川良夫による講演からの小話。

昨年12月中旬、お昼の情報番組で当センターが紹介されました。
内容は、以下のアドレスをご参照下さい。

「山本晋也の人間一滴~がん治療最前線 陽子線による粒子線治療」
http://www.tv-asahi.co.jp/onair/info.php?b=scramble&id=4195





放送直後から、センターには治療についての問い合わせが続きました。

過去の経験から、放送直後に寄せられる問い合わせの多くは適応外の症例です。
今回も同じく、そのような電話が多数寄せられ、対応に当たってくれたスタッフは大変そうでした。

2週間経った時点で調べてみると、通常の問い合わせより2倍以上もの問い合わせがあったそうです。

私の講演では、地道に陽子線治療のことをお話ししていますが、テレビ放映の直後には、テレビの影響の大きさを再確認させられます。



今までにも、何度かテレビ番組で当センターが取り上げられたことがあります。
しかし、今回のテレビ放送は今までとは違いました。

何が違うかと言うと、製作者の気持ちです。


撮影では、実際に山本晋也監督が指宿まで来て下さいました。
山本監督は、事前に私の本を読んで下さっており、私の思いを取材に生かして下さいました。

映画と同じく、出演者や製作者の気持ちは映像に現れます。
それを痛切に感じさせられた番組となりました。

熱い気持ちで取材に臨んで下さった山本監督には感謝しています。
山本監督、ありがとうございました。




続いて、放送を見て、問い合わせ ~ テレビ相談となった患者さんとのやりとりをご紹介します。

患者さんは、多発肝がんの元気な高齢者です。
かかっている病院では、カテーテルを使っての抗がん剤治療とラジオ波で焼く事を勧められたそうです。

この治療方法は、これらの治療には適していない(難しい)場所もあります。
この患者さんもそのケースで、主治医から「完治は難しい」と説明されたそうです。

そう考えて焦っている時に、たまたま放送を見て、
「自分の受ける治療は、陽子線治療だ!」と強く感じたそうです。


しかし、「治すのは難しい」=「治らない」ではありません。


ご本人とご家族からよく話を聞いてから、私は以下のように考えを述べました。


「抗がん剤やラジオ波は、肝がんに対して大変有効な治療です。
まずそれらを行ってみて、もし難しい場所にがんが残ってしまったら、それから陽子線治療を検討しましょう。陽子線治療も含めた総合力で治すのが良いと思います。」

ご本人ご家族ともに良く理解して下さり、現在の病院での治療を頑張る気持ちになられました。



今の時代は、がんの治療方法がたくさんあり、選択することが出来る時代です。

1つの治療法に固執するのではなく、幾つかの治療を組み合わせることで、治る可能性が高まります。
そういった可能性を探るためにも、大切なのはセカンドオピニオンを受けることです。


何度も言います。

セカンドオピニオンは、恥ずかしいことではありません。

セカンドオピニオンは、あなたがあなたを救う為に認められた権利なのです。
世の中の仕事は、「官が主」「民が主」「そのどちらでも」という3つの形態で行われています。

「そのどちらでも」で行われている代表は、教育機関や医療機関です。


医療機関である当センターは、民間で粒子線治療を行っています。
このように民間で粒子線治療を行っている施設は、南東北がん陽子線治療センター(福島県郡山市)に続いて、2つ目です。


民間の医療機関で行う治療は、国家プロジェクトとして行う大学や研究所の治療とは異なります。


「民間の良さを生かすにはどうすれば良いか」

民間の医療機関の長として、私は日々このことを考えています。





本屋の啓発本コーナーでは、成功している民間事業の成功事例が本になって紹介されています。
中でも、ディズニーランドやリッツカールトンに関する本は何冊も出版されています。


前者では、そこで働く人たち(キャスト)がどんな職種でも楽しんで仕事をしており、
楽しく働いている人の姿・表情を見て、ゲストも楽しくなることが紹介されています。

後者では、お客さんのトラブルに対して上司の判断を仰がず、一定の予算内で対応ができるシステムが紹介されています。


これらを参考にして、当センターでは働く人が楽しく幸せになれる職場環境を整えてきました。

託児所の開設もその一つです。



また、常々「『自分が幸せになること』を大切にしなさい」と言ってきた結果、
言霊効果もあってか、多くの職員は以前と比べて楽しそうに働いています。

そんな姿を見て、私も楽しくなります。


最近、高齢者の患者さんが「遠方の自宅に資料を持ち帰るのが困難だ」と職員に相談したそうです。それに対し、その職員は、自分の判断で宅急便で配送することにしました。

後からこの報告を受けましたが、私はこの職員を褒めました。
医療の現場でも、このような事が大切で、これは民間だからこそ出来るサービスです。



古い職員の中には「病院はサービス業ではない」という感覚が抜けず、なかなか馴染めない者もいます。


しかし、私の思いを感じ取り、行動に移してくれる職員は確実に増えており、
多くの患者さんが、そこから「幸せな医療の提供」を感じてくれていると確信しています。
明けましておめでとうございます。
皆様にとって良い年であることをお祈りしています。




新しい年を迎えて最初のこばなしです。

当センターは、2011年1月11日の治療開始から、間もなく丸3年を迎えます。
この3年間のセンター運営を通して、粒子線治療はどうあるべきかが少しずつ分かってきました。

今回のこばなしでは、現段階での私の考えを少しまとめてみたいと思います。



1)粒子線治療装置の安定性

当センターは、広大な敷地内に建てられており、その中に余裕をもって粒子線治療装置が導入されています。
これは、装置の維持管理の面で非常に良い影響を与えていると考えています。

最近では、都会の病院に粒子線治療装置が導入されはじめていますが、都会は地価が高く、十分な場所を確保できないため、小型タイプの装置が開発・導入されています。

粒子線治療に関わって20年になりますが、ユーザーの直感として「小型にすることでビーム調整などの維持管理が難しくなるのではないか」と懸念しています。

しかし、日本は世界有数の技術国家です。
日本のメーカーは必ずやこれらを克服することでしょう。期待しています。



2)難治がんへの応用

陽子線治療では、回転ガントリーを使用することが可能です。
(回転ガントリーについては、前回のこばなしをご覧下さい)

第127回 回転ガントリー
http://ameblo.jp/ptrc/entry-11739066718.html


前回もお話しした通り、この回転ガントリーを自由自在に扱うためには、チーム力の向上が不可欠です。
この3年間、センターの使命を「幸せな医療の提供」と明確に打ち出してきたことで、センター全体のチーム力は格段に向上しました。

国内プロサッカーリーグに例えると、3年前にJリーグ に参戦してきたチームが、J1優勝を狙えるチームへと変貌してきたと言えるかもしれません。



最近は、熱心な医師や医学物理士、技師が高精度なX線治療装置を使用することで、
X線治療でも前立腺がんや小さな肺がんを、粒子線治療と同等に治療できる時代となりました。

そんな時代に、回転ガントリーを自由自在に使える我々が取り組んできた治療は、
他の粒子線治療施設や、他の治療方法で治療が困難と言われた難治性がんに対しての治療です。



この取り組みの結果、難治性がんの代表である膵がんの治療実績が急増しています。

膵がん治療の治療計画は非常に高度ですが、カンファレンスで膵がん患者さんの治療計画を見る度に、素晴らしいチームが回転ガントリーを巧みに使い計画を立てていることに感心させられます。




我々のもう一つの使命として、乳がん治療のための回転ガントリーを開発してきました。

最大の課題であった乳房の固定方法も目処がつき、
今年から小さな乳がんの治療を開始する予定です。



我々のチームが、ガントリーを自由自在に扱えるチームに成長したことは、センター長としてとても誇らしく、嬉しく思っています。

2014年も、我々はさらなる高みを目指し、幸せな医療を提供し続けることをお約束します。
当センターでは、『回転ガントリー』と呼ばれる巨大な回転装置を使用しています。
その大きさはと言うと、直径約10m、重さ約175トンにものぼります。

この装置は、陽子線治療に特有の巨大装置で、その一部は、治療室の一部も担っています。





がんは、体の中に立体として存在します。

陽子線治療では、ボーラスという補償フィルターを使うことで、1方向から照射したビームを立体的な照射野(照射される範囲)として作り出すことができます。

さらに照射する方向を増やし、2方向から照射すれば、前立腺がんや小さな肺がんのような簡単な治療では、がんにほぼ一致する照射野を作り出すことが可能です。


回転ガントリーで患者さんに陽子線を照射する場合、体の真上から照射する位置を0度とし、そこから体の真左を90度、体の真右を270度としています。


例えば前立腺のがんの場合、体の左側(90度)と右側(270度)から陽子線を照射して治療を行っています。
この場合、単純な真横からのビームのみで治療が行えるので、回転ガントリーは不要です。
(ただし、右側と左側で治療台上の患者さんの頭の位置が正反対になっています)


一方、膵臓にあるがんなど、複雑な部位にあるがんの場合、様々な角度の組み合わせで最良の照射野を生み出しています。

3方向や4方向から照射することも少なくなく、それぞれ角度が異なるため、回転ガントリーがなければ治療は行えません。


回転ガントリーを使用する上で最も重要なのは、治療計画です。

当センターの治療計画は、治療計画チームが作った治療計画をチーム内のミニカンファレンスで何度も検討し、カイゼンを行って作られています。
それをさらに朝夕の医療部全体カンファレンスで再検討し、最終的な治療計画が決定しています。

がんの位置から回転ガントリーの最良な角度を導きだすことは、治療計画チームが日々研鑽をしている賜物です。


回転ガントリーは、陽子線治療の幅を広げ、難治がんの治療をも可能にする優れた装置です。

これからも、我々はこの回転ガントリーを使用し、幸せな医療を提供し続けます。