[粒子線治療][陽子線治療][菱川良夫] 名誉センター長のこばなし ~がんから学ぶこと~ -34ページ目

[粒子線治療][陽子線治療][菱川良夫] 名誉センター長のこばなし ~がんから学ぶこと~

一般社団法人 メディポリス医学研究所
メディポリス国際陽子線治療センター 名誉センター長
菱川良夫による講演からの小話。

先日の講演会終了後、保険会社の女性から「私のお客様のセカンドピニオンについて相談をしたいのですが...」と声をかけられました。

この女性の保険に加入されていた患者さんは、難治がんを患う70代の女性でした。

難治性のがんですが、運良く手術で対応できるようです。
しかし、本人の気持ちが手術をうけることを拒んでいるとのことです。


色々と話を聞いている内に、保険会社の女性が患者さんに電話をかけました。
その後、その電話を渡された私は、電話越しに患者さんと直接お話しをさせていただきました。


直接声を聞くことで、この患者さんが「なぜ手術を受けたくないのか」が浮き彫りになってきました。

彼女は、ご主人の介護を10年以上続けており、治療後も続ける必要があったのです。
彼女は手術によって体力が低下すること、自分自身も介護が必要になる可能性を危惧していました。

詳しく話しを聞くと、その事を主治医の先生には伝えていないとのこと。
手術を勧めた外科の先生も、この介護の話を知ったら、手術を勧めないかもしれません。

難しい問題だと考えさせられました。


また、セカンドオピニオンという権利も理解されていませんでしたので、セカンドオピニオンの概要とセカンドオピニオンの受け方についてアドバイスをしました。



セカンドオピニオンを受けることは大切です。
しかし、その前に主治医の先生に自分の置かれている状況、心情をきっちりと訴えて下さい。

「先生は忙しいから、こんな話をしていいのかなぁ…」

そんな風に考える患者さんは少なくありません。
しかし、きちんとした先生であれば、親身になって対応してくれるはずです。

なぜなら、相手の気持ちになって考えることは、医療の基本だからです。


保険会社の女性が取った行動は、本当に優しさ溢れた行動だったと思います。



高齢化が進む先進国では、「介護」は避けることのできない現実問題です。

「病」を治すだけが医療ではありません。
本当の医療とは、患者さんの置かれている状況、気持ちを理解して、「人」を治すこと。



全ての医療人がこの原点を忘れることなく行動すれば、幸せな医療が提供できます。
全てのがんが完治する時代はいつ来るのでしょうか。

がんはまだまだ完治が難しい病気です。
そのため、日々、基礎的・臨床的に医学研究が続けられています。


臨床研究の大きな特徴の1つに、研究者である医師が決めた研究計画に合致しなければ、その研究に参加することができないことが挙げられます。

がん研究で有名な大学や研究所のホームページ等、各々の情報提供媒体には、そのがん治療に参加できる条件などが書かれていますが、多くの患者さんは見ていない or 文言が難しく理解しきれていないと考えています。

がん患者さんは、がんの治療を求めてがん研究で有名な大学や研究所を訪れますが、必ずしもこれらの施設で求める治療を受けられるわけではありません。


また、医師の診察を受けて「治療可能」と判断されたとしても、運悪く参加条件に合わないために(臨床研究としての治療からは)除外される場合もあります。

例えば「年齢制限が80歳」と設定した臨床研究では、すこぶる元気で治療が可能と判断された83歳の患者さんは治療を受けることができません。


研究が始まれば、基本的に条件変更は行いません。
なぜなら、医学研究は一定の条件下でデータを収集することで、研究の精度を高めているからです。

冷たく聞こえるかもしれませんが、これらの目的は、医療行為もさることながら、未来にむけての臨床的な研究なので、これはこれで重要な役割を担っているのです。


一方、医療を目的としている施設では、治療ができる可能性を見出せば、時間をかけて治療のメリット・デメリットを説明します。
その上で、治療を受けるかどうかの意思決定を患者さんやご家族にしてもらいます。

「研究」という文字が含まれる当センター(メディポリスがん粒子線治療研究センター)ですが、我々の施設も医療を目的として運営しています。


では当センターの「研究」は、どこから名付けられたのでしょう?
これは、我々のもう1つの命題「乳がんを切らずに治療する挑戦」から付けられました。

当センターでは、今年から乳がんに関する医学研究を開始します。

これは先述の臨床研究ですので、年齢制限など様々な条件を設けています。
もちろん、条件を満たすことが出来なければ参加することは出来ません。

研究期間には数年を要す見込みですが、研究を通して、乳がんに対する陽子線治療の効果が確立されたら、時期をみて乳がん治療を医療として行うつもりです。


当センターで乳がん用に開発した治療装置を使い、治療を確立する。

「乳がんを切らずに治す陽子線治療」
南九州から世界に向けて、新しい光を放つ時が近づいています。
以前のこばなしで、大阪で講演を行った際のユニークな質疑応答の様子を紹介しました。

第18回「大阪の文化」
http://ameblo.jp/ptrc/entry-11091530613.html


今回も、大阪で講演をした際の面白い質疑応答の様子をご紹介します。
先月末に大阪で行った講演での質疑応答です。

期待を裏切らないユニークな質問が相次ぎましたが、私が最も印象に残っている質問を1つご紹介します。


「たんこぶができているのですが、粒子線治療はできますか?」

この質問には、以下のように回答しました。

「たんこぶはがんではないので、治療することはできません。粒子線の治療装置は、がんの治療装置として国に承認されているので、がん以外の治療は行えないのです」


このように答えて質問者を見ているうちに次のことを加えてしまいました。

「たんこぶは、こぶとりじいさんにお願いして下さい」

この言葉に、質問者も会場も大喜びでした。
大阪ではこのような回答が許されますが、他の場所では難しいでしょう。


40年以上前の大学の講義で、ある教授が「講義中に新しいひらめきが起こる」と話していました。
その時は半信半疑でしたが、こうやって講演をしていると、講演中に新しい治療方法や患者さんへの対応がひらめくようになりました。

詳しくは分かりませんが、「講演する側」と「講演を聞く側」の間で意見がぶつかり合うことで、新しいアイデアが突然頭の中に浮かんでくるのではないかと考えています。


このような「ひらめき体験」をしてしまうと、ますます講演が楽しくなります。
そこでひらめいたことを元に、考えを整理して、新しい挑戦を続けています。

これからも、講演する側も、講演を聞く側も楽しめて学べる講演を目指します。
先日、「かごしま県民大学」で講義を行いました。
これは、県下全域を生涯学習のキャンパスとすることを目指した鹿児島県の構想です。

今回もいつも通り、がんの話、粒子線治療や指宿の施設の話、生活習慣の話をしました。

 


講演終了後、約15分間の質疑応答を終えて、帰る準備をしていたところ…
何となく見覚えのある男性が挨拶にいらっしゃいました。奥さんと2人です。

すぐに、以前私がセカンドオピニオンをした方であることを思い出しました。


約2年前、顔の奥のがんと診断されたこの男性は、紹介もとの病院で手術を勧められたそうです。
手術を受けるのがどうしても嫌で、色々と調べて、当センターに相談にいらっしゃいました。

病状を聞き、様々なデータに目を通してから、
「この場合は陽子線治療よりも、化学放射線治療が最適であること」「手術の代わりにその方法を受けてみるのが効果的であること」をアドバイスしました。


それから、ご家族で検討され、紹介もとの病院で手術を受けず、化学放射線治療を受けられたのです。

2年以上経ちますが、元気な姿で挨拶をしに来てくれたことがとても嬉しく感じられました。


今までのこばなしにも書いた通り、セカンドオピニオンでは、そこでの治療方法や効果を聞くだけではなく、他の治療方法についてもその医師の意見を聞くことができます。

それでも納得できなければ、第3、第4の医師にも意見を聞いて下さい。



以下が、私のお勧めする主治医の先生への質問です。

「先生や先生のご家族がこの がん だったら、どの治療を選ばれますか?」

手術をすると決まったら、
「先生が手術をするとしたら、どこの病院のどの先生にしてもらいますか?」


このようにお話しをすると、「そんな風に聞いていいのですか?」とよく聞かれます。

大丈夫です。本当のがんの専門家は誠意ある回答をされます。

誠意ある医師は増えています。良い先生との出会いを大切にしましょう。
北海道で行った講演終了後、「私の家族の治療はできますか?」と質問を受けました。

話を聞くと、粒子線治療が適応になりそうな状況でしたが、即答は出来ない為、
主治医の先生からの紹介状と資料がなければ正確に回答できない旨を伝え、それらをセンターに送っていただくようお願いしました。

数日後、センターに資料が届けられました。
他の医師にも見てもらい検討しましたが、残念ながら粒子線治療の適応外と判断。

その旨電話でご家族にお話しし、主治医の先生には紹介状の返事をさせていただきました。


同じ時期に中国の方からも問い合わせがありました。

ビジネス関係の会社を通じて、センターにお問い合わせ下さり、資料を送付して下さったのですが、こちらも検討の結果、適応外となりました。

「適応外と判断させていただいたので、指宿に来ていただいても治療ができません」
と、その会社の担当者に伝えたのですが、そこから先に上手く伝わっておらず、結局、患者さんとご家族の4人が指宿にいらっしゃいました。

指宿に到着されたのが遅い時間たった為、翌日の朝から、中国人医師を介してセカンドオピニオンを行いました。


病状について再度よく聞いた上で、こちらの考え(粒子線治療が適応外であること)をお話ししました。

「どうして適応外になるのか」と言う部分が、なかなかうまく伝わりませんでしたが、時間をかけて説明していくうちに最終的に理解されました。

続いて、代替治療での最善の治療方法について言及しました。
その結果、日本での治療を希望され、希望される病院への紹介状も書きましたが、最終的には中国で治療をすることになったようです。



当センターでは、遠方の患者さんの場合、資料を送っていただいてから対応をしています。

関西にはテレビ会議システムを備えた「メディポリス オフィス大阪」があります。
オフィス大阪に足を運んでいただければ、これらを利用して相談を受けていただくことが可能です。

メディポリス オフィス大阪
http://www.medipolis-ptrc.org/office_osaka.html


いずれも、センターで行っているセカンドオピニオンと内容は大きく変わりませんが、無償のサービスとして行っています。





中国から来て下さった患者さんには、大変申し訳ないことをしたなと感じています。
間に入って下さった会社の方を通じての対応となってしまった為、患者さんと直接やり取りを行わなかったことで、御足労をおかけしてしまいました。

これらを良い教訓として、海外も含めた遠方に住む患者さんやご家族との連絡方法を見直し、問題の起こらないシステム作りに着手しています。


私は、センターに関わる世界中の全ての人に、幸せな医療を提供したいと考えています。
その為には、幸せな医療を提供できるシステムが必要です。

これを「幸せなシステム」と名付けます。


我々は、これからもカイゼンを積み重ね、幸せなシステムを構築していきます。



今回のこばなしに関連するこばなしも併せてご覧下さい。

第92回 がんのタイプによって異なる治療の選択肢
http://ameblo.jp/ptrc/entry-11520343245.html