[粒子線治療][陽子線治療][菱川良夫] 名誉センター長のこばなし ~がんから学ぶこと~ -33ページ目

[粒子線治療][陽子線治療][菱川良夫] 名誉センター長のこばなし ~がんから学ぶこと~

一般社団法人 メディポリス医学研究所
メディポリス国際陽子線治療センター 名誉センター長
菱川良夫による講演からの小話。

3日続けて、進行性の肺がん患者さんとテレビ相談を行いました。
いずれの患者さんもお元気で、3人ともご夫婦での相談となりました。


進行性のがん患者さんの場合は、いつもに増して話を聞くようにしています。

そうすることで、難しい進行性がんに対する患者さんとご家族の理解度が判断でき、主治医からどのように説明を受けているかを聞くことで、主治医との関係もわかってきます。

現状に対する患者さんの考えや思いを聞いて行くうちに、どのように説明をするかの方針を決定し、理解度に合わせてゆっくり優しく話すようにしています。

こちらの話をあまり聞かないで、次のことばかり考えている患者さんもいらっしゃいますが、何度か話しているうちに理解して下さいます。


今回の3人の患者さんは、今すぐの陽子線治療の適応とはなりませんでした。
適応にならない患者さんに「どうして適応にならないか」「今すべき治療は何か」を理解できるまで丁寧に説明します。


今回の患者さんたちとは、短い方は30分、長い方とは1時間20分お話をしました。
1時間20分の相談は過去最長時間です。


若い医師へのアドバイス。
進行例の患者さんこそ、時間をかけて話を聞いてあげて下さい。
先日、老夫婦がセカンドオピニオンにいらっしゃいました。
80代の旦那さんと、70代後半の奥さんです。

相談内容は、奥さんの肝臓に転移したがんについて。
術後の転移で、肝臓の画像には数個の小さな転移性がんが見られました。

お住まいの近所の方がセンターでの治療を過去に経験されており、その方の話を聞いてセカンドオピニオンにいらっしゃったとのことです。



セカンドオピニオンに複数の方がいらっしゃった場合、全ての人から病気のこと・病状・経過についてよく聞くようにしています。

そして、主治医の先生から今後の説明(治療方法など)を受けている場合は、それについても詳しくヒアリングします。

センターの陽子線治療についてどのような考え・思い・イメージを持っているのか。
これは非常に大切な情報なので、言葉にしてしっかり伝えてもらっています。


これらを聞いているうちに、患者さんの理解度、考え方が分かってくるので、それに合わせて説明を行います。



今回の場合、お2人は「肝臓にある小さな転移を小さなうちに粒子線治療で治すのが最良だ」と思われていました。


以下、その考え汲み取った私の説明です。

『(CTを使って)目に見える小さな転移が肝臓にある』ということは、『(画像診断で)目には見えない転移が全身の血管の中にある可能性が高い』ということです。
目に見えない血管の中のがん治療に最も効果を発揮するのは抗がん剤治療です。

現時点で奥さんに必要な治療は、陽子線治療ではなく抗がん剤の治療です。」


「センターでは治療をしない」という宣言を受けて戸惑った様子でしたが、同じ話を丁寧に繰り返したところ理解して下さり、紹介元の病院で抗がん剤治療を継続することとなりました。


セカンドオピニオンで最も大切なことは、「患者さんの理解」です。

理解への第一歩は、患者さんとそのご家族の方の話をよく聞くこと。
その理解度に合わせて、説明をすることで理解が深まります。


「説得」と「理解」は全く違います。

「説得」は、一方的に医療者側の意見を押しつけること。
「理解」は、患者さんを教育し、同じビジョンを共有させ、同じ方向に一緒に進むこと。

体系立てて説明すれば、どんな人でも必ず理解ができるのですが、
自分自身に余裕がなかったり、時間がない、面倒くさいなどを理由にそれを怠る医療者が後をたちません。


皆さんは、話し相手の言葉に耳を傾けていますか。
聴いているフリをして、次に話す内容ばかり考えていませんか。

会話の主導は話している側ではなく、実は聴いている側が握っています。
聴くことを疎かにして、理解は出来ません。


相手の声に耳を傾けられる医療者が増えれば、日本の医療はより良くなるのではないでしょうか。
昨年、土曜日に鹿児島で、翌々日に東京で講演をした日がありました。

同じようなお話しをしたのですが、地域によって反応が全く異なります。
この違いを感じられるのは、講演者である私の特権であり、楽しみの一つです。

それぞれ熱心にお話しを聞いて下さる姿勢は同じなのですが、何かが違います。
「田舎と都会の違い?」とも考えましたが、どうも違うようです。

時間や空間の違いによるものなのかもしれませんが、わかりません。

「歌手やオーケストラが各地でLIVEをする時にも、このような違いを敏感に感じているんだろうか?」と考えましたが、当事者ではないので答えが出ません。

ただ、ひとつ言えることは...
日本のような小さな国の中でも、それぞれの地域で違いが感じられるということは、地球レベルでいえば、何処にでも違いがあるということです。


30年以上前、JICAの専門家として行ったチリで半年間を過ごしました。

チリは、隣のアルゼンチンやぺルーと仲が悪かったそうです。
国境が接しているので、国境付近で小競り合をくり返し、仲が悪くなっていくとのこと。


日本は周りが海に囲まれている為、明治時代までそのような経験がない稀有な国でした。

日本人は白黒をつけたがる国民性があるので、多くの日本人は「仲良くならなければ隣国とは付き合っていけない」と考えてしまいがちですが、別に仲良くなくてもあっさり付き合っている国が世界には数多く存在します。

国家間に関しては、孔子の言う「中庸の心」が大切なのだと思います。


今回のこばなしは、各地の講演の雰囲気の違いから日本と隣国の関係改善を考えるこばなしとなりました。

様々なことに興味を持ち、情報を収集すると、あるとき全く関係のなかった物同士に関連性を見つけることができます。

みなさんも、突拍子もないもの同士を組み合わせ、関連性を探しだしてみてください。
とても良い脳のトレーニングになりますよ。
朝のカンファレンスには、「承認」という項目があります。

これは、治療計画作成チームが作った各患者さん別の治療計画を皆で検討し、その患者さんの背景等、様々な情報を各部門で共有・確認しあい、最終的にセンター長である私が承認する(実際の治療計画として採用する)というものです。

ホームページ「治療の流れ」 6、7相当部分
http://www.medipolis-ptrc.org/flow.html



今回は、ある承認での出来事をお話しします。
この日検討していた患者さんは、遠方から治療に来られていた女性の患者さんです。

最初に担当者から彼女のカルテが読み上げられました。
なんとここに、ご主人が2年前に当センターで治療を受けていたことが記載されていたのです。

ご主人のカルテを調べてみると、ご主人の治療中に奥さん(今回の患者さん)が付き添っていたことが記録されていました。

スタッフに「このご夫婦以外にセンターで、夫婦・兄弟・親子の治療をした記録はありますか?」と質問したところ、このご夫婦が1組目とのこと。


このご夫婦にとっては2回目の粒子線治療です。
この2回目に近場の施設ではなく、遠方の当センターを選んで下さった。


これは私達が取り組んできた「幸せな医療の提供」に対する答えだと嬉しく思い、スタッフ皆で素直に喜びました。

これからも真面目に幸せな医療を提供し続けることで、付き添いの方(パートナー)にも伝播し、このようなことが増えてくると感じています。

なお、現在もご主人は元気に仕事を続けられているそうです。



かの有名な中国の思想家 孔子は「忠恕(ちゅうじょ)」が大切だと説かれました。

「忠は、心からの親切(真心)」であり、「恕は、おもいやり」です。

最近、複数の本で立て続けにこの言葉に出逢ったので、スタッフにも伝えました。
医療人としての基本の基本ですね。
早いもので、当センターが治療を開始してから3年が経ちました。

3年前のセンターから現在を考えると、スタッフも装置も想像を超えたチーム力とパフォーマンスを発揮して頑張ってくれています。
センター長として、チーム力の高いスタッフに囲まれることは誇りです。

頑張ってくれているスタッフの皆には本当に感謝しています。



陽子線治療装置の安定には定期的な維持管理が欠かせませんが、
きっちりと管理された装置は、世界に誇れる優れた医療装置です。

3年でチーム力が飛躍的に向上した我々のチームは、この装置を自由自在に扱うことができます。
これにより、いままで難治とされていたがんの治療も可能となりましました。


「当センターは2011年にJリーグに参戦して、地道な経験を積み、最近では優勝が狙えるチームになってきた」

これまで色々な取材で、このようにサッカーに例えて語ってきました。
これは、他の施設と比較したわけではなく、財務の面を例えて言った例え話です。

民間の会社や病院が継続するための大切な条件として、「経営の黒字化」は欠かせません。この例では、黒字化を優勝に例えました。


どんなに素晴らしい治療を提供できる施設を作ったとしても、その経営が成り立たず、
治療を提供するスタッフが心身共に健康な状態を保つことができなければ、いつか組織が破綻してしまいます。


正しく優しい、幸せな医療を提供する。組織力を保ち向上させる。
この2つを維持するために、センターの黒字化はセンター長の私に課せられた使命です。



治療開始直後の朝夕のカンファレンスでは、「意見を自由に言って良いよ」と勧めても、意見のない静かなカンファレンスでした。

しかし、3年経った最近のカンファレンスでは、40名を超えるスタッフが参加し、各部署のスタッフが、それぞれの目線から意見を出してくれるようになりました。

部署の垣根を超えて、互いを尊敬しあい、意見の交換ができる。
これは目に見えるチーム力の向上で、非常に嬉しく思っています。


3段飛びに例えると、以下のようになります。

ホップ (黒字化のめどが立つ)
ステップ(黒字達成)
ジャンプ(国内外の多くの患者さんの治療)


3年間で、このホップが終わりました。次はステップです。

これからも変わることなく、患者さんにもスタッフにも、幸せな医療を提供していきます。