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[粒子線治療][陽子線治療][菱川良夫] 名誉センター長のこばなし ~がんから学ぶこと~

一般社団法人 メディポリス医学研究所
メディポリス国際陽子線治療センター 名誉センター長
菱川良夫による講演からの小話。

先日、治療をする現場で小さな「間違い」が起こりました。


陽子線治療は、複数日に分けて決められた陽子線を分割して照射する治療です。

そのため、各治療日における個体差・ポジショニングのわずかなズレを修正する「位置合わせ」という作業が、非常に大切になってきます。

この位置合わせを行うのは放射線技師の仕事で、高い精度が要求されます。


今回の間違いは、この位置合わせが発端です。


この日、ある患者さんの位置合わせを終えた技師がいました。

この技師はあまりにも位置合わせに集中していたため、位置合わせ後、照射も終了したと勘違いし、固定具を外して治療を終了しようとしたのです。


前日までの治療では、位置合わせ後の「照射スタート(スピーカーより)」という声を聞いて、患者さんは照射を確認していた(陽子線治療には痛みなどの感覚が伴わないため)そうですが、それがないことでおかしいと気がつきました。

固定具を外される際、そのことを技師に伝えたことで、治療を行なっていないことに技師も気がつき、それから再度固定・位置合わせを行い、治療を行いました。


このミスに対して、この患者さんは技師に何も言わなかった為、技師も大きな問題とは捉えていませんでした。


治療後この患者さんが、同様の陽子線治療を受けている友人にこの話をしたところ…
「それは、けしからん!」ということとなり、ゲストサービス担当者に訴えたことで、私がこの一連の騒動を知ることとなりました。


このようなことは、現場の技師や看護師、医師で解決すれば良いことなのですが、
今回はセンター責任者である私から、本人と3名の友人に集まっていただき話をしました。

そこで、まず事実について、全く申し訳なかった事を素直に謝りました。


それから、このようなヒューマンエラーが起こったとしても、治療をし忘れることや逆に多く当ててしまうことが出来ないような、装置とシステムが構築されていることを説明しました。

次に、位置合わせがどれほど大変な作業であるかを伝えました。


この話し合いで、4人の患者さんが私の話(現場の大変さ)をご理解下さり、
「現場の技師さんを責めないでください」と言って下さいました。

(勿論、チーム医療を大切にしているので、個人を責めることは今までにもしていません)


当センターの技師は、鹿児島の出身が多いこともあり、実直で一生懸命な者が多く、
この位置合わせが大変な作業であることを患者さんに伝えている者はいません。

しかしこの一連で、これらの裏事情もきっちりと患者さんに伝える必要性を感じ、疾患別の位置合わせ等に関する説明文書を作ることにしました。


これから当センターで治療を受ける患者さんは、位置合わせの大変さを知ることになります。

日々修行です。
指宿市では毎年、「菜の花レディ」と言われる指宿の観光大使を選んでいます。
例年通り昨年の秋、第4代目となる菜の花レディが3名選ばれました。

いぶすき☆ネット ~指宿を知る!遊ぶ!感じる!指宿市観光協会公式~
http://www.ibusuki.or.jp/top/archives/1046/


なんとこのうち二人が当センターのスタッフなのです。

彼女たちから選出された旨の報告を受けた時は、驚きと喜び、誇らしい気持ちで胸がいっぱいになりました。

具体的にどのような仕事をするのか聞いたところ、
指宿の観光大使として、国内外で指宿の広報活動を行ったり、プロサッカーチームが指宿で合宿をする際に歓迎セレモニーに参加したりと、内容盛りだくさんとのこと。




私が最も感心したことは、人前でしゃべることを得意にしていなかった二人が、新年会の挨拶で堂々と振舞っていたことです。

菜の花レディに選ばれたことで、人前でしゃべる機会を持ったり、経済や行政のトップの方たちと交流したりすることによって、一回りも二回りも成長したのだと思います。



まさに環境が人を育てたのです。
私もセンター長として、環境を整える大切さを再確認させられました。


仕事の他に様々な活動に参加することは、その人たちの生き方に非常に良い結果をもたらします。

人生にとって大切な人間力は、こういったところで培われます。

これを読まれている皆さんも、仕事以外のボランティア活動やスポーツなどを通して、様々な人と出逢い、刺激を受け、人間力を磨き上げてください。
数ヶ月前になりますが、50代の医師がセンターに相談に来ました。

話を聞いたところ、彼自身の身体が、進行したがんに侵されており、
「自分の予後については、約半年ぐらいだと感じています」とのこと。

そのような状況におかれた彼には、どうしても叶えたい望みがありました。
それは、「命続く限り、医師として診療を続けたい」というもの。

他の治療法では、治療中・治療直後の仕事は難しいことが予想されますが、
低侵襲治療である陽子線治療ではそれが可能となります。

このがんは激烈な痛みを伴うことで有名なのですが、この時点では、まだそこに至ってはいませんでした。


治療中の具体的なスケジュールは以下の通り。

午前の診療が終わった後、公共交通機関を乗り継ぎ、片道数時間をかけ指宿まで治療へ。
センターも遠方から来る先生に合わせて、通常より遅い時間に治療をするように対応しました。

治療期間は一月以上にも及びましたが、彼の望み通り診療を継続しながら、治療を続けることができました。


センターでの治療を終えた後、約一月で治療をしていない遠隔転移が大きくなり始めましたが、局所での状態はコントロールできていたので、ひどい痛みを伴うことはありませんでした。

その状態でも懸命に診療を続けていた先生ですが、ついに続けることができなくなり入院。
入院後、約2週間で最期を迎えられたとのことです。

先生の見立て通り、半年間の出来事でした。


後日、この先生の治療を依頼して下さった主治医の言葉を聞いて胸が詰まりました。

「彼は陽子線治療を受けたことで、最期の最期まで診療ができたことを幸せに感じていました。そして、センターの治療に心から感謝していました。」


進行したがんに対する治療は応用問題です。

治療の結果、2年、3年...と元気にされている患者さんのカルテを見ていると、嬉しさと達成感がこみ上げてくるのは勿論なのですが、

今回のように最初から根治が難しい症例でも、ご本人の生き方に寄り添う治療を行うことで、尊厳のある幸せな最期を迎えることができます。


患者さん一人一人に丁寧に対応することで可能となる「幸せな医療の提供」。
スタッフの協力によって、それがカタチになって見えたような気がします。
鹿児島、高知、宮崎。4日間で3回の講演を行いました。

地方での講演は、その地方の特徴を肌で感じることができるので大好きです。
今のところ、依頼があれば世界中どこにでも足を運んでいます。

そんな私が、色々な場所を回って気がついたことがあります。

多くの地方に共通しているのですが、陽子線治療のような新しい治療を受けるにあたり、主治医の先生に紹介状を書いてもらうことにとても神経質になる(気を遣う)方が多いということです。


この類の質問を受けたときには、以下のように答えています。

(1)誰のがんですか? 自分のがんですね。

(2)色々な治療方法があります。まず、それぞれの特徴を知ることが大切です。

(3)セカンドオピニオンは、主治医の先生以外の先生に、色々な相談を行うことです。

(4)正直にセカンドオピニオンを受けたいと申し出れば、主治医の先生の多くは、紹介状を書いてくれます。

(5)自分のがんを治す方法をよく知りましょう。それがセカンドオピニオンです。




兵庫の院長をしていた頃の話です。

既に手術を予定していた患者さんと、その奥さんがセカンドオピニオンのためにいらっしゃいました。
そのがんは、陽子線治療や重粒子線治療では治せないがんで、手術が唯一の治療方法でした。

治療方法の選択は正しかったのですが、難しい手術になることが予想されたため、その手術では兵庫県で最も経験のあるA先生に相談することを勧めました。

その後お二人は素直に私の意見に従い、A先生の病院に相談に行かれました。
そこで、A先生から正直に「私が手術する方が良いと思う」と言われたそうです。

それから、A先生は、主治医の先生に丁寧な手紙を出されました。

主治医の先生もA先生のことをよく知っており、「患者さんのためにはA先生が手術する方が良い」と考え、自らの手術予定をキャンセルし、A先生の病院で手術をする運びになりました。

あのセカンドオピニオンから、十数年の月日が経ちました。
そのご夫妻からは毎年、年賀状をいただいています。

この話は、以前のこばなしにも書いているので、併せてお読みください。

第132回 「幸せな医療の提供」その原点
http://ameblo.jp/ptrc/entry-11763690015.html


セカンドオピニオンを受けることは、患者さんの権利です。
今回ご紹介した患者さんのように、素直な気持ちで受けましょう。
最近の講演では、「陽子線治療でがんを治すためには、次の4つのことが大切です」というお話をして、講演を締めくくっています。

その4つとは...

(1)治る気
(2)良い装置
(3)良いチーム
(4)生活習慣の改善


です。

(1)と(4)は患者さんが本人が行うこと。
(2)と(3)は、我々センターが行うことです。

兵庫の粒子線治療施設を立ち上げた私は、その後9年間院長を務めました。

その経験を生かし、指宿のセンターでは立ち上げ当初から、素晴らしい装置を作りあげることができました。

また治療開始以来、センタースタッフの技術面・学術面・精神面・思考プロセス等の向上に注力してきた結果、今では逞しく素晴らしいチームとなりました。


(1)治る気 については、以下の小話を参考にしてください。

第15回 治る気
http://ameblo.jp/ptrc/entry-11067286357.html

第133回 続・治る気
http://ameblo.jp/ptrc/entry-11768810629.html


(4)生活習慣の改善 については、以下の小話を参考にしてください。

第4回 生活習慣
http://ameblo.jp/ptrc/entry-10991969179.html

第53回 生活習慣病
http://ameblo.jp/ptrc/entry-11315466952.html



がん治療は、患者さんと医療者との恊働作業です。

両者が歩み寄り、互いに最善を尽くすことが、がん治療…
特に難治のがんを治療する上では非常に大切だと実感しています。