読後レポート、

今回は図書館から借りてきたこれ。
http://www.amazon.co.jp/%E3%81%84%E3%81%A4%E3%81%BE%E3%81%A7%E3%82%82%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%91%E3%83%B3-%E3%80%8E%E3%81%93%E3%81%AE%E3%83%9F%E3%82%B9%E3%80%8F%E5%A4%A7%E8%B3%9E%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA-%E4%B8%AD%E5%B1%B1-%E4%B8%83%E9%87%8C/dp/4800205514

以前読後レポートをアップした

「さよならドビュッシー」「おやすみラフマニノフ」に続く

岬洋介シリーズ第3弾。

舞台はポーランドの首都ワルシャワ。

世界的に有名なピアノ競技会である

ショパン・コンクールの舞台で

殺人事件が発生する。

しかもその死体からは10本の手指全てが切り取られていた。

その真相は?

岬洋介がその謎に挑む!

というもの。

今回は殆どネタバレはありませんので、

興味のある方はどうぞ先までお付き合いください。

ポーランドの音楽名士の家系に生まれた

若きピアニスト

ヤン・ステファンスが主人公。

彼の語りでストーリーが進行する。

主人公はショパンコンクールに出場するが、

前作同様、

主人公は様々な出来事と遭遇し

音楽と向かい合いながら、

悩み傷つきつつ成長していく。

若者の成長譚である。

このコンクールに岬も出場しているという設定。

「おやすみ」のラストで岬自身語っていたが、

ピアニストとしての己を突き詰めていった結果、

国際コンクールに出場して、ということだろうか。

コンクールへの推薦人が

「おやすみ」のラストで

悲壮な最期を見せた人物であったり、

「さよなら」「おやすみ」の登場人物たちも

ほんの少しずつ顔を見せるが、

これらもこういう連作群のお楽しみのひとつ。

コンテスタントの一人に

盲目の天才日本人ピアニストが登場するが

モデルはご存じ辻井信行さんだろう。

生まれつきの全盲でありながら、

母の与えたおもちゃのピアノをすぐにマスターし、

一度聞いた音楽は全て記憶し演奏できるなど、

辻井さんのエピソードそのままである。

毎度のことだが

扉絵にも趣向が凝らされている。

一人の少女と二人の青年が描かれ

ストーリーを反映させている。

この作品群の特徴は

とりもなおさず演奏シーンの克明な描写だ。

その解釈や背景、

演奏者の技能的な部分や心理状態までを

事細かに書き連ねていき、

まるで一曲の演奏を聞いたかのような

「読む音楽」小説とも呼べそうなスタイルである。

今作は前作と比べて

コンクールを主な舞台としているせいか

舞台でのピアノ演奏の描写部分がかなり長く、

読む音楽小説としての比重が以前よりも格段に大きくなっている。

好きな人には堪らないのだろうが、

やや冗長すぎたかと思う。

ミステリとしてはその分ややパートが少ない。

アイデアや動機には見るべきものもあるが、

描写の熱量としては

明らかにミステリよりも音楽に重きを置いていると思う。

岬の持病である突発性難聴のために

コンクールファイナルでは課題曲を弾きおおせなかったが、

亡くなったたった一人の異国の少女に捧げたノクターンが

会場の聴衆のみならず

戦場での人命をも救った場面。

やや出来過ぎだが、

岬自身がこの小説の中で語っているが

「ピアニストにしかできない闘い方がある」

「その人が生きる手段というのは、その人の武器になるんです」

という文言を実現しているとも取れる。

ともあれ何時もながら面白く読ませて頂きました。

シリーズ第1作「さよならドビュッシ-」が映画化され

今年のお正月に公開されたが、

そのタイミングに

大胆にも映画作成の現場の裏事情を扱ったという

「スタート」も手元に控えている。

次回はこれにチャレンジ予定です。


書店の平棚で眺めたり

新聞の広告欄で見かけたりして、

気にはなっていたんだけど

なかなか読みかかれなかった本がある。

今回もそれ。

高野和明「ジェノサイド」
有名な「このミステリーがすごい!」通称このミス

2012年度国内部門第1位受賞作品。

別の要件で図書館巡りをしていた時、

思い出して探したらありましたので

借りてきて読みました。


父の遺志を継ぐ薬学専攻の院生、古賀研人と、

一人息子のために戦いを続ける傭兵、ジョナサン・イエーガー。

交わるはずのない二人の人生が交錯するとき、

驚愕の事実が明らかになる。

それはアメリカ情報組織が察知した人類絶滅の危機だった!
というのが煽り文句。

アメリカ大統領の朝の業務から始まる物語は、
中東やアフリカの戦場、
そして日本へと場面を移しながら、
同時進行して行く。

以下いつものように
ネタバレを含みますので、

未読の方はご容赦を。


アメリカ情報組織が掴んだ情報とは、
アフリカ奥地のジャングルから生まれ

人類を滅亡さしめる存在があるというもの。
こう書くと、

エイズやエボラの例があるので、

最初にウィルスを想像してしまう。

しかし実はその存在とは、

人類から産まれたものの

突然変異によって更に進化し

飛び抜けた知力と人類には窺い知れない思考形態を持つ

超人類、と呼ぶべき存在だった、という設定。


ジェノサイドとは一般的には「大量虐殺」の意味で知られているが、
良く調べると、
あくまで特定の集団の抹消行為を差し、
物理的な全殺戮のみを意味するわけではないという。
作品中にもいろいろな文脈で現れ、
この物語の背骨となる現象だ。


進化した超人類は「ヌース」と呼ばれるが
まだ3歳で確認されている超人類は彼一人。
アメリカは彼が今後現存人類の脅威になるとして
ヌース抹殺を画策した。
現存人類が生き残るためにたった一人のヌースを抹殺するか

ヌースが生き残りをかけて現存人類に対する反撃に踏み切るか。


囲碁では、

敵の手をどれだけ先まで読めるかが勝利を決する。
即ち頭の悪い奴は、絶対良い奴には勝てない。
相手の打つ手を様々に想定し
常に最強最良の手を打つからである。

現存人類と超人類の戦いも全く同じ様相を呈する。

アメリカを初め世界の叡智がヌースの殲滅に奔走するが、

ヌースは悉くその数手先を読んでいる。

現存人類が手を引けば何の危害も加えられないような状況にするが、

若しもヌースに手を出そうとすれば

その何手も先に罠を張り、

手を出そうとすればするほど強烈に反撃されるのだ。

現存人類より遥かに進んだ知力を持つヌースに

先手の読み合いで勝てる訳がない。
ヌース達が塔に立てこもり、
敵に囲まれて劣勢になったとき、
イエ―ガ―たち傭兵は火器で応戦していたが、
ヌースは軍資金の札束をばらまき、
敵に金の奪い合いをさせることで
形勢を保ったのである。
力には力で対抗するのではなく、
違う方法で争いを避け身を守る。
そんな対応があるということを
進化した生き物は行動でもって示すのである。
その他、

多少ご都合主義じゃありませんか?と言いたくなる個所もあるが、

世界最大の軍事情報国家の攻撃が、

次々とウラをかかれて頓挫していく様は

ある意味快感を覚える。

古典ミステリの構図である探偵対犯人も
相手との知恵比べ、頭脳戦である訳だし、
その意味ではこの作品も典型的ミステリと呼べるのかも知れない。

また囲碁を例に引くが、
その一手が自らの守りになり、
更なる陣営拡大の手にもなり、
かつ敵に対する強力な攻撃ともなる、
そんな一手が理想である。
この物語においては、
肺胞上皮細胞硬化症の特効薬がそれにあたる。
現在この病に対する治療薬はなく
予後は不良、即ち子供のうちに死んでしまう。
ヌースはこの特効薬作成のヒントを人類に与えた。
古賀研人の父は不慮の死を迎えるが、
同じ研究者としてその航跡を辿り、
また亡き父の遺志を継ぐために、
息子である研人はこの薬品の創薬に取り組む。
それは同時に
この病に侵されているジャスティン、
即ちジョナサンの息子を救うものでもあり、
この点で研人とジョナサンの利害が一致する。
またこの治療薬は
同じ病で苦しんでいる世界10万人の子供たちの希望の星でもあり、
これをもって人類の未来の一部を担う立場としての
研人の存在が保障されている。
つまりこの特効薬こそ
理想の一手に当たるのだと思う。

とにかく、
テーマ満載の作品だ。
人類を含めた生物の進化、
難病に対する特効薬の創薬、

アメリカを中心とする軍事サスペンス、

アフリカなどでの現在も続く戦争の狂気、

政治の場におけるパワーゲーム、

金融、産業、各種セキュリティのコンピュータネット依存、
それ故に重大なサイバー攻撃、
そしてそれらを縦断する父と息子の絆や想い。
しかし先述した通り、
最も太いテーマは
タイトル通り「ジェノサイド」である。
過去そして現在に至るまで、
人類が他の生物種、
それは現生でない人類に対してもであるし、
いわんや同族に対してさえ、
今なおより残虐で冷酷な形で行われている。
下等で野蛮で
同時に殺戮の手段や方法に関してのみは
異常に進歩を見せる現生人類を
ヌースはどう見るのか。
そもそも現生人類の未来はどうなるのか。
この作品の根幹は、
そういった人間としての哲学的な問いになると思う。

創薬のくだりや幾つかの場面は
いささか筆が滑ったというか、
勉強した分もっと書きたいという思いが募ったのか、
ややくどいな、と思う個所もある。
しかし、
後半からはテンポよくストーリーが進み、
一挙に読まされた。
これは作者の筆力だろう。
段落ごとに登場人物の視点に切り替えながら物語を進める方式も
なかなかにスリリングだった。
特に後半の少年兵の視点から語られる部分は、
その悲惨な回想シーンも含めて、
現在の少年兵問題の重大さを抉り出していると思う。
関東大震災や南京大虐殺など過去日本の犯してきたジェノサイドとか、
傭兵の一人として描かれる、ミックことカシワバラ・ミキヒコとか、
若干同胞としては心苦しい描写もある。
恐らく読者として日本人がメインであるのを見越して、
意図的にこれらの素材を織り込んでいるのだろう。
人類の残虐性ということを強く自覚するには、
自分と身近な存在が同じ行為に及んだということを素材に用いた方が
よりインパクトが強く説得力があるということだろう。

かなり毒気も強かったけど
面白く読ませて頂きました。


今日は4月1日。
新年度です。

私が所属している
社団法人熊本県理学療法士協会は、
本日付けをもって
一般法人から公益法人へ移行致しました。
今まで以上に地域社会へ貢献できますよう、
これからも会員一同、
精進してゆきたいと思います。

また私は
拝命しておりました平成24年度県北ブロック長の任を
3月をもちまして退かせて頂きました。
至らないことも多々ございましたが
無事に職務を完遂することが出来ました。
これも偏に皆様のご協力のお蔭です。
ご挨拶が遅くなりましたが、
この場をお借りしてお礼申し上げます。

今後とも、
当協会の活動へのご理解とご協力を
宜しくお願い申し上げます。