真空管の基本1 | Pro Tools Chips

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体系化して書くのが面倒なので、思いついたときにアップする断片的なTips
基本自分の環境(iMac 2.6G/4M 10.5.7 PT8LE 002Rack)以外での検証はしていません。

ちょいと他の原稿書いていて、内容がはみ出したのでこちらにうp

真空管式アンプ

ギターアンプには他の電子機器と異なり、真空管がよく使われる。これは真空管式アンプの音がギタリストに好まれるからという一点につきるんだけど、「妄信的」に真空管アンプを好む人も一定割合いて、現在でも高級アンプを買おうとすると真空管式のアンプ一択という普通に考えるとかなり異常事態。例えていうなら、色がいいからという理由で、家電量販店にブラウン管式のテレビが積み上げられていて、店員にきいても「液晶?あんなもんは初心者用ですよ。」と言われてしまう世界ということだ。

確かに真空管式のギターアンプには魅力的な音色があることは否定できない。ただそれが真空管というものだけで成り立っているわけではなく、その他の電子部品(特にトランス)や回路設計、スピーカやキャビネットまでを含めての音色だ。メーカは当然ギタリストに好まれる音色を目指して設計してくるし、その音色の何パーセントが真空管そのものによるものなのかは当然アンプによって異なるわけで、少なくともその音色が100%真空管に由来するものでは絶対ないんだが、どうもその辺を考えずに「真空管式の方がピッキングが正確に出る。」とか言い切ってしまう人が多いのも事実。ただ現実問題として高級アンプ=真空管式になっているから、そう思ってしまうのも無理はない。


真空管について

真空管は真空で金属を加熱すると電子が飛び出す性質を利用したもの。飛び出してくる電子は負の電荷を持つので、近くに正電圧をかけた金属板を置いてやれば、飛び出した電子がその金属板に引き寄せられ電子の流動が起きるとか書くと、わざわざこんなところを読んでいる人には不親切だな。

物質をどんどん細かくしていくと、最終的に原子になるというのは何となく習った覚えのあることでOK?

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その原子は原子核と電子によって出来ている。地球の周りを月が回っているように、原子核の周りを電子が回っていると考えられている。原子核はプラス、電子はマイナスの性質を持っているんだが、これは別にプラスマイナスで表さなくても、男と女でも、凸と凹でも、(`・ω・´)と(´・ω・`)でもなんでもかまわない。要は違うものは引きあい、同じもの同士は反発し合う性質があるということなんだ。まあでも偉い人が決めたんだから、それに従って原子核がプラスで電子がマイナスにしておこう。

通常は平穏無事に電子がぐるぐる回っているだけなんだが、外部から力が加わるとすぐ影響を受けてしまうんだな。受ける力が小さいとなんとか我慢するんだが、大きい力が働くと電子が飛んでいってしまう。


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図では簡単にするために電子が一つになっているけど、実際には水素(軽水素)以外は電子を複数持っている。まあ一夫多妻制みたいなもんだ。

で、外部からの力ってのは衝撃だったり摩擦だったり熱だったりするわけだ。電子ってのは割とビッチなので、すぐふらふら別の奴に引っ付いてしまう性質があって、例えば滝みたいに水に力が加わると、H2Oで安定していた電子が飛び出して、電子の多い水滴を作り、さらにその影響で電子の多い空気を作ってしまう。こういうのをイオン化というんだが、別に近所の空き地がジャスコになる事じゃない。

電子が多くくっついた状態を陰イオン、飛び出していって少ない状態を陽イオンと言うわけだ。この陰イオンを「マイナスイオン」と変な日本語にして流行らせたのが家電メーカ。確かに滝の水滴は陰イオン化しているので、プラスマイナスで言えばマイナスのイオンだけど、マイナスイオンと人間の健康には今のところ関係性は確認されていない。一時期何でもマイナスイオンが付いていたけど、現在ではやっと下火になった。

同じ理屈で起こるのが静電気。下敷きと髪の毛で遊んだ人も多いと思うが、アレは摩擦によって電子の移動が起きて、下敷きの方がマイナスに、髪の毛の方がプラスになるから起きるわけだな。髪の毛は摩擦でプラスになることから、これを押さえるという意味でマイナスイオンのドライヤーには一応正当性がある。

さて金属を熱すると、またビッチがそわそわし出す訳なんだが、大気という世間の目があるときにはさすがにおとなしくしている。ところが世間の目がなくなったら(真空になったら)とたんに原子核の元を離れてうろうろし出す。


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そこでこの真空の中に2枚の金属板を入れてやって、片方だけを熱すると熱した方の周りには電子が飛び交うけど、そのままでは何も起きない。そこでその金属板に電池を繋いでやるとどうなるか。

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上図左側のように熱した方に電池のプラスを繋ぐと、熱していない方がマイナスになるので、マイナス同士反発する。まあ電池のプラスと熱して飛び出した電子が帳消しになるけど、どちらにせよ電子の移動は起きない。ところが右側の図のように熱していない方がプラスになると、飛び出した電子が引き寄せられて移動する。熱した方は電池のマイナスから次々と電子が供給されるから、結果電気が流れる事になる。なんかマイナスからプラスに流れるのが気持ち悪いが、電流はプラスからマイナスに流れるというのを決めてから、電子の流れが逆だと分かったので、そのまま放置しているわけだ。よって電子がマイナスからプラスに移動したときに、プラスからマイナスへ電流が流れたといういい方をしている。

図で言う「熱した方」をカソード(Cathode)、「熱しない方」をアノード(Anode)と呼ぶんだが、実際の構造は効率を上げるためにカソードの周りをアノードが板状に取り巻く感じになっている。よってその外観から真空管の場合はアノードをプレート(Plate)と呼んでいる。またカソード自体を発熱させる方法を直熱式、カソードを外部から熱する方式を傍熱式と呼んでいて、どちらにもメリットはあるが、ノイズの点で有利な傍熱型の方がアンプでは一般的に使われる。直熱型のカソードはフィラメント(Filament)、傍熱型のカソードを熱するためのものをそのままヒータ(Heater)とよんでいる。

さてこれだけの構造なんだが、これで一定方向にしか電気が流れないという働きがあるわけで、プラスマイナスが入れ替わる交流を、どちらかしか通さない事によって検波や整流などと呼ばれる仕事をするんだが、こういった真空管はプレートとカソード(フィラメント)の2つの電極を持つため二極管(Diode=ダイオード)と呼ばれている。アンプで必要なのは整流の方で、トランスで昇圧された交流電源を直流に変える役割をしている。この整流という仕事をする二極管を特に整流管(Rectifier=レクティファイヤ)と呼んでいる。

整流回路

いっぱい宇宙語が出てきたので二極管の回路記号を見てみよう。実際の構造を見るより回路記号の方が理解しやすいと思う。


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直熱管はプレートとフィラメント(自分で熱するカソードと言ってもいい)があり、熱するためにフィラメントには2本の端子が出ている。そこに真空管を熱するための電源(A電源)を繋ぐんだが、メインの働きはプレートとフィラメントのどちらかの端子の間で行うようになっている。

傍熱型はA電源はヒータに繋ぎ、メインの働きはプレートとカソードの間で行う。実際の使い方を見てみよう。

まずは理解しやすい傍熱型。左の部品はトランスで、メイン電源には通常200~400V程度の電圧が、ヒータ電源には5~12V程度の電圧がかかっている。

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ヒータ電源はそのままヒータを熱するだけに使われるので、他には繋がない。メイン電源はプレートからカソードを通るときに、プラス方向しか通さないので、波形の上半分が残る。

このままでは電源としては失格なので、大容量の電解コンデンサ(ケミカルコンデンサ)を並列に繋ぎ、なだらかにする。図では全然なだらかじゃないけど、容量を増やせば殆ど電圧は変化しなくなる。

次に直熱型。傍熱型のカソードとヒータを一緒にしたと思えば理屈は全く一緒。

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これが交流から直流を作る整流回路の基本だ。交流はトランスによって電圧を自由にコントロールできるというメリットがあるから、あんなめんどくさいものがコンセントに来ているわけで、全ての電気製品が同じ電圧で動くなら、コンセントも直流になっている。(伝送効率とかおいといて)まあ最近のエセエコブームで直流コンセントの話もぼつぼつ出てきてはいるんだが…

で、この方式を半波整流と言っているんだが、これだと電圧が0の時間が長すぎてコンデンサの負担が大きいので、交流をちょうど逆の波形(逆相)になるようにトランスを工夫して、真空管二本でプラスとマイナスをプラス+プラスにしてやると、電圧が0になるのが一瞬になり、きれいな直流(電圧が変化しない)が出しやすくなる。これを全波整流回路と呼んでいて、アンプに使われる整流回路はほぼこれ。

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「だったら最初から真空管の中に2回路分入れておけばいいんじゃね?ってか、傍熱型である必要もなくね?」ってことで、アンプによく使われる整流管は直熱2回路のもので、こんな回路図。なんか顔にしか見えないのは気のせいだとおもう。


この真空管を使って先ほどの回路を作ると、ご覧の通りシンプルになっていて、これはこれで美しく使いやすい回路なのだよ。



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Mesa Boogieのレクチ(名前そのものが整流管だな)やフェンダーのオールドアンプはこの回路だ。

実際の設計では、コンデンサ一つだけできれいに平滑するのは難しいので、抵抗やチョークコイルを挟んでもう一つコンデンサを付けるのが一般的。

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以上で二極管を使った整流回路のお話しは終わり。次回3極管は気が向いたら書く。(いつ向くかは不明)









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