北地 雄・他:運動イメージの誤差は歩行能力と関係する.第46回日本理学療法学術大会.2011

【目的】
運動イメージは運動の脳内表象と考えられており、運動をイメージした時の脳活動は実際の運動を行った時と近似するこ とが報告されている。運動イメージ時の脳活動が、実際の運動遂行時と近似するということは、運動イメージは内部モデル による feed forward 情報とも考えられ、これを測定することで対象者の運動戦略を知ることができると考えられる。この運動イメージを測定する方法に心的時間測定(mental chronometry)がある。この運動イメージである心的時間と実際の運動遂行 時間の誤差は、パフォーマンスレベルが高くなるほど一致し、加齢や疾患により大きくなる事が報告されている。しかし、こ の誤差は差や比や率で現されており統一されていない。そこで今回、運動イメージである心的時間と実際の運動時間の誤差の差と比と率および歩行能力の関係を検討した。

【方法】
対象は脳血管疾患により片麻痺を呈した 11 名(平均年齢 63.5 ± 10.2 歳、男性 8 名、女性 3 名)であり、発症からの期間は 88.5±47.3日であった。調査項目はTimed up and go test(3m)の至適速度条件(TUGcom)と最大速度条件(TUGmax)、10m 歩行の至適速度条件(10mCWT)と最大速度条件(10mMWT)、さらにそれらの運動イメージとしてそれぞれの心的時間(心 的 TUG、心的 10m)を測定。運動イメージである心的時間と実際の運動時間の誤差は、心的時間と実際時間の差(心的-実際) と比(心的÷実際)と誤差率([ 実際-心的 ] ÷実際× 100)を算出した。運動イメージの鮮明度は数値的評価スケールである Numerical Rating Scaleにて評価した。その他の評価指標として麻痺側下肢荷重率、Barthel Index、Functional Balance Scale、 麻痺側下肢Brunnstrom Stage、Tinnettiらの10項目のFalls Efficacy Scaleを調査した。TUGと10m歩行は実際の運動が記憶に 残りイメージに与える影響を考慮し心的時間測定を先に行った。統計学的解析はまず Shapiro-Wilk 検定にて正規性を確認し、 それぞれの調査項目間の関係を Pearson と Spearman の相関係数を算出。運動イメージである心的時間と実際の運動時間の差 を対応のあるt検定とWilcoxonの符号付順位検定にて比較し、心的時間と実際時間の差と比と誤差率を分散分析(one way ANOVA と Friedman 検定)と多重比較法(Games-Howell)にて比較した。さらに運動イメージである心的時間と実際の運動時間の誤差が歩行能力にどのように影響するのか、歩行能力を表す指標として 10mMWT を採用し、イメージ誤差との単回帰分 析を実施し、影響が認められた場合に ROC 曲線から歩行自立のカットオフを算出した。解析には PASW17.0 を使用し有意水 準 5%とした。

【結果】
TUGcom と TUGmax には心的時間と実際時間に有意差が認められ、10mCWT と 10mMWT には心的時間と実際時間に有 意差が認められなかった。心的時間と実際時間の差と比と誤差率では、TUG では差と比と誤差率すべての項目間に有意差 があり、10m 歩行では差と誤差率、比と誤差率に有意差が認められた。単回帰分析の結果運動イメージである心的時間と実 際の運動時間との誤差を現す指標のなかで 10mMWT に最も影響の強いものは TUGcom の心的時間と実際時間の差であり、
(10mMWT = 9.506 + [ - 0.818] × TUGcom 差)の回帰式(寄与率 65.8%、調整済み R2 乗= 0.621)を得た。TUGcom の心的 時間と実際時間の差と歩行自立の ROC 曲線から、歩行自立のカットオフは心的時間と実際時間の差が- 4.79 秒となり感度、 特異度とも100%であった。

【考察】
TUG には運動イメージと実際の運動時間に差が認められ、10m 歩行では差が認められなく、これは課題の特異性や難易度 が影響していると考えられる。また、運動イメージと実際の運動との誤差は、差と比で有意差があるもののより近い傾向が あり、率はそれらと違うものを現している可能性がある。しかし、歩行能力指標とした 10mMWT との単回帰分析からは運動 イメージである心的時間と実際の運動時間との誤差は TUG、10m 歩行時間ともに心的時間-実際時間からの差がもっとも 寄与率が高く、イメージの時間誤差は単純に差で現して良いと考えられた。更にこの結果から、運動イメージと実際の誤差 が大きいと歩行能力は低く、誤差が小さいと歩行能力が高いと考えられる。そのため歩行自立のカットオフも予測精度の高 いものとなったと考えられる。しかし今回は症例数が少なく、今後症例数を増やし病巣も含め再検討する必要もあると考えられる。

運動 イメージである心的時間と実際の運動時間との誤差は「差」を用いたら良いということ、歩行自立のカットオフは心的時間と実際時間の差が- 4.79 秒であることの2点が明確にわかりました。
非常に面白い研究です。
川上健司、他:脳卒中片麻痺患者における歩行運動イメージ評価の臨床的意義について — 回復過程におけるイメージ能力の推移に注目して —、第43回日本理学療法学術大会、2008

【目的】運動イメージと実際の運動結果との誤差を少なくするこ とは運動学習において重要である.また,歩行を習得する際,運 動イメージ能力低下は自己身体能力の誤認識と捉えられ,歩行 自立の阻害因子として考えられている.昨今,脳卒中後の歩行自 立者は監視が必要なものよりイメージ能力が高いことも示され ている.しかし,脳卒中患者の歩行回復過程に伴うイメージ能力 推移の報告は皆無なため,イメージ能力が歩行自立度の帰結に どの程度関与しているのか不明確である.そこで,本研究では歩 行が自立に至るものと監視で留まるものとのイメージ能力推移 の違いを明らかにすることを目的とし,運動イメージの臨床的 評価としての意義を検証した.

【方法】対象は,当院に入院した測定時歩行自立度が監視以下で 著明な高次脳機能障害を有しない初発脳卒中片麻痺患者36名と した.対象者には予め研究の内容を説明し同意を得た.測定は, 10m の直線歩行路を,1)自分が歩いている姿をイメージするの に要した時間(以下,心的歩行時間)と,2)実際の歩行時間を計 測した.各々,入院後 2 週と 6 週時に 3 回ずつ行い平均値を算出 した.また,歩行運動イメージ能力の指標として心実比(心的歩 行時間/実際歩行時間)と,心的誤差率 ( |心的歩行時間-実際 歩行時間|/実際歩行時間× 100) を算出した.分析は,退院時 に歩行が自立した 22 名を自立群,それ以外の 14 名を監視 ・ 介助 群に分け,各群の推移と両群間の比較を Wilcoxon 符号順位検定, Mann-Whitney 検定にて行った.

【結果】実際歩行速度は自立群が 2 週時 1.5 ± 0.6km/h,6 週時 2.1 ± 0.8km/h で,監視・介助群は 2 週時 1.0 ± 0.7km/h,6 週時 1.2 ± 0.5km/ h であった.自立群は監視・介助群より各時期で有意に高値を示 し,2 週から 6 週にかけて有意な増加を認めた(p < 0.05).心実 比は,自立群が 2 週時 1.07 ± 0.3,6 週時 1.03 ± 0.2 で,監視・介助 群は 2 週時 0.93 ± 0.7,6 週時 0.87 ± 0.6 であり,6 週時のみ両群 間で有意差を認めた(p < 0.05).心的誤差率は自立群が 2 週時 27.7 ± 17.4%,6 週時 14.3 ± 9.4%,監視 ・ 介助群は 2 週時 58.8 ± 28.8%,6 週時 51.5 ± 29.2% であり,自立群は監視 ・ 介助群より 各時期で有意に低値を示し,2 週から 6 週にかけて有意な改善を 認めた(p < 0.05).

【考察】自立群の心的誤差率は,2 週から 6 週にかけて改善し,各 時期で監視 ・ 介助群よりも低値を示したため,歩行運動イメー ジ能力の向上が歩行自立達成に関与した可能性がある.また,自 立群の中には低歩行速度で自立したものも散見されたが,心実 比は 2 週から 6 週にかけて 1 に近づき,さらに心的誤差率も改善 していた.一方,監視 ・ 介助群の心実比は,1 以下の低い値のま まで推移するものが多く歩行運動イメージを実際よりも速く見 積もる傾向にあった.以上より,実際歩行速度と歩行運動イメー ジの推移を対比させることは低歩行速度者の自立度判定に有用 であると考えられた.


アウトカムとして心的時間測定(mental chronometry)を用いて検証されています。
心的誤差率の改善=歩行運動イメージ能力の向上とし、自立群と監視・介助群との相違を検証しています。
実際歩行速度は自立群が 2 週時 1.5 ± 0.6km/h、監視・介助群は 2 週時 1.0 ± 0.7km/hとあることから、軽度片麻痺患者を対象としているのでしょうか。
入院早期より長下肢装具を用いた治療が必要な方(歩行困難である方)を対象とした検証も気になります。
その際のアウトカムとか歩行評価とかどうしたものか…
とうとう届きました、兵庫県学会の査読結果!
ドキドキしながら待っていました。

結果を業務後すぐに見ようと思ったのですが、
メールを開く時ってこんな緊張するんですね。汗

結果は…


無事採択されていました!
すごく嬉しいです!
ご指導を頂いた方々には感謝しきれません。

しっかりと準備して良い発表をします!!