ウォー・エターナル/アーチ・エネミー
アーチ・エネミーの歴史を振り返ると、アルバム「ウェイジズ・オブ・シン」(2001年)の発表と、アンジェラ・ゴソウの登場が、その後のバンドの大きな飛躍に繋がったのは間違いない。強烈なデス・ヴォイスを聴かせる女性ヴォーカルの登場は大きな話題となり、アーチ・エネミーの作品は一段とスケール・アップした。
故に、そのアンジェラがバンドを脱退したというニュースは衝撃的だった。2014年3月の事である。脱退は決してメンバー間の不仲では無い。バンドのアナウンスによると「アンジェラは今後、バンドの裏方業務に専念する」との事だった。つまり脱退というより表舞台の活動からの引退というわけだ。実際、アンジェラは以降もアーチ・エネミーの活動に携わっている。
しかしながら、バンドにとってヴォーカリストの交代は大きな分岐点となる。デビュー時はヨハン・リーヴァ(後にマイケル・アモットとブラック・アースを結成)という男性ヴォーカリストがフロントマンだった事実もあり、性別も含めてバンドがそのような動きを見せるのか、ファンは興味津々だった。
世の中を見ると、後任が決まるまで活動が事実上の休止となるバンドもいるが、アーチ・エネミーの場合はすんなりと決まり、アリッサ・ホワイト=グラズ(Vo)の加入を発表。アンジェラ引退の理由を踏まえると、バンドは既に2013年頃から水面下で後任探しに入っていたのではないかと推測する。
アリッサ、マイケル・アモット(g)、ニック・コードル(g)、シャーリー・ダンジェロ(b)、ダニエル・アーランドソン(ds)という編成になって初のアルバムが、本作「ウォー・エターナル」(2014年)だ。2007年以降、脱退~再加入とバンド活動が不安定になっていたクリストファー・アモットは、前作「ケイオス・リージョンズ」(2012年)には参加したが再脱退。本作ではニックがギターを弾いている。
シンフォニックな「プレリュード・イン・Fマイナー」は、ライヴで言うところのSEのような位置づけで、そのまま実質的なオープニング・ナンバー「ネヴァー・フォーギヴ、ネヴァー・フォーゲット」へ。
ダニエルが叩くブラスト・ビートで聴き手を圧倒しながらも、美しいツイン・ギターのハーモニーが各所を導入。ギターのフレーズをキャッチーと表現するのは変化も知れないが、攻撃的なビートとギター・メロディのキャッチーさの対比が素晴らしい。
もちろん、新加入のアリッサのデス・ヴォイスも圧巻だ。ヴォーカリストが交代しても、アーチ・エネミーの音楽性はブレる事は無く、「ウォー・エターナル」「アズ・ザ・ベージズ・バーン」「ノー・モア・リグレッツ」と、攻撃的な曲調の中に抒情的なギター・メロディが舞う。前作までの流れを継承した楽曲群と言える。特にツイン・ギターが柱となる「ノー・モア・リグレッツ」は、注目の1曲に。
ムード感を演出しながら始まる「ユー・ウィル・ノウ・マイ・ネーム」は、本作収録曲の中でも正統派ヘヴィ・メタル寄りの仕上がり。「グレイヴ・ヤード・オブ・ドリームズ」は、クリーン・トーンのアルペジオ、泣きのギター・フレーズをフィーチュアしたインスト曲で、そこから8曲目「ストーンレン・ライフ」に繋がる。
オルゴールのような美しい音色の後、何か不吉な事が起こりそうな空気が充満する「タイム・イズ・ブラック」は、そこからメタリックな展開へ。重厚なシンセの音があり、部分的にシンフォニックな色合いを持つ。「オン・アンド・オン」「アヴァランチ」「ダウン・トゥ・ナッシング」「ノット・ロング・フォー・ディス・ワールド」と、アルバムはテンションを落とす事無く最後まで突き進む。
14曲目に収録された「ブレイキング・ザ・ロウ」は、ジューダス・プリーストのカヴァー。本曲はアレンジに注目したい。曲を完コピしてヴォーカルだけデス・ヴォイスといった安易なカヴァーでは無く、完全にアーチ・エネミーの楽曲に変換されたヴァージョンだ。メインとなるギター・リフも、オリジナルの持ち味を少々残しただけで、仕上がりはマイケル色に塗り替えられている。
現代的なエクストリーム・メタルに仕上がった本作「ウォー・エターナル」は、前作まで築き上げてきたアーチ・エネミーの音楽性を忠実に踏まえた作品となった。楽曲も素晴らしい。しかし、本作に従うツアーの一部のフェスでは、ヴォーカリストが交代した事によってバンドの出演時間がヘッド・ライナーでは無く、早い時間帯に設定される事態に。つまり新人バンドのような扱いだ。
音楽ビジネス上、これは仕方ないのかも知れないが、アルバムの内容やバンドの演奏力を考えると、明らかに不当な扱いと言える。だが、これは一部の出来事であり、アーチ・エネミーの人気は衰える事無く進み続けている。次作「ウィル・トゥ・パワー」(2017年)で、バンドは新たな名作を生み出した。