第736回「地獄の軍団 45周年記念盤」 | PSYCHO村上の全然新しくなゐ話

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発売より時間が経過したアルバム、シングル、DVD、楽曲等にスポットを当て、当時のアーティストを取り巻く環境や、時代背景、今だから見えてくる当時の様子などを交え、作品を再検証。

地獄の軍団 45周年記念デラックス・エディション/キッス

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ここ何年もロックの名作が「30周年記念盤」「35周年記念盤」「40周年記念盤」と銘打って再販されている。これはアーティスト問わずである。更には貴重な写真、秘蔵音源などが追加され、もはやひとつの資料的な役割を果たすヴォリュームの作品もある。

 

今回、キッスの名作「地獄の軍団」(1976年)が45周年記念盤としてリリースされた。今作は幾つかのヴァージョンがあり、ここで取り上げるSHM-CD仕様の2枚組デラックス・エディションの他、CD4枚+Blu-rayオーディオのスーパー・デラックス・エディション(これは輸入盤のみ)、昔ながらのLPレコードもある。

 

初期からライヴ・ステージの評判が良かったキッスは、デトロイト公演を録音し「アライヴ!~地獄の狂獣~」(1975年)として発表。バンドが大きく飛躍するキッカケの作品となった。ここで重要となるのが次のスタジオ・アルバムだ。ボブ・エズリンをプロデューサーに迎え、アルバム制作に入っている辺り、メンバーも次作が勝負のアルバムだと充分に判っていたと読み取れる。

 

こうして「地獄の軍団」が完成した。当時のバンドは、ポール・スタンレー(Vo.g)、ジーン・シモンズ(Vo.b)、エース・フレーリー(g.Vo)、ピーター・クリス(ds.Vo)という、オリジナル編成だ。まず本作のジャケットは、キッスのファンならずとも誰もが見た事のある有名ジャケットではなかろうか。Tシャツを始めとするキッスのツアー・グッズに限らず、このデザインを拝借したパロディ商品も含め、世の中のあらゆる所で一度は見た事があるアート・ワークに

 

有名なのはジャケットだけでは無く、収録された楽曲にも当てはまる。「デトロイト・ロック・シティ」「雷神」「狂気の叫び」「ベス」といった、バンドの代表曲が本作には多く収録されている。また「暗黒の帝王」「ドゥ・ユー・ラヴ・ミー」といった楽曲もライヴでは欠かせない。

 

ライヴで披露される機会は少ないが、「地獄の遺産」にも注目したい。オーケストラ風味の重厚な音作りを採用した本曲は、シンプルなロックン・ロール・サウンドを提示した初期3作品とは一線を引く新たな試みと言える。「スウィート・ペイン」で聴けるギターの分厚さも、スタジオ・ワークらしい手の込んだサウンドだ。「燃えたぎる血気」は本作の中では知名度が低い1曲であるものの、キッスらしいロック・ナンバー。

 

DISC1に収録された「地獄の軍団」本編は、今回の45周年記念盤制作に当たり最新リマスターが施されている。以前リリースされていたアルバムと聴き比べると、本作は音の輪郭がよりはっきりして、サウンドが磨かれた印象が強い。2012年には「地獄の軍団(リザレクテッド)」としてリミックス盤が出ているが、今作はそちらの音源では無く、オリジナル・ミックスをリマスターしたもの。

 

DISC1の表面には、懐かしいカサブランカ・レコードのレーベルが印刷されているが、DISC2の表面にはレコーディング・テープが印刷されている。このデザインが暗示するかのように、DISC2にはデモ音源、レア音源、ライヴ音源を収録。様々な音源が聴けるが、興味深いのは制作途中の「デトロイト・ロック・シティ」である。

 

これは、ポールが所有していた音源との事。イントロのギター・リフの上に派手なギター・ソロが乗ったり、歌詞の言葉数が多いためヴォーカル・メロディも現在とは異なる。粋が良く派手なヴァージョンではあるが全体的に詰め込み過ぎな感じがあり、後の完成ヴァージョンは随分とスマートになった事が判る。

 

ジーンが提供したデモ3曲「アイ・ドント・ウォント・ノー・ロマンス」「ロックン・ロール・ロイス」「スター」は、いずれもアルバム本編には採用されていない楽曲。7~12曲目は、ミックス違い、ヴァージョン違い、リハーサル音源、歌なし音源など。9曲目「暗黒の帝王(ライヴ・リハーサル・インストゥルメンタル)」では、演奏開始前にメンバーの会話もあり、いかにもリハーサルらしい。

 

13~16曲目は、1976年のツアーより5月22日のパリ公演のライヴ音源。昔からブートレグでお馴染みのライヴ・・・と書くと元も子もないが、公式な形でリリースされたのは喜ばしい事。スーパー・デラックス・エディションには公演が全曲収録されているが、このデラックス・エディションは「ジュース」「ストラッター」「燃えたぎる血気」「ホッター・ザン・ヘル」と、ライヴ冒頭の4曲のみを収録。

 

「地獄の軍団」発表に従う1976年のツアーは序盤と後半でセット・リストの流れが変わっている。ツアー序盤は「ジュース」「ストラッター」でライヴが始まり、基本的に1975年のツアーの骨組みの中に「地獄の軍団」からの新曲(当時)を取り入れた印象のメニューだった。

 

それに対しツアー後半は「デトロイト・ロック・シティ」「暗黒の帝王」でライヴが始まり、「地獄の軍団」からの曲が大幅に追加されている。よって、ここで聴けるパリ公演の音源はツアー序盤だからこその選曲と構成に。特に「燃えたぎる血気」はツアー序盤しかセット・リスト入りしていないので貴重。マニアからすれば今回のライヴ音源の目玉と言える1曲だ。