オン・ステージ/レインボー
70年代に発表されたライヴ盤の名作を挙げるとするなら、リッチー・ブラックモアズ・レインボーの本作「オン・ステージ」(1977年)は必ず入る一作と思う。巨大な虹が後方に見られるステージ・セットの写真もインパクト大である。今でこそインターネットで様々な画像や映像が簡単に視聴できる時代であるが、70年代当時からすればレインボーというバンドのライヴの様子が判る写真として、本作のジャケットの影響力は大きかったはず。
メンバーはリッチー・ブラックモア(g)、ロニー・ジェイムズ・ディオ(Vo)、コージー・パウエル(ds)の3人が揃って在籍していた、いわゆる三頭政治時代。よって本作で聴ける演奏は伝説なのである。他、バンドはジミー・ベイン(b)、トニー・カレイ(Key)を含む5人編成だ。
アルバムで言うと名作「虹を翔る覇者」(1976年)発表後のライヴ。アーティスト問わず、ライヴ盤は複数の公演からのベストなテイクでまとめられたり、何かしらの部分で編集が施されたりするので、本作も例に漏れず複数の公演から音源が使用されている。曲によってはヨーロッパ公演のライヴ音源であるが、多くは1976年12月の日本武道館公演の演奏というのがポイント。収録曲の多くが日本公演の音源であり、日本のファンに特別な作品となった。
レインボーのライヴは「オズの魔法使い」に登場する少女ドロシーのセリフが流れ、バンドが「オーヴァー・ザ・レインボー」で演奏を開始するのが伝統的な流れである。本作の冒頭も正にそれで、王道のオープニングを音源として記録し、世界に知らしめた点においても本作の存在意義は大きいのではなかろうか。
さて、本作は収録曲・・・即ち演奏曲に注目したい。まずは1曲目に演奏しているのが「キル・ザ・キング」という点。「キル・ザ・キング」はバンドの代表曲として認識されているが、本曲がアルバム「バビロンの城門」(1978年)に収録されたのは、このライヴよりも後であり、この時点では先行披露されていた事になる。順番的にも本作「オン・ステージ」の方が先にリリースされているため、ライヴ音源の方が先に出ていたのだ。
本作で聴ける「キル・ザ・キング」は、後のスタジオ・ヴァージョンとはイントロのアレンジが異なっており、リッチーが弾く角の立ったギター・リフで始まる。とにかくドロシー少女のセリフ、「オーヴァー・ザ・サインボー」、「キル・ザ・キング」という流れはドラマティックだ。現在では同ツアーのドイツ公演の音源が数種類リリースされており、リッチーのギター・フレーズやコージーのドラミングなど、公演によって細かな違いがあるので聴き比べると面白いはず。
先行披露となった「キル・ザ・キング」以降は、全体的にデビュー作「銀嶺の覇者」(1975年)からの曲が多い。「銀嶺の覇者」「虹をつかもう」「16世紀のグリーンスリーヴス」「スティル・アイム・サッド」が同作からの曲だ。どの楽曲も即興演奏が加わって長尺となり、ライヴ特有の仕上がりになっている。
ディープ・パープルの名作「ライヴ・イン・ジャパン」(1972年)もジャムのパートを多く取り入れて長尺演奏となっているが、それはレインボーにも継承されていると判る。この辺りを聴くとサウンドとしてはハードロックでも、その根底にはブルーズの精神が脈々と受け継がれているのを感じる次第。
「ミストゥリーテッド」は第3期ディープ・パープルの代表曲で、それをレインボーとして取り上げたヴァージョン。オリジナルはデイヴィッド・カヴァデールの深みあるブルージーな歌声だが、本作ではロニー流の解釈で歌っており力強く歌い上げるヴァージョンとなった。
「銀嶺の覇者」はジャムの他にも「スターストラック」が部分的に組み込まれており、タイトルの表記は「メドレー:銀嶺の覇者/ブルース/スターストラック」に。スタジオ・ヴァージョンの「スティル・アイム・サッド」はインストにアレンジされているのに対し、ライヴ音源はヴォーカル入り。ロニーの圧巻のヴォーカルが堪能できる。
アーティスト問わずライヴは「生き物」であり、同じ編成で演奏しても時代によってサウンドが変化する。それを踏まえると本作は、リッチー、ロニー、コージーが在籍していた1976年という伝説的な時代の瞬間を捉えたライヴ盤である事は間違いない。
また先ほども話に出たように、今では「虹色魔宴(ライヴ・イン・ジャーマニー1976)」やドイツでのライヴを3公演収録したボックス、映像作品「ライヴ・イン・ミュンヘン1977」などで、複数の音源や映像を見る事が出来る。それらを聴き比べると演奏が非常に生々しく、聴き方によっては荒い。よって本作「オン・ステージ」はサウンドが綺麗にまとめられ、進行の流れがスムーズであると気付く。すんなり聴ける意味でも、本作は最初に聴くべき1枚としておすすめしたい。