第712回「レストレス・ハート」 | PSYCHO村上の全然新しくなゐ話

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発売より時間が経過したアルバム、シングル、DVD、楽曲等にスポットを当て、当時のアーティストを取り巻く環境や、時代背景、今だから見えてくる当時の様子などを交え、作品を再検証。

レストレス・ハート/ホワイトスネイク

ホワイトスネイクは、本来どのような音楽性のバンドなのか?何とも奇妙な問いのようにも思えるが、本作「レストレス・ハート」(1997年)を聴くとホワイトスネイクの音楽性について、今一度、じっくりと考えたくなる。

 

ホワイトスネイクの原点を遡れば、そこにはブルーズが存在している。アルバム「トラブル」(1979年)に代表されるように、初期のバンドはブルーズを下地としたハードロックを披露していた。これがホワイトスネイクの持つ、ひとつの音楽的側面であるのは間違いない。

 

しかし、バンドの歴史を語るうえで、大ヒット作「サーペンス・アルバス(白蛇の紋章)」(1987年)の重要性は見逃せない。黒髪を金髪に染めたデイヴィッド・カヴァデール(Vo)がシャウトを決め、バブリーなハードロック・サウンドと派手なステージングで時代を築いた同作は、以降のバンドの方向性を決定付けたと言っても過言では無い。実際、現在も続くバンドのイメージは、「サーペンス・アルバス(白蛇の紋章)」を継承したものと言える。

 

この事からホワイトスネイクは、「本来の姿」と「世間一般に認識された姿」を持っていると言え、ある意味、それが音楽性の進化として一本の線で繋がり、バンドの歴史になっているとも言える。そのようなホワイトスネイクであるが、本作「レストレス・ハート」は、歴代作品の中でも異色の存在感を放つアルバムとなっている。それはつまり、バンドのイメージに囚われず、当時のデイヴィッドの中にある音楽観をストレートに投影した作品のように思えるのだ。

 

90年代のホワイトスネイクは、アルバム「スリップ・オブ・ザ・タング」(1989年)発表に伴う大規模なツアーを終えると、事実上の活動休止となる。デイヴィッドがジミー・ペイジとのプロジェクト、カヴァデール・ペイジに参加するためである。カヴァデール・ペイジはアルバムの発表とライヴ活動を行うも、活動自体は短期間で終了。1994年にはホワイトスネイクを再始動させている。

 

その後、本作の制作に移行しているが、当初はデイヴィッドのソロ・アルバムのつもりで制作に入ったらしい。実は、これが本作の音楽性の重要な鍵を握る部分となる。最終的にはレコード会社がホワイトスネイクの名義で発表するように話を進め、本作はホワイトスネイクのアルバムとして世に発表された経緯を持つ。

 

例えば1曲目に収録された「ドント・フェイド・アウェイ」を聴けば、前作「スリップ・オブ・ザ・タング」にあったバブリーなサウンドから一転して、落ち着きのある大人びたロック・サウンドであると判る。この「ドント・フェイド・アウェイ」や「愛という名のもとに」「レストレス・ハート」を聴けば、AORというワードを連想する色合いがある。先ほど、本作は当時のデイヴィッドの音楽観がストレートに反映されたアルバムと書いたが、ソロ・アルバムとして制作に取り掛かった事で、1987年以降のホワイトスネイクのイメージとは異なるサウンドになったのは間違いない。

 

ブルージーなギター・フレーズが耳を惹く「トゥー・メニー・ティアーズ」、ブルーズを主体とした初期の楽曲を思い出す「クライング」、ルーズさが良い味を出す「ステイ・ウィズ・ミー」、アコースティック・ギターを柱とした「キャント・ゴー・オン」と続く。

 

実はデイヴィッドは「サーペンス・アルバス(白蛇の紋章)」以降の音楽性を回想し、「サイクスやヴァイが居た時代は、シャウトして派手に振舞うのが大変だった」といった趣旨のコメントを後に残している。これを踏まえて考えると、その反動とも言うべきか、本作の音楽性はデイヴィッドの安らぎと落ち着きを求める精神が宿っているように解釈できる。

 

「ユー・アー・ソー・ファイン」はアップテンポな部類に入るが、アルバム後半も「ユア・プレシャス・ラヴ」「テイク・ミー・バック・アゲイン」と、ゆったり系のナンバーが続く。「ウーマン・トラブル・ブルース」は、どこかカヴァデール・ペイジ的な曲調に。12曲目からは日本盤のボーナス・トラックで「エニシング・ユー・ウォント」「キャント・ストップ・ナウ」「オイ」を収録。この3曲は、どれもハードロック色が濃い。

 

因みに本作に参加したミュージシャンは、ヴォーカルのデイヴィッドをはじめ、エイドリアン・ヴァンデンバーグ(g)、ガイ・プラット(b)、デニー・カーマッシ(ds)、ブレット・タグル(Key)。クレジットを見ると、バッキング・ヴォーカルとして数名の名前が見られる。

 

エイドリアンはホワイトスネイクの活動に長年関わって来たが、「スリップ・オブ・ザ・タング」時は怪我によってレコーディングに参加できず、アルバムはスティーヴ・ヴァイが全面的にギターを弾いた経緯がある。スタジオ音源でギター・プレイを披露した点では、本作が満を持しての参加となった。

 

2000年代に入って、ダグ・アルドリッチとレブ・ビーチを迎えた編成のホワイトスネイクは、粋の良いハードロックを身の上としており、それは1987年頃のイメージを継承していると言える。前後の歴史を踏まえると、やはり本作「レストレス・ハート」は異色作であるが、デイヴィッドの中にある音楽の核たる部分が素直に投影された作品に。