第673回「続々々・聖飢魔Ⅱ全曲紹介」③ | PSYCHO村上の全然新しくなゐ話

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発売より時間が経過したアルバム、シングル、DVD、楽曲等にスポットを当て、当時のアーティストを取り巻く環境や、時代背景、今だから見えてくる当時の様子などを交え、作品を再検証。

1999 BLACK LIST[本家極悪集大成盤]/聖飢魔Ⅱ

⑤MASQUERADE

初期のメタリックな楽曲が続いた後、本曲のイントロが出てくると「随分、知的に聴こえる」とはゼノン和尚のコメント。大教典「MOVE」(1998年)収録の本曲は、聖飢魔Ⅱが音楽的に洗練を極めていた時代を象徴する1曲だ。

 

キーボードのイントロが入る前にSE的なパートが設けられた大教典ヴァージョンが収録されている。ハードロックでありつつもキーボードを敷き詰めて洗練されたサウンド、キャッチーな歌メロ、分り易い歌詞は、ルーク参謀が音楽的な舵を取っていた時代の特徴的な要素であり、マニア層のみならず誰でも楽しめる普遍性を兼ね備えている。

 

本曲が発布された当時、聖飢魔Ⅱは「ふるさと総世紀末計画」の最中だった。47都道府県すべてを廻るツアーで、ミサは日替わりセット・リストが組まれたが、その中で2曲のみ全公演でプレイされた楽曲がある。その内の1曲が本曲「MASQUERADE」である。こういった事もあり、後期の聖飢魔Ⅱを代表する1曲との色合いが強い。

 

ツアー序盤の新宿リキッドルームで撮影されたビデオ・クリップは、当時の空気感をそのまま映像に収めていると言えそうだ。同ツアーではデーモン閣下が頭巾を身にまとって登場し曲が進行すると頭巾を取って、オレンジ色の新しい髪型(当時)を披露するのが本曲の定番演出に。映像作品「ふるさと総世紀末 COMPLETE」(2004年)で、その様子が見られる。

 

また本曲は、期間限定再集結において新たなイメージで信者に定着している。それはエンディングでルーク参謀とジェイル代官のギター・バトルが繰り広げられる事。本活動時のミサではエンディング部分がルーク参謀のソロ・パートだったので、ギター・バトルは再集結以降に確立した手法なのは間違いない。2020年に行われたヴィデオ黒ミサ「特別給付悪魔」でも本曲が取り上げられており、映像内でギター・バトルが行われている。

 

近年では聖飢魔Ⅱとしてだけでなく、ルーク参謀が悪魔の姿で行ったソロ・ツアーでもプレイされ、2016年~2018年まで3回のツアーでセット・リストに取り入れられた。もちろん、その際はルーク参謀がヴォーカルを担当した。

 

⑥真昼の月~MOON AT MID DAY~

これも後期の聖飢魔Ⅱを代表する1曲。先ほど話に出た「ふるさと総世紀末計画」ツアーの全公演で演奏された2曲の内、もう1曲が本曲である。現在は「XXX-THE ULTIMATE WORST-」のDISC3に本曲の未完成ヴァージョンが収められている。それはピアノのコード弾きから始まるアレンジに対し、本ヴァージョンはコーラス・ハーモニーによって開始される。

 

やはり聴き手の心を掴む点において本ヴァージョンのイントロはインパクトがあり、ピアノ版がお蔵入りになったのは判る気がする。ミサにおいてコーラス・ハーモニーはサンプリングではなく、デーモン閣下、ルーク参謀、エース長官によって生で毎回再現されていた。

 

ギターの低音を活かした「重さ」が土台となる一方で、ギターのフレーズやヴォーカル・メロディはキャッチー、洗練されたサウンドと、一般層にも受け入れられる普遍性がある。本曲は聖飢魔Ⅱの楽曲の中では珍しく、作曲者でない構成員がギター・ソロを担当している1曲。つまりルーク参謀が書いた曲でありつつ、エース長官が間奏のソロを弾いているのだ。

 

これについては、ルーク参謀が「自分が弾くよりエース長官が弾く方が曲に合っているから」と経緯を語っており、エース長官がソロを担当する事になったようだ。実際に聴くと、エース長官らしい美しいメロディを軸としたフレーズが堪能できる。特に間奏後半は半音ずつ上昇するという単純なコード進行をバックに、これだけメロディアス且つスリリングなソロを乗せているのだから、エース長官の凄さを再認識する。

 

歌詞は「真昼の月は、お前の幸せも悲しみも全て見つめている」といった内容。「見守る」という言葉はないものの、歌詞の内容から「真昼の月は、いつもお前を見守っている」と解釈でき応援歌とも受け取れる。東日本大震災後、聖飢魔Ⅱの公式ホームページには構成員からのメッセージとして本曲の歌詞が掲載された。

 

特に表記は無いが、本作に収録されているのは小教典ヴァージョンである。違いはエンディングで、大教典「NEWS」(1997年)の本曲は「Always yours」という歌詞でバシッ!と終了するが、小教典では徐々にフェイド・アウトして音が消える。本作で聴けるエンディングは音が小さくなって終了するので、小教典ヴァージョンだ。

 

⑦サクラちってサクラ咲いて

作詞はデーモン閣下、作曲はエース長官。1998年の聖飢魔Ⅱは「ふるさと総世紀末計画」を行っており、47都道府県制覇のミサ・ツアーと同時に全国のローカルCMにノーギャラで出演する計画を実施していた。その最中に発布された大教典「MOVE」の音楽性は「ふるさと総世紀末計画」と密接な関係がある。

 

この時点で構成員とスタッフの間では1999年にバンドは解散する事が決まっており、それに向けて「ふるさと総世紀末計画」は地方の信者を開拓する目的が含まれていた。これを踏まえて大教典「MOVE」は一般層にも分り易いポップな作風となり、そこに収録された楽曲の多くが、構成員が出演したローカルCMに使用されている。この時期の聖飢魔Ⅱには、誰にでも受け入れられるポップで普遍的な新作が必要だったのだ。同作はヒット・メーカーのジョー・リノイエ氏をプロデューサーに迎えて制作している。

 

本曲「サクラちってサクラ咲いて」は、それを象徴するような1曲で、普段はロックを聴かない層も馴染める、しっとりとしたポップ・ナンバー。浅い言い方で誤解を招くかも知れないが、「いい曲」として誰でも楽しめる仕上がりに。しかしながら、その「いい曲」こそ当時の聖飢魔Ⅱが目指したものであるのは間違いない。

 

一聴するとシンプルでありながら、ゼノン和尚のベースとライデン殿下のドラムが聴かせるノリが重要な鍵を握り、熟練された演奏がここにある。間奏とエンディングに登場するエース長官のギター・ソロは本曲におけるハイライト。正にエース長官というブランドの如き美しさを醸し出す、唯一無二のフレーズが紡がれている。

 

1999年夏のツアーではアンコール1曲目に「嵐の予感」と日替わりで入れ替えられセット・リスト入り。市販はされていないが、最終日のZEPP TOKYO公演が生中継されたので映像が残っている。市販されている映像としては本解散ミサ「THE DOOMS DAY」が現役時代のもので、以降は2015年「続・全席死刑」ツアーの映像でも本曲が取り上げられた。その映像では間奏をルーク参謀が、エンディングのギター・ソロをジェイル代官が担当。

 

⑧敗れざる者たち

新曲として収録された楽曲。1998年後半は大教典「MOVE」を軸とした活動が展開されたので、どちらかと言えばソフトなサウンド・イメージが強い。それに対し1999年の聖飢魔Ⅱは再びヘヴィ・メタルを主体とした楽曲を多く発表しており、本曲「敗れざる者たち」は正統派のメタル・ナンバーに。

 

ライデン殿下のドラムが躍動感を生み出し、曲は力強く進行する。その中にキーボードが敷き詰められているので、ギターを前に出したストロングな音作りの中もにも煌びやかさが宿っている。詩の如き歌詞がストレートなメタル・サウンドに乗って歌われるのは、作詞がデーモン閣下、作曲がルーク参謀という組み合わせの楽曲だからこそ。「Soul will never die(魂は決して死なない)」という歌詞は、解散を発表した聖飢魔Ⅱが歌う事で特別な色合いを持っていた。

 

極悪集大成盤の発布に伴う1999年夏のツアーで演奏され、同年12月29日に行われた本解散ミサ初日にセット・リスト入りしているが、今のところ再集結以降は演奏されていない。解散ミサ初日「THEATRICAL DAY」の映像作品で当時の演奏が見られる。また1999年夏のツアーは最終日の8月5日、ZEPP TOKYO公演が生中継されたので、その中でも本曲が見聴きできる。