第617回「グッド・トゥ・ビー・バッド」 | PSYCHO村上の全然新しくなゐ話

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発売より時間が経過したアルバム、シングル、DVD、楽曲等にスポットを当て、当時のアーティストを取り巻く環境や、時代背景、今だから見えてくる当時の様子などを交え、作品を再検証。

グッド・トゥ・ビー・バッド/ホワイトスネイク

長い歴史を持つホワイトスネイクであるが、そのキャリアを細かく見ると実はバンドが活動休止、もしくは解散していた時期が何度かある。これを書いている現在のホワイトスネイクの出発点を遡れば、デビュー25周年を記念して復活を果たした2003年からのバンド活動が、今日まで繋がっている事は間違いない。

 

2003年より新編成(当時)で再始動したホワイトスネイクは、ベスト選曲によるツアーを数回行っており、それは映像作品「イン・ザ・スティル・オブ・ザ・ナイト」(2006年)やライヴ盤「グレイテスト・ヒッツ・ライヴ+4 NEW SONGS」(2006年)としてもリリースされた。このライヴ盤には、タイトル通り4曲の新曲が収録されており、これは当時の大きな注目点となった。

 

数年間は往年の代表曲・名曲を柱としたセット・リストでツアーを行いつつ、バンドは新たなスタジオ・アルバム制作に向けて準備を開始。2007年頃には録音作業が進められ、デイヴィッド・カヴァデール(Vo)、ダグ・アルドリッチ(g)、レブ・ビーチ(g)、ユーライア・ダフィー(b)、クリス・フレイジャー(ds)、ティモシー・ドゥルーリー(Key)という編成で、本作「グッド・トゥ・ビー・バッド」(2008年)を発表。

 

リズム隊の交代など、幾度かのメンバー・チェンジがあったが、数年間は世界中をツアーで廻った事により、新編成のホワイトスネイクのバンド・サウンドは既にファンに定着していた。しかしながら、新曲となれば話は別。デイヴィッドとダグを中心とし、このメンバーで制作される新曲はどのような感じなのか、往年のホワイトスネイクを想起させるのか、或いは全く新しいものになるのか、大きな関心が注がれる中での新作の登場となった。

 

ホワイトスネイクの作品は、ブルーズを基調とした初期のアルバムから、派手でゴージャスなハードロックまで多彩だ。だが、世界的な成功を収めた点において、一般的には派手でゴージャスなハードロックのイメージが強い気がする。それを踏まえて聴けば、本作の1曲目は意外な曲調を頭に持ってきたと感じるリスナーが多いのではなかろうか。

 

本作の幕開け「ベスト・イヤーズ」は、タメを効かせたグルーヴィな曲調にヘヴィなギター・リフが乗る楽曲。ヘヴィ、グルーヴと言っても、これは2008年で言うモダンなヘヴィさでは無く、ハードロックとしての古典的なヘヴィさである。本作発表後のツアーでは本曲がオープニング・ナンバーとして演奏される事が多く、新しいホワイトスネイクとしてのライヴのイメージを提示する事になる。

 

「キャン・ユー・ヒア・ザ・ウィンド・ブロウ」「コール・オン・ミー」と聴いて行くに従い、これが2008年のホワイトスネイクのサウンドなのだと、その核心部分が見えて来る。曲調はどれも違えど、骨太なギター・サウンドがヘヴィなリフを刻み、楽曲全体もハードロックらしい突き進む感じでは無く、波打つようなうねりが宿っている。それ即ちグルーヴ感と表現できそうだ。

 

「オール・アイ・ウォント・オール・アイ・ニード」は、ゆったりとした曲調。ギター・ソロの美しさや楽曲の持つ空気感は、かつての「イズ・ディス・ラヴ」を部分的に想起させる。「グッド・トゥ・ビー・バッド」「レイ・ダウン・ユア・ラヴ」と後半に収録された楽曲を聴いて行くと、どれもグルーヴがキーワードになりそうな曲調に。

 

「オール・フォー・ラヴ」は、本編である6曲目にレブがソロを弾いたヴァージョンが収録され、日本盤ボーナス・トラックとして12曲目にダグがソロを担当したヴァージョンが収録されている。同じ楽曲で異なるギタリストがソロを担当し、それを2ヴァージョン収録するのは興味深い試みであり、双方のギタリストとしてのカラーの違いが楽しめる内容に。

 

「サマーレイン」も2ヴァージョンが収められている。本曲はアコースティック・ギターを柱としたナンバーであるが、7曲目に聴けるのがバンドで演奏したヴァージョン、13曲目に聴けるのが純粋にアコースティック・ギターとストリングスの伴奏のみをバックに、デイヴッドが歌うヴァージョンだ。

 

「フルー・イン・ラヴ」は古き良きブルーズのフィーリングを取り入れた楽曲。しかしながら、ギター・サウンドのヘヴィさから決して古臭さは感じさせず、語弊のある言い方かも知れないが現代サウンドのブルーズといった仕上がり。「ゴッド・ホワット・ユー・ニード」は8ビートでアップテンポに進行するロック・ナンバー。ある意味、本曲のような曲調こそ、誰もが思い描くホワイトスネイクらしい曲調と言えるかも知れない。

 

本編ラストは、渋いアコースティック・ナンバー「エンド・オブ・タイム」でエンディングを迎える。ホワイトスネイクは言えば、アルバム「サーペンス・アルバス(白蛇の紋章)」(1987年)と「スリップ・オブ・ザ・タング」(1989年)の2作品で提示した音楽性が、ひとつの基本形のように定着している節がある。

 

本作「グッド・トゥ・ビー・バッド」は全体的にグルーヴ感が宿るハードロック作品であり、往年のバンド・サウンドに慣れていると、一聴すると最初は違和感があるかも知れない。だが、考えてみると本作がリリースされた時点で、「サーペンス・アルバス(白蛇の紋章)」「スリップ・オブ・ザ・タング」は約20年前のアルバムであり、音楽シーンも時代の音も大きく変化している。つまり、ここで聴ける楽曲がダグやレブと組んだデイヴィッドから溢れ出てくるサウンドであり、2008年という時代における現在進行形のホワイトスネイクのサウンドなのだ。