第544回「アイアン・メイデン再販特集」⑭ | PSYCHO村上の全然新しくなゐ話

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発売より時間が経過したアルバム、シングル、DVD、楽曲等にスポットを当て、当時のアーティストを取り巻く環境や、時代背景、今だから見えてくる当時の様子などを交え、作品を再検証。

ア・マター・オブ・ライフ・アンド・デス~戦記(ザ・スタジオ・コレクション・リマスタード)/アイアン・メイデン

守りの姿勢では無く、アイアン・メイデンは常に攻めの姿勢である。バンドの歴史の中でも本作「ア・マター・オブ・ライフ・アンド・デス~戦記~」(2006年)は、その印象が強い作品だ。本作の方向性は、当時のバンド活動の状況が密接に関係しているはずなので、今一度、本作発表前後のアイアン・メイデンについて書いておきたい。

 

前作「死の舞踏」(2003年)発表後のツアーも世界各国で日程が組まれ、20042月にはアーチ・エネミー、ソナタ・アークティカと共に日本でもフェス形式の大規模なライヴが開催された。その後、ツアーの中からドイツ公演を収録した映像作品とライヴ盤が「デス・オン・ザ・ロード」(2005年)というタイトルでリリースされている。

 

更にアイアン・メイデンは、バンドの歴史を振り返る映像作品「ザ・ヒストリー・オブ・アイアン・メイデン パート1~ジ・アーリー・デイズ」(2004年)を制作。結成時期のメンバーのインタビューも交えバンドの初期に焦点を当てた作品で、お蔵入りとなっていたライヴ映像もパッケージされた貴重な作品として発表された。しかも、同作と連動して初期のアルバム4作品からの選曲のみでツアーを行い、久々に演奏される楽曲を含むメニューで世界中のファンを熱狂させている。

 

歴史を振り返る一連の作品とツアーで披露した要素の反動か、次のアルバムである本作「ア・マター・オブ・ライフ・アンド・デス~戦記~」は、徹底的に今の(当時)アイアン・メイデンに拘った作品に。比較的コンパクトだった初期の楽曲に対する、これまた反動なのか、本作は大作趣向の長尺曲が大半を占め、密度の濃い楽曲が揃えられた。ジャケットやタイトルからも判るように、アルバムは戦争を題材にしており、各楽曲の歌詞でもその物語が綴られている。

 

ブルース・ディキンソン(Vo)、デイヴ・マーレイ(g)、エイドリアン・スミス(g)、ヤニック・ガーズ(g)、スティーヴ・ハリス(b)、ニコ・マクブレイン(ds)で本作も制作。尚、今期の再販シリーズは、これまでも4作品中のひと作品にエディのフィギュアが付属する特別版がリリースされている。今回は本作にそのフィギュアが付いているので、ファンは要チェックだ。アルバム・ジャケットをイメージした兵士のエディである。

 

大半が尺の長い楽曲となる本作であるが、1曲目の「ディファレント・ワールド」は4分少々のまとめられたコンパクトな構成で、アップテンポな曲調から掴みとしては最適な1曲。間奏でのトリプル・ギターによるハーモニーも素晴らしい。アルバム全編に緊張感が宿る中、本曲の冒頭ではニコのおどけた声が取り入れられており、この辺りはユニークだ。

 

「ディーズ・カラーズ・ドント・ラン~軍旗の下に」「ブライター・ザン・ア・サウザンド・サンズ~黄色い太陽」から起伏に富んだ構成の楽曲に。「ザ・ピルグリム~巡礼者達」はイントロのギターのメロディが印象的で、アップテンポな曲調に発展。これはスティーヴとヤニックの共作曲とクレジットされている。歌詞はスピリチュアルな意味にも解釈できる。

 

戦場での兵士の苦悩を綴った「ザ・ロンゲスト・デイ」は、シリアスな歌詞でありつつ、ギターのハーモニーの美しさなど、メタルとしての様式性が満載。バラードとまでは言わないが、ゆったりとした曲調で進行する「アウト・オブ・ザ・シャドウズ」は、アコースティック・ギターの音色が前に出され、ライヴではスタンドにセットされたアコギをヤニックが弾いていた。

 

「ザ・リインカネイション・オブ・ベンジャミン・ブリーク~輪廻」は、バラード風の静かな冒頭を経て重量感を帯びた曲調へ。「フォー・ザ・グレイター・グッド・オブ・ゴッド~御名に捧ぐ」が、これを書いている現在、「ザ・レガシー・オブ・ザ・ビースト」ツアーでも演奏されている1曲。これたま複雑な曲構成ではあるが、サビなど観客が一緒に歌えるキャッチーな面もある。「ロード・オブ・ライト~光の主へ」「ザ・レガシー」と大作でアルバムは締められる。

 

本作に従う日本公演は早い段階から既に決定しており、20069月にアルバム発表、10月末に日本公演という流れだった。日本公演のみならず、本作発表に従うツアーで世界中のファンの驚かせたのは、ライヴでアルバム収録曲を1曲目から10曲目まで全て演奏した事だ。つまり新作の完全再現という形のセット・リストで公演が行われたのである。

 

誤解を恐れず言えば、このアイディアは世界中で賛否両論を巻き起こした。アルバムの完全再現が行われる分、「ラスチャイルド」「誇り高き戦い」「ヘヴン・キャン・ウェイト」「明日なき戦い」など、ライヴでの定番曲が外され、これらが聴けるものと期待していたファンを落胆させたようだ。

 

しかし、スティーヴからすれば「定番曲は2005年のツアーで毎晩演奏したので、新作を出せばそれらの曲を最優先で演奏するのが当然」という感じなのだろう。また本作「ア・マター・オブ・ライフ・アンド・デス~戦記~」はストーリー性を帯びているだけに、個別に演奏するよりは、まとめて演奏した方が表現する側の意図が最大限に発揮されるというものだ。様々な意見があるが、とにかく本作はツアーでの完全再現も含め、強烈なインパクトを残した。

 

「ザ・レガシー」↓↓