スリップ・オブ・ザ・タング(30周年記念デラックス・エディション)/ホワイトスネイク
最新作「フレッシュ・アンド・ブラッド」(2019年)が素晴らしいアルバムとして好評なホワイトスネイク。ここ数年、そのホワイトスネイクが80年代に発表したアルバムの名作が、30周年記念盤、35周年記念盤と銘打ってボーナス・トラック類を追加した豪華仕様で再販されている。そのシリーズで今回は「スリップ・オブ・ザ・タング」(1989年)が30周年記念盤として再販された。
最新リマスターが施された同作は、アルバム本編+ボーナス音源をCD1枚に収めた仕様、未発表音源を含むレアなヴァージョンをDISC2に収録したCD2枚組仕様、アルバム制作時に録音されたセッション音源、同作に従う1990年のドニントン公演の音源など、CD6枚とDVD1枚がセットになった豪華ボックスがリリースされている。ここでは、CD2枚組を紹介しよう。
前作「サーペンス・アルバス(白蛇の紋章)」(1987年)はホワイトスネイクが世界的ブレイクを掴むヒット作となり、収録曲も以降のライヴで欠かせない代表曲を多数含むアルバムとなった。しかし、御承知のようにアルバム発表を待たずして大幅なメンバー交代が行われ、アルバムを制作した編成と、後にツアーを行ったバンド・メンバーの顔ぶれは全く異なる編成で行われている。
MTVを柱に何度も放送されたビデオ・クリップも音源は旧編成によるものだが、演奏シーンに登場するバンドは音源には参加していないメンバーが演奏している奇妙な映像が出来上がっていた。ただ、こういった事情は熱心なファンのみ知る話であり、詳しい情報を知らない世間一般では、楽曲におけるジョン・サイクスの貢献度やギター・プレイの素晴らしさが知られぬままホワイトスネイクは新編成で成功するという、特にサイクスにとっては気の毒な事態になる。それでもバンドの成功と勢いは止まる事は無かった。
ツアーを終えたバンドは、次のアルバム制作に取り掛かる。本作を制作した当時のバンドは、デイヴッド・カヴァデール(Vo)を筆頭に、スティーヴ・ヴァイ(g)、エイドリアン・ヴァンデンバーグ(g)、ルディ・サーゾ(b)、トミー・アルドリッジ(ds)という編成だ。今や歴史的な事実であるが、ホワイトスネイクにスティーヴ・ヴァイが加入とは誰もが驚く結果に。しかも、エイドリアンが手の故障によってレコーディングに参加できなかったため、本作は全ギター・パートをヴァイが担当している。
本作は音楽的に見ると「サーペンス・アルバス(白蛇の紋章)」の流れを継承した、派手でゴージャスなハードロック作品である。それでも前作と本作で全くカラーの異なるアルバムに仕上がったのは、前作におけるサイクスの色、本作のヴァイの色による部分が大きいはず。デイヴィットと激突するギタリストの個性によって、散る火花の色合いが異なるようなものだろうか。
DISC1に、まずはアルバム本編を収録。特筆しておきたいのは、1989年当時にリリースされた同作とは曲順が異なっている点である。1曲目「スリップ・オブ・ザ・タング」に始まり、かつてのCDでは「チープ・アンド・ナスティ」「フール・フォー・ユア・ラヴィング」と続いていたが、それ以降の曲順も含め、今回のリマスター盤では大幅に変更されている。曲順が変われば作品の流れも変わり、アルバムの印象も変わる。本作は、新たな「スリップ・オブ・ザ・タング」と言っても良さそうだ。
10曲目までがアルバム本編をリマスターしたもので、11曲目以降がボーナス・トラック。まずはB面曲だった「スウィート・レディ・ラック」が収められており、以降は本編に収録された曲のミックス違いを収録。各楽器のパートをミックスするエンジニアが変わる事で、楽曲の印象も変わるというひとつの例がわかって興味深い。
DISC2に収録されているのは、1989年時のレコーディング時に録音されたモニター・ミックスの音源との事。このディスクに収録された音源全てが初登場らしい。「ディーパー・ザ・ラヴ」「ジャッジメント・デイ」の音源はスティック・カウントから始まっており、ギター・パートもアルバム本編で聴ける正式なものより音数が少なかったりと、興味深いヴァージョンになっている。
「スロー・ボーク・ミュージック」では曲が始まる前、わずかに咳の声が入っていたり、他の曲でもカウントや打ち合わせの声などが曲前に聴こえる音源も多数。曲が出来上がるまでの過程で録音された音源は、資料として大変貴重である。「ナウ・ユア・ゴーン」はイントロがキーボードのみでギターのフレーズが入っていなかったり、「ウィングズ・オブ・ザ・ストーム」はギターのフィードバック音が無く、いきなりリフから始まるなど、聴いていると面白い点が幾つもある。「フール・フォー・ユア・ラヴィング」もバッキングのリフが、アルバムに正式収録されるヴァージョンとは異なるパートも。
アーティスト問わず世間一般にブートレグ等で出回っているデモ音源とは異なり、こちらは本番で使えそうなほど音質は良い。ただ本編と聴き比べると、まだ音質がラフな感じもする。一歩踏み込んだファンなら、アルバムが出来上がるまでの過程の一端を知る事が出来るディスクなので、楽しめる事は間違いない。
「ウィングズ・オブ・ザ・ストーム」↓↓
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