第481回「カニング・スタンツ」 | PSYCHO村上の全然新しくなゐ話

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発売より時間が経過したアルバム、シングル、DVD、楽曲等にスポットを当て、当時のアーティストを取り巻く環境や、時代背景、今だから見えてくる当時の様子などを交え、作品を再検証。

カニング・スタンツ~ロード・ライヴ~/メタリカ

メタリカのキャリア全般を考えると、アルバム「ロード」(1996年)や「リロード」(1998年)は非常に実験的であり、バンドとして大きな変化を見せていた時期の作品だった。抽象的な表現ではあるが、今になって振り返れば当時にしかない独特の色合いがあったように思う。

 

アルバム「メタリカ」(1991年)で披露したヘヴィ且つグルーヴィな方向性を進化させ、グルーヴのあらゆる可能性を実験するかのような「ロード」の作風に80年代からのファンが戸惑いの声を上げたのは事実であり、また90年代以降の進化によって新たなファンを開拓したのも事実だった。よって、この時代のメタリカは古くからのファンと新規のファンの大きな入れ替わりがあった時期だったと言えそうだ。

 

「ロード」に従うツアーが見られる本作「カニング・スタンツ~ロード・ライヴ~」(1998年)は、丁度その時代のライヴを収録した映像作品である。これがリリースされた1998年は、まだビデオが主流の時代だったのでビデオをメインとして流通していたが、以降はDVDの方がメインとなっているはず。

 

「ロード」で提示した音楽性の変化のみならず、90年代中期にメタリカのメンバーは全員が長髪を切って短髪になっており、ヴィジュアル的にもイメージが変わっていた。バンドのロゴの書体も変わり、シーンにおけるバンドの立ち位置も、熱心なヘヴィ・メタル・ファンに支持されるバンドから、流行のバンドへと変化。特に90年代中盤から後半にかけてのメタリカは世界中のファンや評論家からあらゆる意見を受ける中で活動していた時期でもある。

 

とは言え、メタリカは大物バンドである事に変わりは無く、「ロード」もヒット。本作を見ても判るようにライヴはアリーナ級の会場で開催され、ラウンド・ステージを用いてのパフォーマンスとなっている。当時の編成はジェイムズ・ヘッドフィールド(Vo,g)、カーク・ハメット(g)、ジェイソン・ニューステッド(b)、ラーズ・ウルリッヒ(ds)だ。ラウンド・ステージだけに、本作はメンバーがアリーナの客席の間を通過してステージに上がるところから始まる。そしてジャムのような感じで暫く音を出した後、カヴァー曲「ソー・ホワット?」で演奏が開始されている。

 

「クリーピング・デス」「ワン」「フェイド・トゥ・ブラック」といった80年代からライヴで欠かせない楽曲がある一方、当時の最新作だった「ロード」からの「エイント・マイ・ビッチ」「ヒーロー・オブ・ザ・デイ」「キング・ナッシング」「アンティル・イット・スリープス」もプレイ。ブラック・アルバムからの楽曲も含め、90年代以降に発表された楽曲の割合が高いメニューに。

 

本編の終盤では「キル/ライド・メドレー」と銘打って「ライド・ザ・ライトニング」「ノー・リモース」「ヒット・ザ・ライツ」「フォー・ホースメン」「シーク・アンド・デストロイ」「ファイト・ファイヤー・ウィズ・ファイヤー」といった初期のアルバム2作品からの楽曲をメドレー形式で演奏。恐らく普段ロックを聴かない人にとっては、本作で見られるメタリカの演奏や楽曲は充分に過激な部類に入ると思うが、本作で見聴きできる初期の楽曲は80年代のライヴとは異なり、この時期らしい仕様で演奏されているように思う。

 

つまり1985年頃の爆発するようなエネルギーとパワー、荒々しさを全面に出したアグレッシヴな演奏と言うより、キャリアを積んで演奏技術も上がり、精神的にも余裕が出た1997年の大人のメタリカの演奏といった感じだ。変な表現ではあるが、小奇麗にまとまったアグレッシヴな演奏とも言えそう。

 

さて本作を紹介するうえで「エンター・サンドマン」の最後のシーンは外せない。演奏が進む中、天井で作業をしていたと思わしきスタッフが落下して宙吊りとなり、電気がショートしたのかステージにも火花が噴き上がって場内は真っ暗になるのだ。落下したスタッフの他、火だるまになって走り回るスタッフもおり、すぐに救急班によって担架に乗せられ搬送される。ジェイムズも顔を覆い、倒れ込む。

 

ライヴ中に重大な事故が発生したように思うが、本作のタイトルは「カニング・スタンツ」。訳すと「ズルいスタント」「悪賢いスタント」でも言うべきか、ここで見られる事故は全て演出だったのである。こういった演出がアメリカではブラック・ジョークとして捉えられるのか否か定かで無いが、日本では賛否両論ある事は間違いない衝撃的な演出だ。まあ、こういった常識の枠に収まらないスケールの大きさこそがメタリカと言えるが。

 

衝撃的な演出を経て、場内は暗くなったままステージには無数の電球が点される。その明かりで「アム・アイ・イーヴル?」「モーターブレス」を演奏し幕を閉じる。最後に電球の明かりのみで演奏する演出は、まだ無名時代にガレージで演奏していた頃の精神を反映していると解釈してみるとどうか。アリーナ級の会場で大掛かりな仕掛けを用いてライヴを行っても、バンドの核となるのはメタルが好きでバンドを始めた頃の精神であるという無言のメッセージなのかも知れない。

 

ラストに衝撃の演出「エンター・サンドマン」↓↓

 

 

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