第480回「THE WORST BLACK MASS TOUR」 | PSYCHO村上の全然新しくなゐ話

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発売より時間が経過したアルバム、シングル、DVD、楽曲等にスポットを当て、当時のアーティストを取り巻く環境や、時代背景、今だから見えてくる当時の様子などを交え、作品を再検証。

B.D.10 武道館 THE WORST BLACK MASS TOUR/聖飢魔Ⅱ

極悪集大成盤「WORST」(1989年)の発布に従うツアーより、日本武道館でのミサを収録した映像作品。現在はDVDとして販売されているが、発布当時はビデオとレーザーディスクだった。厳密に言うと2000年に初DVD化された時はCDケース・タイプのパッケージだったが、その後、トールケース・サイズの商品としても流通している。

 

B.D.101989年)当時の聖飢魔Ⅱは「WORST」でオリコンチャート1位を獲得しており、その年の紅白歌合戦にも初出場を果たしている。白い戦闘服の構成員が、白いスモークの中で「白い奇跡」を演奏している光景をご覧になった方も多のではないか。世間的にも大きな盛り上がりを見せていた時期だけにツアーの規模も大きく、日程に日本武道館も含まれていた事から本作が誕生している。

 

予め書いておくと、本作に収録された映像は当日のミサを完全収録したものでは無く、楽曲が数曲とMCが何か所かカットされ約1時間程度に編集された内容に。本作が発布されたのはB.D.91990年)の夏であるが、それ以前に衛星放送(BS)でこの日本武道館ミサは放送されており、そちらの方が商品には収録されていない4+MCを含むロング・ヴァージョンだった。

 

よって完全版に近い内容の映像が存在しているのは事実だが、当時はテレビやビデオ・デッキにBSチューナーが内蔵されている物は少なく、別売りのBSチューナー(しかも、かなり大きく場所を取る)を取り付けないと衛星放送は視聴できない時代だった。例えば2000年頃ならBSはどの家庭でも見られるほど普及していたと思うが、1990年頃はまだそのような時代では無かったため、この映像を録画して今でも所有しておられる方は非常に貴重な物を持っていると言える。

 

さて当時の構成員はデーモン閣下(Vo)、ルーク篁参謀(g)、エース清水長官(g)、ゼノン石川和尚(b)、ライデン湯沢殿下(ds)。怪人松崎様(Key)は、このツアーではコナン・ザ・マツザキ・グレートと紹介されている。

 

実際のミサはデーモン閣下の開演前諸注意から始まっているが、本作ではその部分はカットされ、その代わりに大教典「THE OUTER MISSION」(1988年)のジャケットにも登場している異次元探査船が日本武道館の前に着陸するイメージ映像からスタート。それを経て「WORST」版の「心の叫び」がSEとして流れる中、構成員が登場するシーンに繋がる。

 

とにかく大会場だけにステージ・セットも豪華で、オープニング曲「THE OUTER MISSION」では、リフトのようなものに乗ってデーモン閣下が上の方から登場し、曲が進行するに従い下降して行く動きを見せている。そのデザインからステージ・セットそのものが異次元探査船の片側をイメージしているとも見えるので、異次元探査船が会場に着陸し、その中から構成員が降りて来る流れも受け取れる。

 

選曲についても「怪力熊男」を筆頭に、アンコールのメドレー内で演奏されている「悪夢の叫び」「THE EARTH IS IN PAIN」「CREEPING TWILIGHT」など、活動全般を通してそう頻繁には演奏されていない楽曲も聴く事が出来る。「地獄への階段」は30周年再集結「全席死刑」ツアーでも演奏され、それを収録した映像も発布されているが、そちらは小教典ヴァージョンを忠実に再現したアレンジだったのに対し、この日本武道館で演奏されたものはバンド演奏が入ってからのアレンジが小教典版とは異なっている。

 

また「WORST」に収録されるに当たり「STANLESS NIGHT」は、大胆にミックスを変更しキーボードのサウンドを際立たせたヴァージョンに仕上がり、「EL.DORADO」はキーやアレンジを変えて再レコーディングされている。こういった経緯もあるので本作で見られる「STANLESS NIGHT」「EL.DORADO」は、これまでに演奏されていたヴァージョンとはガラリと変わった新ヴァージョンで披露された時期のミサとなっている。

 

聖飢魔Ⅱには様々なタイプの楽曲があるが、多くのミサはアップテンポな楽曲で締められていただけに「白い奇跡」で終了するセット・リストも当時としては大きな挑戦だったのではなかろうか(細かく追及するとB.D.111988年)には「NEVER ENDING DARKNESS」が最後だったミサもあるが)。「白い奇跡」の後、実際のミサではデーモン閣下の終演後のMCがあったが、本作ではその部分は省かれて終了。

 

尚、先ほど話に出たBSで放送されたロング・ヴァージョンには「5000光年の彼方まで」「ROCK'ROLL PRISONER」のアコースティック・ヴァージョン、「LOVE FLIGHT」「RENDEVOUS 60 MICRONS’」も入っており、本編前後のデーモン閣下による諸注意、曲間のトークもあった。

 

テレビで放送されているからには、例えば構成員が演奏の出来に納得していなかったから商品の収録から外されたとは考えにくい。80年代中期はビデオが1本で15000円はしていただけに、買いやすいように収録時間を短くして値段を安くするなど、当時のビジネス的な事情が含まれているのだろう。何れにせよ、マスター・テープが存在しているのなら、どこかのタイミングで完全版をリリースして欲しいものだ。