第465回「プリティ・メイズ再販特集」③ | PSYCHO村上の全然新しくなゐ話

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発売より時間が経過したアルバム、シングル、DVD、楽曲等にスポットを当て、当時のアーティストを取り巻く環境や、時代背景、今だから見えてくる当時の様子などを交え、作品を再検証。

ジャンプ・ザ・ガン(2018年リマスター)/プリティ・メイズ

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ヘヴィ・メタルという音楽が時代のサウンドとなっていた1980年代は、アメリカやイギリスのみならずヨーロッパ各国のバンドが世界的に成功を収め、アメリカのヒットチャートを賑わすなど、シーンが非常に活性化していた。デンマーク出身のプリティ・メイズもまた、徐々にアメリカでの成功を視野に入れて活動を行うようになっていた。

 

アルバム「フューチャー・ワールド」(1987年)に収録された「ラヴ・ゲーム」などは、それを強く意識した楽曲という印象だ。そしてバンドは、本作「ジャンプ・ザ・ガン」(1990年)にて本格的にアメリカ進出を意識したアルバム作りに入る。プロデューサーにロジャー・グローヴァーを起用している辺りからも、バンドの本気度が伺えると言えまいか。

 

売れるアルバムという言い方をすると言葉は悪いが、マニア層を中心としたサウンドでは無く、より多くのリスナーにアピールできるサウンドを目指していたバンドにとって、ロジャーは重要な人物だったはず。何せロジャーは世界的成功を収めているディープ・パープルのメンバーである。どういったサウンドが大衆に受け入れられ、どういった曲を作ればより良くなるか、あらゆる音楽的知識を持っている事からバンドはロジャーにプロデュースを依頼したと思われる。

 

厳密に言えばロジャー起用の背景には運営側の繋がりや、ツアーでプリティ・メイズがディープ・パープルの前座を務めていた事も含まれているようだ。さて、本作はロニー・アトキンス(Vo)、ケン・ハマー(g)、リッキー・マークス(g)、アラン・ディロング(b)、フィル・モア(ds)という顔ぶれで制作された。前作はギタリストがケンのみだったが、その後のツアーからリッキーが加わり、その流れで本作にも参加。

 

また、キーボード奏者のアラン・オーウェンが脱退した為に、本作は正式メンバーとしての鍵盤奏者は不在で制作されている。尚、アランは90年代のプリティ・メイズにはサポート奏者として何度か参加している事を付け加えておきたい。本作制作時にフィルが交通事故に遭うハプニングが発生するが、イアン・ペイスがゲスト参加する形でアルバムを完成させている。

 

アルバムは1曲目の「リーサル・ヒーローズ」を聴けば、前作以上に洗練された音作りになっている事が明確。「ドント・セトル・フォー・レス」「ロック・ザ・ハウス」「ヘッド・ラインズ」「パートナーズ・イン・クライム」など、ハードロックやヘヴィ・メタルである事はそのままに、楽曲がよりポップに、そしてより多くの大衆にアピールできるスケール感も兼ね備えている。

 

パワー・バラード系の「サーヴェッジ・ハート」における重厚なコーラスや楽曲が持つ空気感は、80年代のMTVで流れているビデオ・クリップを想起させる。因みに本曲はライヴにおいてキーボード伴奏を中心とした、ある意味、アコースティック・アレンジで演奏される事が多い。「ヤング・ブラッド」はフィルに代わってイアン・ペイスがドラムを叩く1曲。「ジャンプ・ザ・ガン」「アテンション」は本作の中ではメタリックな色合いが強い仕上がりに。

 

最もポップな1曲が「ハング・タフ」で、リズムなど音楽的な部分は異なるものの、前作で言うところの「ラヴ・ゲーム」を思わせるような非常にキャッチーな楽曲だ。イントロからしてスリリングな「オーヴァー・アンド・アウト」は、ミドルテンポのロック・ソング。注目したいのは最後に収録された「ドリーム・オン」で、これは明らかにアメリカを意識した曲調。西部劇に出てきそうなドライなアコースティック・ギターを中心とした曲。後にも先にも、こういったタイプの楽曲は珍しい。

 

先ほど、前作「フューチャー・ワールド」以上に洗練された音作りと書いたが、どのような点がその印象を与えるのか紐解いて行きたい。前作は、確かに楽曲においてキーボードが担う役割が大きくなった分、シンセ特有の煌びやかな要素が加わって洗練されたイメージになった事は間違いない。しかし前作と本作では、また違った全体像となっている。

 

前作はヘヴィ・メタルらしく、ギターの音を中心としながら、キーボード、ベース、ドラムと各楽器の音の輪郭がはっきりと前に出たサウンドになっているように感じる。本作は、ヴォーカルの歌を中心とし、楽器隊のサウンドは個々が主張するようなミックスにせず、ヴォーカル&演奏陣といったように、ひとつにまとめられた音作りのように感じるが、いかがだろうか。言い方によっては誤解を招きそうだが、各パートの音の主張を抑え平均的なサウンドに収められているのである。

 

そこにエコーの効果も加わり、角を取り落として丸くなったようなサウンドというのが、本作の全体像のような気がする。でも、これこそ当時のプリティ・メイズが目指していた、より多くの大衆にアピールできるサウンドなのではなかろうか。アメリカでの成功を視野に入れて制作された本作で、バンドは勝負に出たのだ。

 

 

 

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