第461回「ヴィジョンズ」 | PSYCHO村上の全然新しくなゐ話

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発売より時間が経過したアルバム、シングル、DVD、楽曲等にスポットを当て、当時のアーティストを取り巻く環境や、時代背景、今だから見えてくる当時の様子などを交え、作品を再検証。

ヴィジョンズ/ストラトヴァリウス

日本でデビューした当時からメロディック・スピード・メタルのリスナーの間で高い人気を得ていたストラトヴァリウスであるが、イェンス・ヨハンソン(Key)とヨルグ・マイケル(ds)が加入して制作された前作「エピソード」(1996年)によって、バンドは一気にメジャー感が増した気がする。

 

「エピソード」は収録された楽曲の素晴らしさに加え、イングヴェイ・マルムスティーンのバンド他で活躍した名プレイヤーであるイェンスの加入、演奏力の向上など、あらゆるプラスの要素が重なり、バンドはアルバム「フォース・ディメンション」(1995年)から次のステップへ進んだ。「エピソード」は、それを証明する作品に仕上がっていた事は間違いない。因みに同作に収録されたバラード曲「フォエヴァー」は、韓流ドラマ「初恋」の劇中歌としても使用され、リリースから何年も経過した頃に再注目も浴びている。

 

「エピソード」は当時の作品の中で最高傑作とも呼べるアルバムだっただけに、次なるアルバム制作にプレッシャーを感じていたと思われるが、ストラトヴァリウスは、それを乗り越えて更に凄いアルバム「ヴィジョンズ」(1997年)を発表した。本作に参加しているメンバーはティモ・コティペルト(Vo)、ティモ・トルキ(g)、イェンス、ヤリ・カイヌライネン(b)、ヨルグという前作同様の顔ぶれ。

 

まず本曲には以降のライヴでは欠かせない楽曲が多数収録されており、中でも「ブラック・ダイアモンド」は公演において本編最後やアンコールなどの最も重要な位置で演奏される楽曲となった。ミドルテンポの「キッス・オブ・ジューダス」も頻繁に演奏される曲であり、こうしてみると後に代表曲となる曲がアルバム冒頭から立て続けに収録されている事が判る。

 

因みに、この手のバンドは日本ではテンポの速い曲が人気を博し、ヨーロッパではミドルテンポの楽曲がウケるという定説が昔からあるが、本作も「ブラック・ダイアモンド」から始まる日本盤に対し、海外盤は「キッス・オブ・ジューダス」から始まるように順番が入れ替えられているのが興味深い。アーティスト問わずメタル系のバンドは日本でシングルとなる楽曲とヨーロッパでシングルとなる楽曲が正反対の選曲だったりするが、この1曲目と2曲目の入れ替えも、それを象徴する話のように思えてくる。

 

アルバムは他にも、ネオクラシカル風味の疾走曲の決定版「フォエヴァー・フリー」やメタリックな「リージョンズ」があり、これらもアルバム発表時期から以降数年のライヴではよく演奏されていた。これらはライヴ盤「ヴィジョンズ・オブ・ヨーロッパ」(1998年)でも聴く事が出来る。

 

これぞメロディック・スピード・メタルと言いたくなる曲がある一方、バラード「ビフォー・ザ・ウィンター」はメロディや楽曲に宿る空気感からして北欧のバンドらしい哀愁と、その奥に見える構成美が特徴的。ハープのような美しいサウンドも印象的である。重量感のある「アビス・オブ・ユア・アイズ」は、ヘヴィでダークなサウンドではあるが、キーボードの煌びやかさも加わり、明と暗の対比が絶妙な仕上がり。

 

「ホーリー・ライト」はトルキとイェンスのテクニカルなソロをフィーチュアしたインスト曲で、曲は一本調子では無くアコースティック・パートを導入するなどの展開が設けられている。ライヴにおいてこれを発展させたのが「ヴィジョンズ・オブ・ヨーロッパ」でも聴ける「ホーリー・ソロス」だ。インストに続いて収録された「パラダイス」は、ヘヴィ・メタルである事を下地としながらも、本作収録曲の中では非常にポップで判り易いメロディの曲。構成も複雑ではなくコンパクトにまとめられており、ある意味、シングルを意識したような作りとも言える。

 

アルバムも終盤となり、9曲目「カミン・ホーム」は純バラードと言える1曲。アコースティック・ギターのアルペジオをバックにコティペルトがしっとりと歌い、サビではエレクトリック・ギターのディストーションも入って壮大に歌い上げる。アルバム名にもなった「ヴィジョンズ」は10分を超える大作。起伏に富んだ展開が設けられており、ドラマティックに進行している。これが本編で、日本盤には「ブラック・ダイアモンド」のデモ・ヴァージョンと、前作「エピソード」に収録された「アンサートゥンティ」のライヴ音源を収録。

 

前作「エピソード」も名作と呼べる作品であったが、疾走曲と大作が中心だった「エピソード」に対し、本作「ヴィジョンズ」は曲調的にも非常にバランスの取れた作品となっている。次なるアルバム「デスティニー」(1998年)では全体的に大作趣向の楽曲が推し進められる事も考慮すれば、本作「ヴィジョンズ」は音楽性の移行の時期でもあり、その最中に制作されただけに非常にバランスが取れた内容とも言えそうだ。そういった意味で、本作はストラトヴァリウスをこれから知ろうとする人の入門編として、バンドの音楽性が凝縮され、且つ聴き易いアルバムとなっている。

 

では「パラダイス」↓↓

 

 

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