第457回「リアル・ワールド」 | PSYCHO村上の全然新しくなゐ話

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発売より時間が経過したアルバム、シングル、DVD、楽曲等にスポットを当て、当時のアーティストを取り巻く環境や、時代背景、今だから見えてくる当時の様子などを交え、作品を再検証。

ウェイク・アップ・トゥ・ザ・リアル・ワールド/プリティ・メイズ

1983年のデビュー以来、一貫したヘヴィ・メタル・サウンドを提示してきたプリティ・メイズだったが、アルバム「プラネット・パニック」(2002年)で見せた方向性は、これまでのキャリアの作品を踏まえると非常に実験的な内容だった。

 

収録曲全てに該当するわけでは無いにせよ、ダウン・チューニングなど、ある種のモダンな手法を取り入れヘヴィさを前面に出したサウンドは、当時はリスナーを驚かせたものだ。ただ、アルバムのジャケットを筆頭に作品全体が2001年にアメリカで発生した同時多発テロに対するバンドからの問題定義であり、社会性を踏まえた楽曲が多いため、決して明るい内容では無く、ヘヴィなサウンドで暗めの作風になるのは必然的だったとの見方も出来るのだが。バンドはアルバム発表後にツアーを各国で行い、その一部はライヴ盤「アライヴ・アット・リースト」(2003年)で聴く事ができる。

 

さて「プラネット・パニック」で提示した変化が、今後のバンドの音楽性にどのように反映されて行くのか、ファンは気になっていたと思う。しかしながら多くのリスナーが注目していたものの、バンドは次のアルバムを発表するまでに4年の歳月を要する事になった。これはコンスタントに作品を発表し続けていたプリティ・メイズの活動から考えると、非常に長いインターヴァルであった。

 

これには理由がある。バンドの中心人物のひとりであるケン・ハマーが心臓の手術をしたというニュースを耳にしており、ケンの療養と回復に時間を要したと思われる。また、バンド内では久々にメンバーの交代もあり、ラインナップが整うにも時間を必要としたようだ。よって4年ぶりに発表されたアルバムである本作「ウェイク・アップ・トゥ・ザ・リアル・ワールド」(2006年)は、ロニー・アトキンス(Vo)、ケン・ハマー(g)、ケン・ジャクソン(b)、アラン・チカヤ(ds)、モルテン・サンダケル(Key)という新編成で制作されている。

 

1991年以降、同じメンバーで活動していたプリティ・メイズが相当久々にメンバー・チェンジを行った事や、前作の音楽的変化がどのように反映されているのか、またはされていないのか注目したい点は幾つもあるが、結果的に言うと本作からバンドは再び正統的且つ伝統的なヘヴィ・メタル・サウンドに回帰している。よって、本作は誰もが思い描くプリティ・メイズらしいサウンドに仕上がった。

 

それは1曲目「ウェイク・アップ・トゥ・ザ・リアル・ワールド」から顕著に表れており、アップテンポに駆け抜ける「オール・イン・ザ・ネイム・オブ・ラヴ」も同様。キーボードがムーディなサウンドを奏で、ヘヴィなギター・リフが切り込んでズッシリと進行する「アイ・アム・ジ・エンド」、厳粛な空気感を持ちつつ哀愁とポップさが絶妙な比重で成り立つ「アズ・ギルティー・アズ・ユー」、骨太なリフを主体とするメタル・ナンバー「ホワイ・ダイ・フォー・ア・ライ」とアルバム前半から「らしさ」全開の楽曲が満載。

 

ケン・ジャクソンのベース・ラインから始まるロック・ナンバー「サッチ・ア・ラッシュ」は、随所で聴けるポップな歌メロがキャッチーである。またキーボードが作り上げる幻想的なサウンドと、ギターが奏でるロックなサウンドの対比も面白い。哀愁のバラード「ホエア・トゥルー・ビューティー・ライズ」のような曲調も、プリティ・メイズの得意とする伝統的な一面だ。和み系の2曲が続いた所に炸裂する「ブレイヴ・ヤング・ニュー・ブリード」「ターミナル・ヴァイオレンス」は、これまたアップテンポなメタル・ナンバー。

 

「パーフェクト・ストレンジャーズ」はタイトルを見てピンと来る方も多いかも知れないが、ディープ・パープルのカヴァーである。1984年に第2期のラインナップで再結成を果たしたディープ・パープルのアルバムのタイトルにもなっている楽曲で、再結成時期を象徴する1曲でもある。「アナザー・ショット・オブ・ユア・ラヴ」は、カテゴライズするとバラードとなるはずであるが、単なる静かな曲では無く壮大なムードを兼ね備えた1曲。

 

「プラネット・パニック」発表に従うツアーで日本公演が行われなかった事、その後、バンドは活動停止状態にあり新作を発表するまでに4年の歳月があった事など、ここ日本でもリスナーは随分とプリティ・メイズとはご無沙汰になっていた。それでも本作「ウェイク・アップ・トゥ・ザ・リアル・ワールド」を聴いて、改めてプリティ・メイズの良さを再認識した方も多かったのではなかろうか。

 

前作に続き、本作発表後も日本公演が行われていない辺りを見ると、インターヴァルが長かっただけに当時のプリティ・メイズはこれまでと同様の人気は取り戻せていなかったとも言える。実際、アルバム発表時期もメディアは本作をそれほどは取り上げる事無く、地味にひっそりとリリースされた印象も強い。しかし近年では、アルバムを発表すれば日本公演を行い、時代の変化に左右されずプリティ・メイズを支持する根強いファンも大勢いる。そういった意味では、音楽性の回帰も含め本作「ウェイク・アップ・トゥ・ザ・リアル・ワールド」が、ひとつの出発点であったと言えそうだ。

 

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