第74回「ハードロックからへヴィ・メタルへ」 | PSYCHO村上の全然新しくなゐ話

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発売より時間が経過したアルバム、シングル、DVD、楽曲等にスポットを当て、当時のアーティストを取り巻く環境や、時代背景、今だから見えてくる当時の様子などを交え、作品を再検証。

暗黒の神話/キッス


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世界中で毎日のように、様々なバンドがデビューしては消えて行く音楽業界。それ程に厳しい世界である。そのような世界で、キッスのように70年代から常に第一線で活躍し、世界中で熱い支持を受けるバンドは、やはり相当の実力者である事が実感できる。その長きに渡りファンから愛され、また新たなファンを獲得するには、良質な楽曲や魅力的なライヴ・パフォーマンスが大きく作用する事は間違いないが、このハードルを越えられないアーティストが多く、そういったアーティストは残念ながら人気は下降し消えて行く事となる。


キッスは常に良質な楽曲を書き、ファンに購入したチケット代以上の凄いライヴを体験してもらうという信念を持ち活動を続けて来た。が、私個人としては、キッスが今日(こんにち)も第一線で活躍している理由のひとつとして、先程も述べた事柄に加え、やはり音楽的な「変化」が重要なポイントとなっている気がする。


「地獄の軍団」(1976年)に代表される70年代のハードロック・サウンドから、ディスコ音楽の要素を取り入れた「地獄からの脱出」(1979年)、ポップな方向性を打ち出した「仮面の正体」(1980年)、煌びやかで洗練された「クレイジー・ナイト」(1986年)、90年代のへヴィなサウンドをキッス流に解釈した「リヴェンジ」(1992年)、「カーニヴァル・オブ・ソウルズ」(1997年)と、キッスの作品を聴けば、その時代に合わせてサウンドを変え、その時の空気を存分に吸い込み柔軟に時代に対応していた事が判る。


その変化が全てプラスに働いたかと言われれば、必ずしもそうでは無が、今回はそれは置いといて、またの機会に取り上げたい。さて、今回ここで紹介するのは1982年発表の「暗黒の神話」である。ハードロックからへヴィ・メタルへ。1979年から1980年辺りを境に、へヴィ・メタルなる新たな音楽が確立され、時代の主流の音となりつつあった。80年代に入った後のキッスは「仮面の正体」でポップな楽曲を提示し、「エルダー~魔界大決戦~」(1981年)でコンセプトに軸足を置いた大作趣向のアルバムを発表していたが、1982年という時代にバンドが打ち出した方向は、正にへヴィ・メタル色を添加した作風であった。


内容について書く前に、本作を取り巻く複雑な事情を説明しておきたい。本作のジャケットを御覧頂くと、ポール・スタンレー(Vo,g)、ジーン・シモンズ(Vo,b)、エース・フレーリー(Vo,g)、エリック・カー(Vo,ds)の4人が描かれている。これが当時のキッスのメンバーであるのだが、実はこれは契約書類上のメンバーであり、エースは本作のレコーディングには一切参加していない。


アルコールやドラッグの問題を抱えていたエースは、事実上キッスを既に離脱しており、本作ではヴィンセント・カサノをはじめ、数人のギタリストが影武者としてギター・パートを弾いている。ヴィンセント・カサノなる人物は、後にキッスの正式メンバーとなるヴィニー・ヴィンセントの事である。しかしながら、エースの離脱は当時、正式には公表されておらず、契約上は正式メンバーだった事からジャケットには登場し、「勇士の叫び」のビデオ・クリップ、本作発表後のテレビ出演の演奏時など幾つかの仕事には参加していた。


本作「暗黒の神話」は、全体を通してこれまでのキッスに無い、ハードな楽曲が揃えられている。「セイント・アンド・シナー」「キラー」辺りの攻撃的なギター・リフは、70年代のハードロックとは明らかに違う、80年代当時のへヴィ・メタルのリフである。「勇士の叫び」「ウォー・マシーン」「地獄のロックンロール」辺りのジーン作の曲は、ミドル・テンポで重い印象を受ける。ハードな曲が多い中、「遥かなる誓い」はポールが歌い上げる力強くも抒情的なバラード曲。「真夜中の使者」「勇士の叫び」「遥かなる誓い」「ウォー・マシーン」など、後のライヴで頻繁に演奏される楽曲も、本作制作時に生み出された。尚、曲作りにはヴィニーの名前も表記されており、影武者ギタリストとしてだけでなく、ソング・ライターとしても本作に貢献している点も見逃せない。


エース・フレーリーは、聴けばすぐにエースだと判る独特のフレーズや、タイム感、空気感などを確立している個性的なギタリストである。本作で聴かれるフレーズやプレイは、明らかにエースの演奏では無い事は明確で、契約の問題とは言え、エース色の無い本作にエースの姿が登場しているのは、今となれば奇妙な話であり、当時の複雑な事情が痛感できる。


本作は、当時のキッスの作品から考えると、これまでに発表した作品の中で最もハード&へヴィな作風であった為、往年のファンからは多少の戸惑いが感じられたらしいが、後のライヴでは必ず演奏される楽曲も含まれており、本作を好きなファンは多い。本作発表後のツアーでは、70年代の楽曲もかなりへヴィ・メタル色を強めたエネルギッシュな演奏で披露され、弾きまくるヴィニーのギター・ソロもフィーチュアされ、オリジナルとは異なった印象で演奏された。正にこの時代の、この編成だったからこそ聴けたサウンドであったと言える。


では、そのアルバムよりお聴き下さい。まずは、一般的には余り取り上げられる事は無いですが、私個人の好みで最初に聴いていただきます。「キープ・ミー・カミン」↓↓


http://www.youtube.com/watch?v=k7szf6ksYbc




そしてジーン作の「ウォー・マシーン」↓↓


http://www.youtube.com/watch?v=XC_jnHpabjk




最後に本作に従うツアーより、20万人を動員した1983年、ブラジルのリオ公演から「勇士の叫び」↓↓

http://www.youtube.com/watch?v=HXFiOaiT_R8