第66回「変わらぬ事の難しさと美しさ」 | PSYCHO村上の全然新しくなゐ話

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発売より時間が経過したアルバム、シングル、DVD、楽曲等にスポットを当て、当時のアーティストを取り巻く環境や、時代背景、今だから見えてくる当時の様子などを交え、作品を再検証。

エニシング・ワース・ドゥーイング・イズ・ワース・オーヴァー・ドゥーイング/プリティ・メイズ


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音楽は、時代と共に変化するものである。その各時代で流行とされるサウンドが形成され、それらはやがて、その時代を彩った色彩となり、時代を象徴する音像として音楽史で語られる事となる。このように、音楽やサウンドは日々、進化し続ける生き物のようなものなので、キャリアの長いアーティストの作品を聴いてみると、各アルバムでその時代の空気を吸い込み、柔軟に自らのサウンドを変化させて今日(こんにち)まで歩んで来た事が伺える。少々、冷たい言い方で申し訳ないが、それらの変化はビジネスという観点から見ると、売れる為には必要不可欠な事であるし、アーティスト本人の意思は別として、業界で生き残る為にはこうするしか手段は無いのである。


だが、そのような時代の流行やサウンドに左右される事無く、長年に渡り自らの音楽性を貫き続ける貴重なアーティストも存在する。その中のひとつが、このプリティ・メイズである。デンマーク出身のプリティ・メイズは、1983年にEP「プリティ・メイズ」でシーンに登場し、続いてフル・アルバム「レッド・ホット&へヴィ」(1984年)を発表し、正統派へヴィ・メタルで多くのファンを獲得した。この当時は、正にプリティ・メイズが披露しているような音楽も、時代の音のひとつであった為、バンドにとっては追い風が吹き精力的に活動を展開した。


ところが1990年代に突入すれば、アメリカを中心にグランジ、オルタナティヴが流行のサウンドとなり80年代の正統派へヴィ・メタルはもはや過去の産物、時代遅れの古臭いサウンドとして扱われていた。勿論、これはアメリカとその周辺の話であり、ここ日本では美しいメロディや正統派なロック・サウンドを愛するリスナーが多い事から、その時代の音楽に対する考え方、向き合い方は異なっていはいるのだが。こういった状況になると、80年代のデビューしたバンドの多くは消滅、もしくは流行のサウンドを音楽性に取り入れ、新しいファンを獲得するか、長年のファンに不評を買うかの厳しい選択を迫られる事態に陥っていた。


だが、プリティ・メイズは音楽性を変える事無く、自らが築き上げたへヴィ・メタル・サウンドに磨きをかけ、質の高いアルバムを発表し続けたのであった。音楽性を変える事無くとひと言で言っても、アメリカ市場を意識してポップな面に比重を置いた「ジャンプ・ザ・ガン」(1990年)もあるし、正統派へヴィ・メタル作品でも「シン・ディケイド」(1991年)と「スプークト」(1997年)は同じアルバムでは無い。作品毎に異なった色彩を放ちながらも、音楽の中に貫かれる芯は、いつの時代も変わる事は無かった。


さて今回、取り上げたのは、90年代以降のプリティ・メイズの音楽性に磨きを掛け、高水準な楽曲とサウンドでアルバムが構成された名盤「エニシング・ワース・ドゥーイング・イズ・ワース・オーヴァー・ドゥーイング」(1999年発表)である。まず、本作について紹介する前に、この1999年当時の音楽シーンについて少々書きたい。90年代以降に流行したサウンドは更に進化し、音作りにおいても各楽器のチューニングを大幅に下げ、へヴィな音を主軸として楽曲を作るのがモダンとされ、こういった手法を取り入れた作品が多いのが、当時の傾向である。


本作の制作メンバーは、ロニー・アトキンス(Vo)、ケン・ハマー(g)、ケン・ジャクソン(b)、マイケル・ファスト(ds)で、1992年より替わらず活動してきた編成であった。幕開けは、オルゴールのような繊細なメロディから、一転してハードなリフへと切り込む「スネイクス・イン・エデン」に始まり、2曲目「ディスティネイション・パラダイス」で、その流れを受け継ぐ。「バック・オフ」「オンリー・イン・アメリカ」辺りの、アップテンポな正統派メタル曲がある一方で、「ヘル・オン・ハイ・ヒールズ」のようなキャッチーな楽曲も、このバンドが持つ側面のひとつである。繊細なバラード系ナンバー「ウィズ・ジーズ・アイズ」、ムード感とドラマ性を帯びた「ホエン・ジ・エンジェルズ・クライ」、骨太で力強いタイトル曲など、作品を重ねて来たプリティ・メイズの音楽が、高水準、高品質で具現化された1枚となっている。


つまり本作のような正統派メタル作品が、1999年当時に発表されているのは希少である。ロニーやケンは、レインボー、シン・リジィ等のバンドを影響を受けたバンドとしていつも挙げている。2人もまた、ハードロック/へヴィ・メタルの熱烈なファンであり、そういった音楽を愛し、バンド活動を始めているのだ。プリティ・メイズの音楽やライヴ・パフォーマンスには、いつの時代にも、音楽が好きでバンドを始めた頃の新鮮な気持ちを忘れる事無く、演奏を楽しんでいる様子が伝わってくる。その純粋であり、頑固なまでの愛が、時代に左右される事の無い信念として楽曲に貫かれている。


先にも少し書いたが、実はプリティ・メイズは「ジャンプ・ザ・ガン」にて、アメリカ進出を計画していた。これにはメンバーの意思のみならず、レコード会社やプロダクションの意向も含まれているはず。ところが結局、満足のいく成果が出せず挫折を味わう事となった。次に発表された「シン・ディケイド」からバンドは再び軌道を戻し、現在に至っている。個人的見解だが、この時の出来事がロニーとケンの音楽に対する決意を固めたのではないかと推測する。


現在に至るまでもメンバー・チェンジが勃発したり、レコード契約をしていた国の幾つかで契約を打ち切られるなど、バンドにとって厳しい現実が付きつけられる事もあった。それらを乗り越えながらも、素晴らしい楽曲と作品を発表し続ける姿は、正に継続は力なりの言葉が当てはまる。変わらぬ事の難しさと、美しさを象徴するバンド。それがプリティ・メイズである。


では「ヘル・オン・ハイ・ヒールズ」のビデオ・クリップを↓↓

http://www.youtube.com/watch?v=av5PKzPZhpg&playnext=1&list=PLCFE0B3CA125AC7BC&feature=results_video



「ディスティネイション・パラダイス」LIVE 2001 version↓↓

http://www.youtube.com/watch?v=Gu2v_6H7vAg



ドラマティックな「ホエン・ジ・エンジェルズ・クライ」↓↓



http://www.youtube.com/watch?v=XNMLg9yQCbg