PSYCHO村上の怪奇骨董音楽箱
ジューダス・プリーストの記念すべきデビュー作「ロッカ・ローラ」(1974年)。これの発売50周年を記念して、収録曲をリミックス、そしてリマスターした作品がリリースされた。
ヘヴィ・メタルと言えばジューダス・プリースト。ジューダス・プリーストと言えばヘヴィ・メタルの代名詞。歴代のアルバムを通じてメタル・ゴッドとしての地位を確立し、シーンに多大な影響を与えたジューダス・プリースト。そのデビュー作「ロッカ・ローラ」。
・・・と言葉を並べると華々しいが、バンドは意外に地味なデビューを飾っている。先に書いておくと、本作はデビュー作でありながら、バンドのディスコグラフィーで影の薄いアルバムだ。更に言うと、本作の存在自体が、メタル・シーンにそれほど直接的な影響を及ぼしてはいない。
収録曲についても、次作「運命の翼」(1976年)で言うところの「生贄」「切り裂きジャック」に匹敵する立ち位置の楽曲はなく、ライヴでの定番曲もない。たまに「ネヴァー・サティスファイド」が取り上げられるぐらいだ。
しかしながら、単に地味な作品として素通りしてはならないのが、この「ロッカ・ローラ」である。本作には、当時のバンドの立ち位置と、ブリティッシュ・ロック・シーンの動きが生々しく内包されている。今回は、当時のシーン、アルバムの位置づけと収録曲、そして50周年記念盤の音質と、3つの柱を立て聴いて行きたい。
・当時のブリティッシュ・ロック・シーン
ジューダス・プリーストはイギリスの工業地帯バーミンガムの出身。1960年代末より活動を始め、メンバー・チェンジを繰り返しながらバンドとしての輪郭が徐々に確立されて行く。結成時のメンバーは後の顔ぶれと全く異なっており、デビューまで残るメンバーが誰一人としていないのが、今になると面白い事実だ。
ただ、この流動的なメンバー編成の中に、アースのメンバーが一時期在籍したというデータもある。これは興味深い。アースとは、後のブラック・サバスである。ブラック・サバスも同じくバーミンガム出身(ただし、この時にジューダス・プリーストに参加した、アースのアーニー・チャタウェイなる人物は、後のブラック・サバスには参加していないが)。
それぞれにレコード・デビューの時期は違えど、同じエリアで活動し、共にシーンを築いて来たのは間違いない。労働者階級、工業地帯での労働、働きながらの音楽活動。ロックの歴史とイギリスの階級社会は密接に関係している。
だが、階級社会の話まで踏み込んで説明すると長くなるので、今回は割愛したい。何れにしても、当時の人々が置かれた環境と、工業地帯で働く人々の生活風景が見えてくると言えまいか。
バンド活動を継続し、最終的にはロブ・ハルフォード(Vo)、グレン・ティプトン(g)、K.K.ダウニング(g)、イアン・ヒル(b)、ジョン・ヒンチ(ds)が揃いデビューに至る。
現在ではバンドの顔であるロブは、デビュー前年に加入。バンドの頭脳となるグレンは、デビュー直前に加入している。何とも慌ただしいが、この顔ぶれこそジューダス・プリーストであり、これが運命かも知れない。
・アルバムの位置づけ
音楽的には、ヘヴィ・メタルと言うよりハードロックに近い。踏み込んで言うと、ヘヴィ・メタルというワード自体が、79年を境に発生したニューウェイヴ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィ・メタル(NWOBHM)によって広まった呼び方。
74年にはヘヴィ・メタルという呼称が無かった・・・と言い切るほどの材料は持ち合わせていないが、少なくともジャンルとしては確立されておらず、一般のリスナーにもヘヴィ・メタルという呼称は浸透していなかった。
また、ヘヴィ・メタルという音楽のスタイルも、突然変異の如く「型」が出来上がったのではなく、繰り返される時代のサウンドに揉まれ、少しずつ出来上がったもの。大まかに言うと、ロック、ハードロック、パンクとニュー・ウェイヴ、それを経てヘヴィ・メタルという流れである。
改めて「ロッカ・ローラ」について考えると、本作は74年という時代のサウンドを吸収し、それをジューダス・プリースト流に構築した作品と言える。また、後のバンドの歴史を踏まえると、まだ音楽性の方向が定まっておらず、バンドの有り方を模索しているとも、実験的とも言える。
というのも、ハードロックの括りで考えると74年は、レッド・ツェッペリンやディープ・パープルに代表されるイギリス出身のバンドが、既にシーンで多大な成功を収め、ハードロック自体が次なるステップへと進化しようとしていた時期である。
ある意味、完成されてしまったハードロックの形を、次はどのように広げ、サウンドの可能性を追求するか。これは以降のロック・シーンとバンドの歩んだ歴史が明確なうえで語る、後付けの結論になってしまうが、ハードロックから少し先に進み、ヘヴィ・メタルに到達する前のプロトタイプ的作品のように感じる。
続く・・・。