PSYCHO村上の怪奇骨董音楽箱
レコードのオリジナル盤は音が良いとされている。
前回と同じ文言で始まる今回。そう、またレコードを聴き比べる企画だ。今回はキッスのポール・スタンレーが1978年に発表したソロ・アルバムを取り上げたい。
対象は国内盤とUSオリジナル盤。前回にも少し書いたが、レコードのオリジナル盤は、アメリカのレコード会社に所属しているアーティストならアメリカ盤、イギリスのアーティストならイギリス盤が最高峰とされている。
本国のレコード会社がマスター・テープを所有しているからだ。製造番号が若いほど更に良く、コレクターを熱くさせる要素に。当時のキッスは、アメリカのカサブランカ・レコードに所属していた。故に本作もUSオリジナル盤との比較を行いたい。
キッスは純粋なハードロック・バンドとしてのみならず、そのバンドのキャラクター性、ショウのエンターテイメント性もあり、数々のグッズをいち早く制作・販売したアーティストとしても知られている。
ロック・シーンにおいて独自の立ち位置を確立したバンドであるため、現在のレコード市場においても価格設定が様々だ。具体的な例を挙げるなら、アルバム「ラヴ・ガン」(1977年)に付属した紙製の銃の有無、メンバー4人のソロ・アルバムに付属したシグソー・ポスターの有無など、付録の有無や保存状態によって価格が大きく異なっている。
ポールが発表した本作のUSオリジナル盤で言うと、御本人のサイン及びサインが本物であると証明する鑑定書が付いて98000円で販売されていたのを新宿で見た事がある。まあ、これは特別な例としても、レコードそのもの以上に付録が価格に大きく影響している印象が強い。
逆に言うなら、付録はすべて無し、ジャケットや盤に多少のキズがあるものの、聴ければOKぐらいに基準を下げて探すと、意外に国内盤は2000円前後、USオリジナル盤は5000円~8000円ぐらいで買えたりする。当時はキッスの人気が沸点に達していた時期だけに、オリジナル盤でもプレス枚数が多いはず。これも価格に関係しているだろう。
さて、聴き比べについて。今回も国内盤を聴き、次にUSオリジナル盤を聴いた。確かにUSオリジナル盤は全体的に音がダイナミックで、特にA面最後の「テイク・ミー・アウェイ」におけるカーマイン・アピス(ds)の派手なドラム・プレイは迫力満点だった。
が、本作を聴き比べて感じたのは、ひと言で「良い音」と言っても、そこには様々な種類がある事だった。ここからは飽くまで個人の感想、意見として述べたい。
全体の印象としては、USオリジナル盤は非常に抜けが良くダイナミックである。しかしながら、その分、「ムーヴ・オン」「俺のすべて」「イッツ・オール・ライト」など、高音弦を多用するギター・リフの曲は耳にキンとくる。
それに対し、国内盤はUSオリジナル盤に比べると無難にまとまったサウンド。ガツン!と来ない分、耳馴染みがよく聴き易い。この域になると完全に好みの問題となるが、個人的には無難な国内盤の方が良く感じる。
もちろん、ガツン!と来て、耳がキンとなるぐらいが丁度いい、それがロックだという人も居るだろう。客観的に見ても(聴いても)、国内盤よりUSオリジナル盤の方が迫力満点なのも明らかだ。
それでも国内盤を好んで聴きたくなる辺り、良い音の意味は人によって様々という事実を感じる。もし、USオリジナル盤とCDを聴き比べると、先ほどまで耳にキンとくると書いたUSオリジナル盤の方が、耳馴染がよく聴き易い印象を持つかも知れない。
今回は明確な結論は出なかった。それが結論のように思う。それだけレコードの音、更に言うなら良い音の基準は多種多様で奥深いのである。