PSYCHO村上の怪奇骨董音楽箱

 

レコードのオリジナル盤は音が良いとされている。

 

ハンコをイメージして欲しい。書類にハンコを押すと新品のうちは文字や線がくっきりと押されるが、500枚、1000枚と押して行くに従いゴム面が劣化。一部が欠けたり、滲むなどの現象が発生する。

 

もちろん、レコードとハンコは別物なので、完全に置き換えて例えるのは難しいが、レコードも原盤を塩化ビニール製の盤にプレスして製造されるため、枚数を重ねるごとに原盤が摩耗する。よって製造番号が若いレコードほど、音がしっかりと刻まれているため音が良いのだ。

 

また、例えばビートルズやローリング・ストーンズならイギリスのレコード会社がマスター・テープを持っているため、製造番号が若いイギリス盤を探しているコレクターが多い。アメリカのレコード会社に所属しているバンドなら、マニアはアメリカ盤の初回製造品を探している。

 

と言っても、その音の差はピンからキリまである。正直なところ、オリジナル盤と以降にプレスされた盤を聴き比べても、大した差がない作品もあった。深く追求すれば盤の質やキズの有無によって左右される場合、高級なオーディオ機器で再生してこそ本領を発揮するものもあるのだが。

 

しかしながら、都内の専門店に行くとオリジナル盤は3万円、5万円、10万円、モノによっては50万円といった価格で店頭に並んでいる。ある種のロマンを売っているとも言えるが、高額取引するからには音に差がないとマニアはがっかりするだろう。

 

今回は最近入手したレコードで、これは音が良い!と思ったオリジナル盤を紹介したい。イギリスのハードロック・バンド、マグナムの名作「オン・ア・ストーリーテラーズ・ナイト」(1985年)だ。

レコード店で国内盤(画像 左)とUKオリジナル盤(画像 右)の両方あり、どちらを買うか散々迷った末、結局、両方買う事に。国内盤はバンドが当時所属していたポリドールから出ている。UK盤は、バンドの本拠地(?)であるFMのレーベルが貼られている。

 

まず見た目について。手で触ると判るが、国内盤の方がジャケットに良い紙を使っている。国内盤は厚く、UK盤はペラペラだ。紙質の影響かアート・ワークも、国内盤は色合いが鮮やか、UK盤はやや暗い。

 

が、アルバムを聴くと音質については立場が逆転。国内盤も決して音が悪いわけではない。それでも国内盤を聴いた後でUKオリジナル盤を聴くと、音質に明らかな差がある。

 

本作は針を落とすと、お馴染みの「ハウ・ファー・エルサレム」のイントロが始まる。キーボード主体のムード感を演出するパートだ。この時点で明らかに音色のクリアさがUK盤の方が良い。そしてバンドの音が出ると、ダイナミックさ、抜け、広がり全てにおいて素晴らしいのが判る。

 

A面で言うと「ジャスト・ライク・アン・アロー」「ビフォー・ファースト・ライト」における、金物の音が絶品だ。金物とはハイハットやシンバルの音色。それはB面も同様。国内盤は全体的に、枠の範囲で音をまとめたような印象のサウンド。

 

それに対し、UKオリジナル盤は枠を設けずに四方八方に抜けるサウンドと表現すべきか。そういったイメージを与える大きな要因は音のクリアさにあると思う。先に書いた、製造番号が若いほど音がくっきりと押される話と繋がってくる。

 

更に追及すると、音質はアーティストの人気とも密接に関係していると考察する。誤解を恐れずに言うと、マグナムはマニアックな部類に入るバンドだ。故に、一般の誰もが知るアーティストに比べると、レコードのプレス枚数も少ないだろう。その分、原盤の摩耗も少なく、良い状態で保存できているはず。

 

人気は価格にも関係する。オリジナル盤は高額取引されていると冒頭で書いたものの、実は本作のUKオリジナル盤は2800円だった。国内盤が2200円。昨今のレコード・ブームと相場を考慮すると安い価格。悲しいが、マグナムはそれだけマニアックな存在なのだろう。

 

だが、ここで言いたいのは、オリジナル盤は決して金持ちしか手が出せない娯楽ではないこと。高額取引されるのは大物アーティストが中心であり、探せば自分の好きなバンドのオリジナル盤は、意外に安く手に入るかも知れない。

 

国内盤とオリジナル盤の聴き比べ、製造ロット違いの聴き比べといった楽しみ方は、誰にでも出来るということだ。個人的に、マグナムは相当好きなバンドなので、これは良い買い物をしたな~。