PSYCHO村上の怪奇骨董音楽箱

 

かつてはCDの普及によってレコード時代の作品がCD化されて行った。1980年代の話である。時は流れ2010年以降、レコード・ブームによって今度はCD時代の作品がレコード化されるという奇妙な現象が起きている。

 

その時にふと思った。CDとレコードでは、収録時間や記録できる音域が異なる。CD時代の作品はCDの容量をもとに楽曲を作っているのは間違いない。これは収録曲数だけでなく、各楽曲のサウンドそのものにも当てはまる。

 

例えば70年代のサウンドをシンプルと表現するなら、90年代は録音技術の発達により装飾の嵐。CDだからこそ再現できる音域も含めて、とにかく音を足しまくっている印象が強い。これを逆にレコード化した場合、どこまで音が再現できるのだろうか。

 

この気になる点を含めて、最近入手したのがアーチ・エネミーのデビュー作「ブラック・アース」(1996年)だ。ヨハン・リーヴァ(Vo)時代の傑作!・・・いや、傑作は「バーニング・ブリッジズ」(1999年)という方が多いはずだが、個人的には「ブラック・アース」は超名作なのである。

レコードの音質が気になって、なぜこれをチョイスしたのか書きたい。90年代前後に登場した、デス・メタル、ブラック・メタル、そしてグラインド・コア系のバンドは音質が悪い作品が多い。

 

現在では、それっぽいサウンドを演出するために、敢えて劣悪な環境でレコーディングしたり、わざと音質を劣化させるのがひとつの手法としてあるが、黎明期のバンドはざわとではなく本気で作って悪い音になったのが実情と思う。

 

これに関して、カーカスのビル・スティアーとジェフ・ウォーカーがインタビューで興味深い事を言っていた。「当時は自分たちのようなバンドを良いサウンドで録音する機材も技術も確立されていなかった」「エンジニアもどうレコーディングして良いか判らなかった」と。

 

確かにカーカスの初期作品は、物凄い音圧が内部で膨らんでいるかのようなサウンドになっている。抜けが悪いとも言えるが、今になればそれが不気味な世界観を演出する材料になったとも言える。

 

ダウン・チューニングと言えば、アーチ・エネミーも相当な低音を中心としたサウンドである。基本的に2音半下げチューニング。ギターを半音下げただけでも弦のテンションが緩くなるのに、2音半も下げるとユルユルではなかろうかと心配してしまうほど。しかし、これが身体の芯まで揺さぶる低音となる。

 

本作「ブラック・アース」もダークなギター・サウンドと、攻撃的&戦闘的に疾走するドラム、そしてヨハンのデス・ヴォイスが炸裂する作品。もちろん、CDでは聴きまくった作品であるものの、レコードになるとサウンドがどのように変化するのか非常に気になる。

 

抜けが悪いのではないか、ベースの音は聴こえるのか、こもった音の中で速過ぎるドラムが鳴るとサウンドがめちゃくちゃになるのではなかろうかなど、いろいろな考えが巡る中でレコードに針を落とす。

 

が、1曲目「ベリー・ミー・アン・エンジェル」で、その不安は一気に吹き飛ぶ事に。確かにレコードの性質上、CDのような低音から高音までの音域をカヴァーしているわけではないが音は非常に良い。CDで聴き慣れた、あの「ブラック・アース」がレコードの音域に調整されたサウンドになったという印象。

 

「ダーク・インサニティ」「ユーリカ」「アイダレトレス」も同様。ベースはギターよりも音が低いので、本当に聴き取れるのかと思っていたがキッチリと聴き取れる。A面には、ここまでの4曲を収録。B面は「コスミック・レトリビューション」から「フィールズ・オブ・ディソレイション」の5曲。日本盤CDのボーナス・トラック類は収録されていない。

 

結論から言うと、CDと音域は異なるものの、レコードは非常に良い音だった。もちろんCDの音源をそのままレコード化する事はできないので、レコードで聴けるこの音はエンジニアの腕の良さが光っているはず。

 

アーチ・エネミーに限らず、これを機に様々なCD時代の作品のレコード化を聴いたが、何れも音は素晴らしかった。CDは入れ替えなしの一直線で進行するため、CDで聴き慣れた作品はレコードの面をひっくり返す作業で流れを断ち切られた気になるが、これはこれで面白い。

 

尚、今回紹介した「ブラック・アース」は2023年再販盤。ジャケットは1996年のオリジナル・ヴァージョンではなく、2011年再販時のリニューアル・アート・ワークが本商品でも採用された。また、私が入手したのは黒のレコード盤であったが、他にもゴールドの盤、ジャケットが印刷されたピクチャー・レコードも発売されている。マニア泣かせだ。