PSYCHO村上の怪奇骨董音楽箱

 

80年代には当たり前であったが、今となっては貴重な7インチ・シングル・・・いわゆるドーナッツ盤。聖飢魔Ⅱの長きに渡る歴史を振り返ると、大半の教典がCDであるが時代性もあって80年代はレコードで発布されている。

 

今回は大教典「BIG TIME CHANGES」(1987年)からのシングル・カット曲「1999 SECRET OBJECT」の7インチを取り上げたい。2曲入り小教典だ。レコードの他、カセット・テープもある。大教典、小教典ともに発布は11月21日。以降の音楽ビジネスを踏まえると、アーティスト問わずシングルを先行でリリースし、後にアルバムを出す順番が主流となるが80年代は意外にも同日発売が多い。

御承知のように「BIG TIME CHANGES」は、ルーク篁参謀(g)が加入して最初に制作された大教典である。加入当初、ルーク参謀は「取り敢えずギターを弾くために入るぜ」という感覚で、まさか自分もバンドに曲を提供するとは思っていなかったらしい。

 

小教典「EL・DO・RA・DO」(1987年)発布後、本格的に次なる大教典の製作に取り掛かった際「みんなで曲を持ち寄ろう」という話になり、結果的に「BIG TIME CHANGES」は全構成員の曲が採用される事となった(厳密に言うと、デーモン閣下は作詞のみであるが)。

 

大半がダミアン浜田陛下の楽曲で構成された初期2作品、ジェイル大橋代官が主導権を握って制作された「地獄より愛をこめて」(1986年)を経て「BIG TIME CHANGES」へ。同作で提示した音楽性は、以降のバンドの方向性を決定付ける事となった。

 

また収録曲のバランスを見ても、バンド内部の民主化が表れている。音楽性のみならずバンドの有り方についても、1999年の本解散まで続くスタイルの出発点となったのは間違いない。

 

さて、ルーク参謀は「自分が加入した事により聖飢魔Ⅱの流れをどう変えられるか」と強く意識して曲作りに臨んだらしい。それは「ROCK’N ROLL PRISONER」に代表される、ハードロックでありながらドライなサウンドに表れている。

 

大教典にはエース清水長官が提供した「EARTH EATER」があり、こちらはハードロックとフュージョンを融合させたような音楽性に。王道のハードロックをルーク参謀が担当し、エース長官はロックを軸としながらも様々な要素を取り入れる。これも楽曲制作における、両者の棲み分けを明確にする出発点となった気がする。

 

さて、音楽性を拡散させた「BIG TIME CHANGES」であるが、小教典になったのはストレートなハードロック曲「1999 SECRET OBJECT」。既に聖飢魔Ⅱは数多くのメディアに進出し、一般層からも広く認知されていた事から本曲が選ばれたのは想像に難くない。つまり、判り易い曲調であり、悪魔らしい曲であるという事だ。

 

加入したばかりのルーク参謀が提供した曲であり、今や聖飢魔Ⅱを代表する1曲に。改めて7インチで聴くと、33回転のLPに比べて音が良い。シングルは45回転なので、デジタルに言い換えるなら容量をたくさん使っている分、音が良いのと同じ。

 

活動を通して何度かリマスターされ、再録音も行われている本曲であるが、ここで聴けるヴァージョンこそ原点である。クリアでガツン!と来るCDの音圧も良いが、まだ1987年はレコードが主流だったので、レコードに収録する事を想定したサウンドとすれば、ここで聴ける音こそアーティストが当初意図したサウンドと言える。

 

B面曲は「地獄への階段(完結編)」。今でこそ「愛と虐殺の日々」(1991年)または「愛と虐殺の日々~歴代小教典ソニー時代完全盤~」(2013年)で聴く事が出来るが、当時としては完結編が聴けるのは7インチのみだった。

 

前作「地獄より愛をこめて」B面の最後では、ピアノ・パートを経て「時間がなくなってしまった。諸君たちともお別れの時間だ。ここから先はミサで楽しんでくれ」とデーモン閣下の語りが入って、続きが判らぬまま終了する。

 

故に、完結編がここまでドラマティックな構成の大作曲であった事に皆 驚いた。時間としては大作と言うほどの長さではないので、この感覚は楽曲の構成美と聞かせ方に起因する部分が大きいだろう。それだけのスケール感を持った1曲だ。

 

1989年の日本武道館公演を収録した映像作品「B.D.10 THE WORST BLACK MASS TOUR」のミサ・ヴァージョンが古くから有名であるが、これは少々のアレンジが加えられ、小教典版とまったく同じ構成という訳ではない。

 

現在では地球デビュー30周年時に行われた「全席死刑」ツアーの映像作品とミサ大教典で本曲が見聴き出来る。こちらは小教典に収録されたアレンジを忠実に再現したヴァージョンとなっている。何れにしても、ミサで演奏される機会の少ない曲なので、今となっては大変貴重である。