PSYCHO村上の怪奇骨董音楽箱

 

これまで散々レコードの話をしておいて、今回のテーマはハイレゾCD。いきなり時代を飛び越えて現代的になった気がする。多分。

 

私がハイレゾ音源の存在を知ったのが2014年頃。CDにせよ配信にせよ、デジタル音源は元々音が良いので、更に音質が良いとはどのような感じだろう?と興味が沸いた。

 

新宿の電器店のオーディオ・コーナーに行くと、続々とハイレゾ対応の機器が並び始めた。商品を見ているとスタッフの方が声を掛けてくださり、「音がいいんです!」「これまでの音質とは比べ物にならないほど凄いんです!」といった営業ワードを交えて、いろいろ説明してくださった。

 

そして「では実際に聴いてみましょう」とスタッフが試聴用の音源を再生する。「どうです?音がいいでしょう?」と言うが、実は返答に困った。私は初めて聴く知らない楽曲で音質の善し悪しが判るほど、音楽的に良い耳を持っていない。

 

かと言って、それをスタッフに正直に伝えるのは心苦しい。私は「検討してみます。ありがとうございました」とか何とか言って売り場を後にした。興味があって足を運んだものの、機器を揃えるためには資金が必要なのと、この時点では好きなアーティストのハイレゾ音源が出ていなかった事もあり、そこから数年は進捗がないまま過ごす。

 

2020年の秋、キッスのベスト盤4作品がハイレゾCDで再販されると知る。「ダブル・プラチナム」(1978年)、「ベスト・オブ・ソロ・アルバムズ」(1979年)、「キッス・キラーズ」(1982年)、そして「グレイテスト・キッス」(1988年)である。

丁度その頃、ずっと使っていた2004年製のCDラジカセがディスクを読み込まなくなり、これを機にハイレゾ対応機器の購入を再検討(因みに不具合があったCDラジカセは、カセット・テープとMDが使えるので、まだ現役で活躍中)。キッスのCDは、まだ機器を持っていない状態で先に入手している。

 

10月に入ってハイレゾ対応のコンポを購入して接続。これで「ダブル・プラチナム」を聴いてみた。個人的に本作は、私が洋楽のハードロックを聴くきっかけになったアルバムなので、思い入れが深い。昔から何度も何度も聴いたので音質も頭にインプットされている。

 

1曲目「ストラッター’78」からして、従来の音源との差が歴然。本曲はドラム・フレーズから始まるが、ドラムという全体像ではなく、スネア、タム、フロア・タムとパーツのひとつひとつの音がはっきりと明確に主張している印象に。

 

ギターやベースも全体像のみならず、6弦、5弦、4弦、3弦、2弦、1弦とひとつひとつの音の臨場感がある。音のパーツすべて際立ちがあり、それがまとまってバンド・サウンド自体も厚みが出た音源に生まれ変わった。

 

「ハード・ラック・ウーマン」は12弦アコースティック・ギターの音色が素晴らしい。音量を上げて「レット・ミー・ゴー・ロックン・ロール」「デトロイト・ロック・シティ」「果てしなきロック・ファイヤー」辺りを聴くと、70年代のキッスが生演奏しているスタジオに入ると、このような迫力が味わえるのだろうかと想像してしまうほど。

 

今回ハイレゾCD化されたのは、4作品ともにベスト盤なので重複曲がある。「ベスト・オブ・ソロ・アルバムズ」は番外編と位置付けられるかも知れないが、それでも他の3作品を聴けば、キッスのライヴにおける定番曲の半分以上が高音質で楽しめる。

音質のみならず、ヴァージョンとしても珍しい音源があるので紹介したい。「ベスト・オブ・ソロ・アルバムズ」に収録された、ポール・スタンレーの「テイク・ミー・アウェイ」だ。オリジナル版は、エンディングでカーマイン・アピスの派手なドラミングが披露される中、フェイド・アウトして曲が終了する。

 

それに対し、こちらはエンディングの演奏が長めに収録されており、最後は締めのパートがあって終了する。実際にライヴで演奏された事は無いものの、ある意味、ライヴでの締めを想定したようなアレンジに。

 

また「グレイテスト・キッス」収録の「ベス」は、エリック・カーがヴォーカルを担当。御承知のように本曲はピーター・クリスを代表する1曲であるため、エリックが歌う事に対して当時は賛否両論あったようだが、それは置いといてエリックは良い声している。今となっては貴重なヴァージョンだ。

 

ハイレゾCDは、従来のCDでは再現できない音域まで収録できるらしい。確かに、それはキッスの再販4作品を聴いても充分に迫力が判る。レコードの音の良さが見直されている昨今、人によっては聴こえ過ぎる音質と言う人もいるだろう。

 

しかしながら、見方によってはレコードからハイレゾCDまで、同じ作品、同じ音源を様々な音質で楽しむ事ができる。レコードでは聴き取れなかった部分が、ハイレゾCDでは明確に聴こえるのは事実。選択肢が多い分、リスナーの好みに合った音の選び方が出来るのは素晴らしい事ではなかろうか。