PSYCHO村上の怪奇骨董音楽箱

 

先日、都内のレコード店でキッスのアルバム「仮面の正体」(1980年)のロシア盤を見つけた。裏には「SANTA RECORDS 1994」とある。調べてみると、1993年から1994年に存在したロシアの非公式レーベルのようだ。確かに販売店の注釈に「リプロ盤」と書かれていた。

 

実は、このリプロ盤というのがポイント。リプロ盤を平たくいうとコピー品。つまり正規品ではないので、海賊盤、ブートレグと言い換える事もできる。

 

1980年代後半まで、旧ソ連は政治的な問題もあって他国のカルチャーに対して閉鎖的だったとされている。ゆえにイングヴェイ・マルムスティーンが1989年に行った公演は画期的であり、「トライアル・バイ・ファイヤー:ライヴ・イン・レニングラード」として映像作品とライヴ盤が発表されたのだ。

 

同年の夏には、ボン・ジョヴィ、スコーピオンズ、オジー・オズボーン、シンデレラ、モトリー・クルー、スキッド・ロウ等が出演する大型メタル・フェスが開催され、広い意味で他国のカルチャーが深く浸透して行った。

 

が、それ以前の若者はロックと全く無縁だったわけではない。正規品のアルバムからジャケットを写し、中身をコピーしたリプロ盤を密かに入手し海外の音楽と接していたようだ。日本のリスナーにとって海賊盤と言えば、公式には出ていないライヴ音源や未発表のスタジオ音源というイメージが強いが、国や地域によっては正規品のアルバム・コピーが重宝されている。

 

当時の状況を記した書籍を読むと、これらのレコードは闇マーケットで販売されていたと書かれている。日本のようにレコード店に行けばロックの作品が販売されているような環境ではないため、密かに売人(?)から入手して聴くという流れだろう。これを踏まえると今回入手したリプロ盤は、政治的な意味も含めて歴史を物語る一品に。

 

さて、キッスの「仮面の正体」は一般的に存在感の薄いアルバムであるものの、個人的には相当好きな作品。誰か再評価してくれ~!と各所で言い続けている。←どこで? 現在はレコードを2種類とCDを持っており、今回のリプロ盤が加わった事でレコードは計3種類となった。せっかくなのでレコードの見比べ、聴き比べを行いたい。

尚、キッスの作品は世界中のレコード会社から発売されているので、同じアルバムでも何か国もの商品が存在する。今回は飽くまで、私の手元にある3種類で話を進めたい。①1980年当時のアメリカ盤、②2014年の再販盤、そして曰く付きの(?)リプロ盤を③としたい。

 

まず見た目であるが、アメリカ盤と再販盤は共に正規品であるため大きな違いはない。発売時期とレコード会社が違うので、表記の細かな部分まで見ると違いがあるが、大まかに言うなら違いなしと言っても差し支えない。

 

それに対し、リプロ盤はジャケットの印刷が粗く、全体的に色合いがぼやけている。正規品からコピーしたジャケットですといった感じに。使われている紙も、厚紙程度のペラペラなもの。

また、バンドのロゴが何故か差し替えられている。キッスのロゴ・デザインがナチスを連想させるという理由で、昔からドイツのみ特殊なロゴが用いられるのは知られているが、ソ連でも何か事情があったのだろうか。もしやドイツ盤を原版としたので、それを隠すためにロゴを変えたのだろうか。推測でしかないが。

 

盤に貼られているシール部分も大きく違う。②の2014年再販盤は、発売当時の①を限りなく再現しようとしているので、デザインは同じ。③のリプロ盤は独自のシールが作成されているので一部でロシア語があり。

収録内容については、各製品の性質上、①のアメリカ盤を基準として考えたい。これを本作のノーマルな音質としたい。A面に針を落とすと「イズ・ザット・ユー」が始まり、ポール・スタンレーが「ワオ!」と叫ぶ。

 

盤が140gの①アメリカ盤に対し、②再販盤は180gの重量盤。レコードは針の振動で音を伝達するので、重さのある180gの方が拾うべき振動が逃げず音が良いとされている。もちろん、盤の差による音の違いもあるが、再販盤はリマスター音源が使用されているので、この効果による音の違いが大きい。

 

本日2回目の「ワオ!」とポールが叫び演奏が始まると、各楽器の分離が判り良いと気付く。CDほど高音がきつくなく、全体的にレコード特有の耳に馴染む音域でありつつも、クリアなサウンドになった印象。やはり「心のままに」は超名曲だ。←急に音質とは関係ない話。

 

最後に注目のリプロ盤で、ポールが3回目の「ワオ!」を叫ぶ。正直なところジャケットの劣悪なコピーから、音質も劣るだろうと偏見を持って聴き始めると、これが意外に良い。製造時期的にリマスター版は出ていないので、この場合、比較対象は①のアメリカ盤となるだろが、音質までも そっくりそのままコピーしたぐらい良好なサウンド。

 

コピー品に良い仕事していると言えば問題があるし、ジャケットの劣化は決して良い仕事しているとは言えないが、事情によって正規品が手に入らない地域のファンに音を届けた点においては、良い仕事をしたと言える一品だ(ただし、買うならアーティストの利益になる正規品を買おう)。

 

しかしながら、改めて「仮面の正体」を聴くとポップで煌びやかな楽曲が揃った名作だ。再評価してください。結局、言いたいのはこれなのであ~る!