王冠の愛の物語(その87) | 時空を超えて SCOTT WALKER の世界へ

時空を超えて SCOTT WALKER の世界へ

スコット・ウォーカーの持つ不思議な魅力は、今も変わらない宝物です。
彼の音楽、生き方に心躍らせる毎日です。
そんなスコットの世界を私なりに描いてみたいです。

~最後の夜には優しい雨で~






「もう二度と会えないなんて辛過ぎるわ。

耐えられなかったの」



身を乗り出して王子の胸に顔を埋めました。



「フェリス・・・。

どうしてこんな事をしたの?

エレノアが発見しなかったら、どうなっていたか分かるだろう?

君を愛しているお父さんやお母さんの事を考えなかったのかい?」




「私には貴方が居れば良いの・・・」




フェリスの固い意思が、王子の退く体を逃しませんでした。





「何を言うのかと思えば・・・。

ほら、体に障るだろう。

横になって・・・」




「何が有っても・・優しいのね」




甘えるように体を横たえると、王子が肩までシーツを掛けました。


王子は口のもつれも無く自然に振舞うフェリスに違和感を感じました。


瞳の輝きもいつものフェリスと変わり無く、安定剤を飲んで眠っていたとは思えませんでした。



「もう二度とこんな過ちをしないと約束してくれ。

君に何か有ったら僕だって愉快じゃないよ」



「またそんな言い方をするのね」



「当たり前だろう。

僕達は親しい友達だよ。

これからも友人としての関係は変らないさ」



「相変わらずね・・・。

でも、こうして飛んで来てくれただけでも嬉しいわ」



「エリーが心配しているよ」



「彼女の話は聞きたくないわ」



「でも、エリーと会う約束をしていたんだろう?

僕の事で何か話が有るとか・・・?」




「もう済んだわ」



「もしかしたら・・・。

君の目的は僕を呼び出す事だったのかい?

そんな手の混んだ事をしなくても、僕を直接呼び出せば済んだ事だよ。

余りにも危険な賭けだろう」




「嘘だわ!

貴方は私と会うのを嫌って無視するハズだわ。

そんな事我慢出来ない・・・」



「君を避けるなんて考えていないよ。

友達としていつでも会える」



「本当にそうかしら?

私が呼んだら来てくれるのね」



「他の友達と変らない行動をするだけさ。

スケジュールが合えば、いつでも会える・・・」



「こうして2人で会うのは有り得ないでしょう」




「そうだね。

有り得ない・・・」




昔、自分が味わった苦悩を、もう一度思い出しながら、今はフェリスの錯綜する気持ちを受け止めてあげようと思いました。


今のフェリスには必要な事は、支えてくれる理解者なのだと信じていました。




「フェリス、僕達が初めて会った日の事を覚えているかい?

君は花のように輝いていた・・・。

この美しい記憶のまま、お互いの胸の中に留めて置きたいとは思わないかい?」




「貴方の中でいつまでも輝いていたい・・・。

私は今でもスコットの隣で微笑んでいたいのよ。

ずっとね・・・」




「僕も同じ思いをして苦しんだ時が有ったよ。

他の要因も重なって、今の君と同様の経験をしたんだ。


17歳の時だった・・・。

まだ子供だったから失望しか見えなくて、生死の境をさ迷ったんだ。

何故、君にこんな恥ずかしい過去を話すか分かるかい?

立ち直るには時間がかかるけど、君にもそのチャンスが必ず有るって事を知って欲しいんだ。


道は開ける・・・。

君を心から愛してくれる人と出逢えるんだ」





エリーにも話した事が無い辛い記憶を吐露してしまいました。

同じ苦痛から解放出来るなら何でもしたい一心でした。

この気持ちがフェリスに届けば、彼女は次に進む方法を見つけると思いました。




「スコット・・・。

初めて聞く話だわ。

そんな事が有ったなんて・・・」




フェリスは王子の手を取ると、自分の頬に当てて愛おしくキスをしました。




「可哀想に!

本当に・・・生きていてくれて良かったわ・・・。


神様に感謝します」




そう言うと大粒の涙が溢れ出して、両手で顔を覆い隠しました。




「フェリスどうしたの?

泣かないで・・・」



王子は彼女の体を、優しく抱いて上げました。




「そんな大切な秘密をこんな私に打ち明けるなんて・・・。

私にはそんな資格もない人間なのよ。


私は医者の娘よ。

薬物の致死量も知っている・・・。


死ぬ気も無かった、それも出来ないでエレノアを陥れただけの最低の人間なのよ。

異常なジェラシーが私を悪魔にした!」




興奮するフェリスの背中を優しくさすって上げました。


昔、ピーターがしてくれた同じ優しさで・・・。




「もう良いんだよ。

君は十分苦しんだ・・・。


僕も君に伝えたい事があるんだ。


君と出会った頃、僕は恋する情熱を見失ったいたんだ。

そんな僕を君は救ってくれた。

孤独だった僕は君の情熱で、愛する歓びに再び目覚めたんだ。

心が無いなんてそれは僕のプライドが言わせた気がする。

君にすべてを伝えたかったし、素直に歓びを分け合いそれで幸せだった。

一緒に過した二年間にいろんな事が有ったよね。

平気で君を傷つけ、喧嘩もした。


それもすべて今は素敵な想い出だ・・・」




ベッドの上に腰掛けると、フェリスの顔に掛かった長い金髪をかき分けて、溢れる涙を拭って上げました。




「時間は元に戻せない・・・。


別れは辛いものだわ・・・。

でも、愛する人の幸せを望む事が真実の愛し方なのね。


昔、貴方が求めた同じ愛で、貴方を解放して上げる・・・」




フェリスが王子の頬にキスをして、小さな声で言いました。




「さようなら・・・。

私の愛したひと」




王子もそれに応えて、フェリスの乾いた唇に口づけをしました。




「さようなら。

僕を愛してくれたフェリス。


忘れないよ・・・」





いつの間にか降り始めた冷たい雨が、窓硝子をそっと濡らして行きました・・・。










☆~優しい雨~☆