王冠の愛の物語(その86) | 時空を超えて SCOTT WALKER の世界へ

時空を超えて SCOTT WALKER の世界へ

スコット・ウォーカーの持つ不思議な魅力は、今も変わらない宝物です。
彼の音楽、生き方に心躍らせる毎日です。
そんなスコットの世界を私なりに描いてみたいです。

~すれ違う愛の記憶~





エレノアを乗せた車は滑るように宮殿の門をくぐると、真っ暗な闇の中に消えて行きました。



「エリー・・・!」



宮殿のエントランスの明かりの下で待っていた王子が、エリーの震える体を抱き締めました。





「フェリスが・・・。

フェリスが大変な事に・・・」




「もう大丈夫だよ。

彼女は助かった・・・。

君の迅速な処置が、フェリスの命を救ったんだよ」




「良かったわ。

フェリスに何が有ったの?」




王子はエリーを居間のソファーに座らせると、唇に当てていた彼女の両手をそっと離して上げました。



「エリー。

驚いただろう・・・。


隠し事はしたくないんだ・・・。

僕達はお互いに、素直に生きて行くって約束した・・・。

君には真実を知って欲しいんだ」




「そうね・・・。

私達は約束したわ。

何が遭っても2人で乗り越えるのよ。

フェリスに何が起こったの?」



王子はエリーの瞳を真っ直ぐに見つめて言いました。




「エリー・・・。

フェリスは自ら命を絶とうとしたんだ・・・」




「アァ~・・・なんて事を!

フェリスにスコットの事で大事な話が有るって呼び出されたの。

今夜で終わりにしたいって・・・。

あの写真の事だと思ったわ。

それなのにこんな事になってしまって・・・」




「この件は僕の問題なんだ。

中途半端にフェリスを突き放した僕の責任だ。

僕が決着をつけるから心配しないで欲しいんだ。

明日にでも、彼女の所へ行って話をするつもりだ」




「そうね・・・。

早い方が良いわ。

そうして上げて。

フェリスも貴方を愛していたのよ」




「僕を信じてくれて有難う。

2人でちゃんと話をするよ・・・。


僕がもっと気遣いを示してあげたら、こんな結果にはならなかった。

後悔しているよ」




王子は自分がフェリスに取った冷たい態度が、彼女を傷つけたと思いました。


別れたとはいえ、少しでも傷心のフェリスの気持ちを救いたいと、病院を訪ねる事を決心しました。








昔・・・。


愛した初恋の人との哀しい記憶が重なりました・・・。


きっと、フェリスも立ち直ると信じて、密かに彼女の元へ向かいました。


フェリスが入院した病院は彼女の父親が経営していました。


王子は護衛官に守られながら、最上階の一番大きな特別室に急いで入って行きました。



三方を大きな窓に囲まれた広い病室の中央のベッドで、フェリスが長い髪を束ねて眠っていました。

今まで見た事も無い、穏やかな美しい表情でした・・・。



枕元に立って、しばらく彼女の顔を眺めていました。



「生きていてくれて良かった・・・」



しばらくすると、ドアが開いて眼鏡を掛けた白衣の紳士が入って来ました。


王子は黙って、そのドクターを見つめていました。




「初めまして・・・。

私はこの病院の院長でセイガンと申します。

フェリスの父親です。


娘の為にわざわざお越し頂いて恐縮です」




丁寧に挨拶をするこのドクターがフェリスの父親と知って、王子も落ち着いた声で言葉を発しました。




「初めまして。

この度は、僕の見舞いを快く受け入れて下さって感謝します。

フェリスが大事に至らなくて安心しました」





「どうぞ、お掛け下さい。

娘は今眠っています・・・。

殿下が来た事も知りません」



2人はテーブルを挟んで、立派なソファーに向かい合って腰掛ました。

王子は何を言われようとも覚悟をしていました。




「率直にお話致します。

この娘には幼い時から、何でも自由に手に入る環境を作ってしまいました。

殿下と付き合っている事は承知していましたが、こんなに真剣に思っていたとは正直驚いています。

今までとは違う恋愛だったと確信しました。

しかし・・・。

殿下の心が娘に無い事は明らかです。

ただ一つ、お伺いしたいのです。

殿下は真剣にフェリスを愛して下さった事がお有りのでしょうか?」




眼鏡の下の哀しそうな眼差しが、王子の心に突き刺さるようでした。


思わず視線が、その瞳から逃げ出しそうになりました。



そして・・・。


踏み止まって、堪えながら言いました。




「僕達はお互いに恋愛関係も含めて友達同士の存在でした。

恋人と言うには、足りないものが有りました。

これは正直な気持ちです・・・」




「一度もフェリスを愛おしいと思った事が無いのですか・・・?」




「・・・・・。」




「正直なお方だ・・・。

娘はそこに惚れたのですな」




「大事な娘さんを、このような状況に追い込んだ責任は感じています。

出来る限りの事はするつもりです。

許されるなら、フェリスとお互いに分かり合うまで話し合いたいと思います」




「この事は新しい恋人は承知されているのですね。

未来の皇太子妃は賢明な女性なのですね。

国民の一人として感服致します・・・」



「はい。

理解してくれています。

ただ・・・。

フェリスとの事は、彼女とは一切関係有りません。

今回、フェリスに呼び出されて、たまたま事故に遭遇したのです。

今も、フェリスの様態を本当に心配しています」




「そうですか。

お2人は相思相愛なのですね・・・。

娘が嫉妬するのも致し方の無い現実でしょうか・・・」




「すみません・・・。

僕の配慮が足りないばかりに、フェリスを追い込んでしまいました。

許して下さい・・・



王子は深々と頭を下げました。

どうしようも無くやり場のない気持ちが、その姿に滲み出ていました。



「どうぞ頭を上げて下さい。

今回の事は私にも責任が有ります。

フェリスの我がままは、今に始まった事では有りません。

ただ、父親として真実を知りたかっただけなのです。

お分かり頂けますか・・・?」




「分かります・・・。

愛が実らない苦しみは理解出来ます。

昔・・・、僕が味わった同じ痛みからフェリスを救いたいのです。

他の事は考えていません」





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★~悪夢~★






「有難うございます。

正直なお気持ちを話して頂いて、これからの治療に役立てましょう」




そう言うと、安心した様に席を立ち王子と握手を交わしました。


温かな手の温もりが伝わって来ました。




「もう少し此処に居ても良いですか?」



「勿論ですよ。

娘も喜ぶでしょう」




病室から父親が出て行くと、ベッドに横たわるフェリスの体が動き出しました。




「スコット。

来てくれたのね」



突然の事に、王子は少し驚いてフェリスの顔をまじまじと見つめました。




「フェリス!

大丈夫・・・?」




そして力無く、ベッドから起き上がろうとする彼女の体を、思わず抱き締めてしまいました。




「ダメだよ・・・。

無理しちゃ・・・」




「スコット!!」




フェリスが勢い良く王子を抱き寄せました。


その腕の力は、眠りから覚めたばかりのものとは思えませんでした。


しかし・・・。


今の王子には、それに抵抗する余裕が有りませんでした。




「フェリス・・・。

生きていてくれて良かった!!」




それだけ言うのが精一杯でした・・・。