最近、マンジャロなどの肥満治療薬、ED治療薬、AGA治療薬などを、オンライン・オフラインを問わず自由診療で処方するクリニックが増えています。

もちろん、こうした診療を一概に否定するつもりはありません。ただ、医師が診察のうえで必要な薬を選ぶというより、患者さんが希望する薬を手に入れるためにクリニックを受診する、そんな医療の形が広がっているようにも感じます。



精神科の外来でも、ときどき「最近眠れないので、何か睡眠薬をください」と、比較的気軽に受診される方がいます。


以前から他院で睡眠薬を処方され、その薬が合っていたという方であれば、こちらも継続処方に対する心理的なハードルは比較的低くなります。もっとも、すでに薬が手放せなくなっている可能性もあるため、慎重な判断は必要です。


一方、これまで一度も睡眠薬を服用したことがない方に対しては、どうしても慎重にならざるを得ません。


なぜなら、睡眠薬の種類によっては依存や耐性が生じることがあるからです。


最初は「飲めば眠れる」だったものが、いつの間にか「飲まなければ眠れない」に変わってしまうことがあります。




自分が今日処方する一錠が、この患者さんを長年にわたって睡眠薬に頼らざるを得ない状態にしてしまうのではないか。

そんなことを考えると、簡単に処方する気にはなれません。


そのため、初めて睡眠薬を希望される方には、まず薬のメリットだけでなく、依存や長期服用のリスクについても説明するようにしています。


また、睡眠衛生の12箇条などを参考に、生活習慣や睡眠環境を見直していただくことから始めます。患者さんによっては、漢方薬などを試すこともあります。


もちろん、不眠は決して軽く扱ってよい症状ではありません。


眠れない夜が続くことはつらいものですし、日中の集中力や仕事のパフォーマンス、精神状態にまで影響します。適切に睡眠薬を使用することで、生活の質が大きく改善する方もいます。


最近では、オレキシン受容体拮抗薬やメラトニン受容体作動薬など、従来のベンゾジアゼピン系睡眠薬に比べて依存のリスクが低いとされる薬も使えるようになり、私自身もなるべくそうした薬剤を選択するようにしています。


ただし、依存が生じにくい薬であっても、漫然と飲み続けてよいというわけではありません。



睡眠薬は、眠れない人を助けるための薬であって、眠るために薬が欠かせない人を増やすためのものではないと思います。

「眠れないから薬をください」という訴えに対して、ただ希望どおりの薬を処方するのではなく、なぜ眠れないのか、本当に薬が必要なのか、使うとすればどのような薬をどのくらいの期間使うのか。

そうしたことを患者さんと一緒に考えるのも、医師の大切な役割だと思っています。