「発達障害かもしれない」――過剰診断の時代に、立ち止まって考えたいこと


近年、「自分は発達障害ではないか」「うちの子は発達障害ではないか」というお問い合わせを、専門では診ていないと明記しているにも関わらず当院でもときどき頂くことがあります。マスコミやインターネットで発達障害に関する情報が広く出回り、関心が高まっていることの表れだと思います。

関心が高まること自体は、悪いことではありません。早期に気づき、適切な支援につながることで救われる方は確かにいらっしゃいます。しかしその一方で、私が臨床の現場で強く懸念しているのは、発達障害が「過剰に」診断されてしまう傾向です。

チェックリストは「診断」ではありません


発達障害には、簡便にチェックできる質問票(チェックリスト)が数多く存在します。インターネットでも手軽に試せるものがあり、いくつ当てはまるかで「発達障害の可能性」を示してくれます。

ここで強調しておきたいのは、チェックリストはあくまで「スクリーニング(ふるい分け)」の道具であって、診断そのものではないということです。

チェックリストの項目は、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」といった、誰にでも得手不得手のある能力を問うものが少なくありません。単に経験が浅いだけ、その場面が苦手なだけ、という方も項目に当てはまってしまいます。そこを「発達障害」と短絡的に結びつけてしまうと、本来は個性や成長の途中にすぎないものまで、「異常」として拾い上げられてしまいます。

本当に診断をくだすとなれば、心理士による詳しい心理検査をはじめ、生育歴・複数の場面での行動の様子などを総合して、慎重に判断する必要があります。チェックリストの点数だけで決められるものでは、決してありません。

なお当院では、こうした詳細な発達検査の体制を備えていないため、発達障害の診断は基本的に行っておりません。


学校で起きていること――「教育の問題」を医療に丸投げしていないか


近年、学校やこども園などで気になる行動や学習のつまずきが見られると、すぐに「発達障害ではないか」「一度受診を」とすすめられるケースが増えているようです。
もちろん、現場の先生方が多くの子どもを抱え、日々の業務に追われていることは承知しています。「合理的配慮」が求められるなかで、手のかかる場面を一人で抱えるのは容易ではありません。先生方を一方的に責めたいわけではありませんし、問題があることを感じるこどもに関して問題意識を共有する手段としてそのような提案を親にされるのかもしれません。

しかし、本来は教え方の工夫や環境の調整、あるいは成長を待つことで乗り越えられる問題まで、子ども本人の”生まれつきの脳の問題”として片づけられてしまうことには、注意が必要です。問題行動や勉強のつまずきには、必ず原因があります。それを早々に本人の資質や障害のせいだと結論づけてしまうと、本来必要だった支援や工夫の機会が失われ、子どもには理不尽なレッテルだけが残りかねません。

教育の場で取り組むべきことが、十分に検討されないまま医療へと「丸投げ」されてしまう――そうした流れを、診察室から感じることが少なくありません。指導や環境の課題を、子どもの側の問題へとすり替えてしまうことは、責任の所在を見えなくしてしまいます。

医療は、教育や環境の課題の”受け皿”ではありません。お薬で子どもを大人しくさせることが目的化してはならない、と私たちは考えています。本当に医療が必要なケースを見極めることと、教育・環境で解決すべきことを切り分けること。その両方が、子どもの最善の利益につながります。


ADHDの薬は、もっと慎重に

とりわけ気がかりなのが、ADHDと診断された場合に処方される薬剤です。
これらの薬には確かに有効性がありますが、効果と副作用(メリット・デメリット)を十分に天秤にかけたうえで、本当に必要なケースに慎重に投与されるべきものです。にもかかわらず、近年は比較的安易に処方されてしまう風潮があるように感じています。

その結果、ADHDと診断されて服薬する患者さんが急増し、一部の薬剤は品薄になるほどの状況になっています。これは、診断と投薬の入り口が広がりすぎていることの一つの表れではないか、と私は受け止めています。

それでも「正しく診てもらう」ことの大切さ

ここまで過剰診断への懸念を述べてきましたが、誤解しないでいただきたいのは、「発達障害なんて気にしなくてよい」という話ではない、ということです。

本当に支援を必要としているお子さんや大人にとって、適切な診断と支援は人生を大きく左右します。だからこそ、発達に関する診断は、精神科・児童精神科として専門的なトレーニングを受けた医師のもとで受けていただくことを、強くおすすめします。チェックリストや、専門外での”なんとなくの診断”で済ませてよいものではありません。

ただし――現実には「半年待ち」も珍しくありません

最後に、現実的な問題にも触れておきます。
きちんとした発達の診断・検査を行える専門機関には、いま予約が殺到しています。初診まで半年待ち、ということもざらにあるのが実情です。

過剰に不安をあおられて急ぐのでもなく、必要な方がきちんと適切な評価にたどり着けること。正しく心配し、正しく専門家につながること。その両方が大切だと、私たちは考えています。