サンスクリット語の文法講座(上級コース)で使っている
吹田隆道『実習サンスクリット語文法』(春秋社)
には、サンスクリット文の和訳問題がところどころあります。
講座では毎回それを宿題として出しています。
みなさん四苦八苦しながらも取り組んできてくれて、
そうやって自力で苦労することで、単語や文法を覚えることができますし、
筋トレや勉強と同じで、ちょっと難しい課題に取り組むことで、
だんだん力がついていくんですね。
サンスクリット語で書かれた文というと、神に関する内容とか哲学的な内容しかなさそうに思われているようですが、
実はサンスクリット語による文献、書物は、多種多様なジャンルが存在しています。
先の文法書の練習問題文は、
格言のような表現がよく出てきます。
例えば
mātulasya balaṃ mātā
jāmātur duhitā balam /
śvaśurasya balaṃ bhāryā
svayam evātither balam //
伯父の力になるのは母である(子の視点からみた家族関係?)
婿の力になるのは娘である(親の視点)
義父の力になるのは妻である(夫の視点)
客の力になるのは自分自身である(=客が頼れるのは自分だけ)
文法書では「婿の力は娘である」の部分のみが
練習問題として例示してあったので、
最初何のことか分かりにくかったですが
格言集に全文がありました。
また他の問題では、
yathā cittaṃ tathā vācō, yathā vācaḥ tathā kriyāḥ |
「言葉は心次第、行動は言葉次第」
(直訳:心のように言葉がある。言葉のように行動がある)
練習問題では上記の一行だけでしたが、
格言集で次に続く文を見つけました。
yathā dēśastathā bhāṣā
yathā bījaṃ tathāṅkuram /
yathā būmistathā tōyaṃ
yathā rājā tathā prajā //
言語は地方次第(=地方によって言葉が違う)
芽は種次第、
水は土地次第、
民は王次第
こういった格言集は、
名の残っている詩人の作も多数ありますが
無名の人々によってまとめられたものもあり、時代も様々。
日本で翻訳されたものだと、
ナーラーヤナ作といわれる「ヒトーパデーシャ(処世の教え)」(12世紀)という処世術書が岩波文庫から出ています。ナーラーヤナといっても最高神のことではなく同名の詩人。
(hita-upadeśa→hitopadeśa)
世界的にはそのヒトーパデーシャより有名で長編なのが
「パンチャタントラpañcatantra(五巻の書)」(紀元前3世紀?)で、
イソップ物語に比類する古い説話集。
愚かな王子たちを教育するために賢者が五つのテーマで語り聞かせる、という枠組みがあり、
そのなかで、様々な動物が登場する説話(短編)が物語られています。
サンスクリット原典からの日本語による完訳本は残念ながら絶版になっていますが、
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一部の説話は、子ども向けの絵本になっているものも。
インド文化はスピリチュアルな視点や宗教性ばかりが強調されがちですが、
リアリズム、現実主義な面もあるから面白いし、
当時の社会の価値観が伝わってきます。
写真はうちにある和訳本の一例
左から、パンチャタントラ、ヒトーパデーシャ、ニーティサーラ、アルタ・シャーストラ(実利論)
右の二つは格言や説話とは違ったジャンルで、
王のための政策論集です。
後ほど紹介します。

