un escalier
『un escalier』

うちの大家さん、つまりこのアパルトのオーナーはとても親切です。
60歳くらいで、中肉中背、ロマンスグレー。
いつもsmart(スマート/スウォッチとメルセデスが開発した2人乗りの超小型車)に乗って、ひょいひょいとやってきます。

引っ越してきた当初は、トイレの便器を取り替えに来てくれたり(もっとも、引っ越す前にやっといてくれ、とも言えるが)、なにかと面倒をみてくれて、私は最初、てっきり工事のおじさんかと思っていたくらい。
引っ越し後も、電動ドライバーが必要なときや、脚立がいるときなど、ダヴィッドはいつも大家さんに電話します。日本人的には、「買えばいいのに、、」「わざわざ来てもらうなんて悪いよなー」と思うのですが、彼は貸してもらうことにためらいは全くない!
そのたび、大家さんはsmartをかっ飛ばして、ニコニコ来てくれる。
ほとんどが平日の午後なので、いつもうちには私一人。

先日、サラ・マンジェ(リビングルーム)用に買ったアンティークのライト(天井に付けるタイプ)を設置したところ、点けた瞬間、その部屋とホールの電気がぶっとびました。
ダヴィが必死で直そうとしても、まったく点きません。
2部屋の電気は点かないわ、やっと見つけたお気に入りのライトはぶっ壊れるわ、最悪な状態。

途方にくれたダヴィは、
「そうそう、大家さんが電気関係に強かったはず」とさっそく電話。
そして、
「来てくれるって! 来週月曜日には来れるって」。
「おい、おい、月曜日って、今日は火曜日だよ。一週間もほっておくつもり?」なんて聞くまでもありません。肩の荷をさっさと降ろし、ふくれている私をよそ目に、せいせいした顔で、もうテレビを見てる。

そして、月曜日。電話が鳴り、2日くらい遅れるとの連絡。やっぱり、、、。しかし、責めることもできないので、待つのみ。
水曜の午後、脚立を持参してやってきた大家さんは、30~40分、あれこれ試してくれたけど、結局直らず、それどころか、全室の電気が点かなくなってしまったのです。

「うーーん、、これは私にはお手上げ。プロの電気屋に頼んでおきます。たぶん数日で来てくれるでしょう。では、よい一日を!」とニコニコ笑顔で帰っていきました。

数日後!? 電気なしで数日過ごせっての?? 帰って来たダヴィに半泣き状態で訴えると、

「キャンドルでがまんすればいいじゃない。ロマンティックでいいじゃない」。
た、たしかに、、そうかもしれない。そうか、そうだね。。電気なんかなくても生きていけるカナ。という気分になってくるから不思議だ。

数日後、”プロ”がやってきて、電気が点くようにはなりました。「うちの息子はダンサーでね、日本にも5回も行ったことがあるんだよ」とひとしきりのお喋りのおまけつき。

しかし、アンティークのライトはプロの腕をもってしても直せず、やっぱり壊れちゃったのかな。ダメかな。あきらめるしかないかもな。。。とうじうじしていたところ、
大家さんが、「その後、どうですかー」と確認がてら来てくれました。

床に置かれたままのライトを見て、
「これ、私がうちに持っていって、もう一度見てあげますよ。いや、ダイジョウブ! 必ずいつか使えますよ!」と大きな笑顔。
そう言われると、そんな気がしてくる。いつか使える。そうね、いつかね。そうかもね。だといいな。

約1カ月後、大家さんから「直りましたよ」と連絡が入り、疑心暗疑(全室の電気を壊した前例があるので)で点けてみると、見事に点灯!!!

物を大切にする心、という昔ながらのエコ的な考え方はもちろんあるけれど、彼らは、生活のなかのこんな一コマ一コマを、人と人との付き合いも含めて楽しんでいるように見えるのです。