Marseille
『Marseille』

プロヴァンスの港町マルセイユにやってきたのは、ある5月の、初夏の風が吹く、気持ちのいい夜でした。
それまで何度も足を運んできたけれど、東京のマンションも整理して、生活のベースをこちらに置く覚悟でやってきたのは、このときです。

なぜマルセイユ? 
理由はとても簡単。
愛した人がたまたまフランス人で、その人がマルセイユに住んでいるから。
こんなにシンプルな理由にもかかわらず、ここまでくるには随分、時間がかかったもんだ。
3年。
東京での仕事が忙しいという言い訳のもと、じつはなかなか決心がつかなかったというのが正直な話。
けれど、ここ2年間で何度もこの地に来てみて、この場所が大好きになりました。
そして、彼の言葉や考え方に洗脳されていきました。

「愛情より大切なものは何ですか?」
何度も何度もくり返し、問いかけられた言葉。
さすが、フランス人。
なによりも男女の愛を重んじるというのは、ほんとうです。
でも、これは気取っているわけでもなんでもなく、実際に彼らが信じていることなのです。

そして私は、彼の信じていることを同じように信じるようになっていき、
火事場の馬鹿力(?)で仕事を片っ端から片づけて、エールフランスに飛び乗りました。


私は今,42歳。
22歳で大学を卒業して、ちょうど20年。
東京で仕事を一生懸命やってきて、
そのときは、まさかフランスへ来ようなどとは考えたこともなかったけれど、
人生は不思議なもんだ。面白い出会いがたくさん待ち受けている。
仕事を中断するなんてもったいない、という人もいるけれど、
この幸福感には代えられない。

「人生はいつだってやり直せる。だからやりたいことを存分にやりなさい」
学校を卒業するとき、ある人生の大先輩からもらった手紙に書いてあったこの言葉が、
今,この瞬間も、私をやさしく、力強く諭してくれる。

やり直し、ではないけれど、
今までの人生が第1章ならば、これからは第2章、
そんなつもりで、新しいドアを開けたのです。