オシム監督のサッカーを描写する時によく使われる「走るサッカー」という部分についてです。


この場合の「走る」は当然、ボールのないところでもチーム全員が「走る」ということですから、

いわゆる「オフ・ザ・ボールの動き」ということになります。


「コミュニケーション・ゲーム」としてのサッカーを愛する私は、

この「オフ・ザ・ボールの動き」の整備された、

あるいは豊富なサッカーも、同じように好きなのです。


それはなぜでしょうか。


コミュニケーション・ゲームとしてのサッカーにおける「メッセージ」は、

一般には「ボールホルダーからパスの受け手へ」というものだと考えられているでしょう。


パスを出す選手のアイデア、技術と言ったものがそこでは中心になる。

昔よく言われた「使う側と使われる側」という言葉も、

そのメッセージの流れを重視していることによって出てくるものだと思われます。


しかし、いいオフ・ザ・ボールの動きがあると、それも強烈な「メッセージ」だと私には思えるのです。


「ここへ出してくれ!」「ここのスペースを空けるから、そこを使ってくれ!」・・・

観戦している私にも、そういうメッセージが届きます。


フォローやサポートの動きも、

「俺がここにいるから、お前は安心して上がってくれ!」というメッセージのように見えてくる。

それはとても語彙の豊富な、発話者の多いコミュニケーション・ゲームを見ていると思えるのです。

そしてそこに「全員参加ゲーム」としての美しさ、楽しさを私は見ます。


対して、オフ・ザ・ボールの動きの少ない、パスが足元、足元につながるサッカーでは、

回りの選手がボール・ホルダーの次のプレイを「待って」しまうことがあります。

これは私にはどうにも「単線」のコミュニケーション、

一人一人がスピーチをするのだけど、あまり「対話」のないそれに見えてしまうのです。


そこに優れたテクニックがあっても、

ボールをもらってから一人一人が「さあ、何をしようか」というようなサッカーだと、

私は退屈に感じてしまいます。


もちろん、上記二つの類例は極端に書いたものであって、

どちらもそれぞれの要素を含んでいるのは当然です。


オフ・ザ・ボールの動きも、ボール・ホルダーのオン・ザ・ボールのテクニックを信頼できないと

思いきりのいいそれにならないし、

テクニックの優れたミッドフィールダーも、

受け手のオフ・ザ・ボールの動きがなければキラーパスを通すことはできません。


どちらか一方だけのサッカーというものは存在しないし、

そのどちらも重要であることは論を待たないでしょう。


先日スポーツバーで友人と一緒に、Jリーグ第9節、エスパルスVSレッズの試合を観戦しました。

個人技に優れる浦和に対して、清水エスパルスはコンパクトに組織的に守り、

そこからの攻撃も決してタテ一辺倒ではなく、

フォローに来た同僚にショートパスをつないで前に出て行こうとします。

むしろロングボールの少なさに、

一緒に観戦した友人が「そこは大きくクリヤーだろう!」と叫ぶほどでした(笑)。


それは昨シーズンのはじめごろ、

長谷川健太監督が就任して早くから見せていたサッカーの発展形であり、

今年の元旦の天皇杯決勝で見せていたそれの、より向上した姿でした。


ちょっと「いい内容」のサッカーで、私や一緒に観戦した友人が多く好むサッカーでもありました。

浦和もよい反撃を展開し、ジャッジが荒れたのが残念でしたが、

けっこういい試合を見たな、という気分にさせてくれるものでした。


この清水のサッカーも、中盤の選手のオン・ザ・ボールのスキルがなかなかに高いことによって、

当初意図していたことがカタチになってきたと言えます。

テクニックのある選手が、労をいとわずに走り回るから、

周囲の選手と協力していいサッカーを展開していける。

こういうサッカーがJでもさらに結果を出せると、

バラエティに富んだリーグになって行けそうで楽しみですね。


現時点での課題はもちろん、

このような「全員発話のコミュニケーション」は選手の消耗、疲労が激しいこと。


ただ、このサッカーの場合は「一人一人が上手く休むこと」とかよりも、

全員で試合をこなしていくうちに、味方の時間帯を大事に、長くすること、

どうしても来る、敵の時間帯に集中を高めることなどを学んでいく方がよいのではないかと、

個人的には思います。


この日の試合は清水が勝ち、天皇杯からの成長ぶりを見せましたが、

内容的には紙一重と言えるものでした。


どちらのサッカー観が上でも下でもない。

どちらにも長所もあれば、欠点もある。


さまざまなサッカー観があり、いろいろなサッカーファンがいて、

いろいろなサッカーがあるからサッカーは面白い。


私は最近つくづくそう思います。


なにしろ、世界で一番たくさんプレイされているスポーツですもんね。


さあ、今日もサッカーの「幅」を楽しもう!