この元店長Kは都内の7.8人の販売員がいる小型店の店長をしていた。

しかし売上不振が長く続き、店の雰囲気も悪化するばかりで、販売員も何人か辞めてしまうような状況に陥ってしまったそうだ。


藤川は松戸店の販売員から事前にKの話を少し聞いていた。

Kは自分は力があるんだ的な態度が多く、典型的な我尊しと思い込んでいるタイプだった。

そのため周りとの付き合いは表面上だけで、心を許して話す人間はほとんどいなかった。


藤川は固定観念を持ってKを見ることはよくないと考えて、販売員達からは要点だけを聞き感情的な事はあまり聞かないようにした。


藤川にとって入社が早いKは先輩だということに変わりない。

また店長としても先輩だという姿勢で、接することに徹した。


そして藤川はKと個人面談を行った。

その第一声は、

『店長になったばかりでまだまだ力不足なので、是非Kさんの力を貸してほしい。』

と話した。


しかしKの話は、言い訳から始まった。

「店長として実績を残せなかったのは、自分の責任ではない」

売上不振のために会社から冷遇されてしまい、自分がやりたいように出来なくなってしまった。

そして周りはバカにしているような態度を取り、とうとうやる気もなくなってしまったと言う内容だった。

藤川は思った。

完全な開き直りと責任転嫁だと。


そして、そんな性格のKは松戸店に飛ばされたのだ。

当初、会社はすぐにKは辞めると考えていたが、ちょうどその頃に松戸店の前店長が病気で店にあまり来れない状態になってしまった。


それでK云く、自分が頑張って店を上手く切り盛りして、実績を上げてみせるとの気概で頑張ったのだ。


この辺のことは、藤川も営業本部長から聞いていた通りだった。


しかし世の中そんなに甘くない、やはり力不足の為かそれは難しい事だった。

また販売員達とも中々うまくいかなかった。


営業本部長は、

「うまく辞めてくれたら一番いいから」

と、藤川に伝えていた。

会社としてはクビには簡単に出来ないし、転勤させても同じ繰り返しだろうと考えていたのだ。


しかし、営業本部長からこの話を聞いた時から、自分がすべて上手く行くようにしてみせる!

と心で燃えていた。


仙台店の時に部下全員からイジメられた事を考えたら簡単だと思ったのでした。


藤川はKの話をじっくり静かに聞いていた。

そして藤川が話し始めた。


『今までの話し分かりました、Kさんの苦労されたこと僕はよく理解します』

と、伝えた。

すると、そこからKは心を開いたようになっていった。


それから、いろいろ話を聞いた後、仙台店でイジメを受けた体験を話した。

店長なのに、

部下から見下すような態度をとられ、無視をされたこと。

また、無関心な態度をとられたこと。

そして、生まれた時のことなども話したのです。


Kは自分のことを理解してくれる人が、今となっては誰もいないことと、なんで自分だけこんな目に遭うんだと自暴自棄になっていたのでした。


しかし藤川の話を聞いて、自分より若い藤川が苦労した事をいろいろ知って変わっていった。