第二話 第五節
訳が分からないまま、陲は自分の血塗れの手を伸ばしていった。
「ぐぁっ」
谷田部の首に触れる。
殺してやる。
陲を支配したのは、殺人願望だった。
消えてしまえばいい、こんな奴。
私が消えてしまえばいいのに。
私は無力な少女。
私が死んだって誰も悲しまない。
私がこいつを殺して
私も死ねばいい……。
「お姉ちゃん!」
叫びともとれる凪の声で、陲は覚醒した。
「…凪」
「こんなの、お姉ちゃんらしくないよ」
「…」
手を見ると、首を絞められている谷田部は意識を失っていた。
「やめよ、お姉ちゃん」
「…うん」
「警察にこの人を引き渡せばいいよ」
「うん」
気がつくと、公園の周りで陲たちに呼び掛けている人がいた。
警官と兄、透。
陲は安堵した。
その緊張感が失われた瞬間を、彼が狙っているのも知らずに。
第二話 第二節
「行こう、陲」
「え、あ、うん」
3人は買い物を終え、近くの公園に立ち寄った。
「鳩がいる」
「『コクン』」
「ほんと、久し振りだな、兄妹3人で外出なんて」
透が言った。
陲は無言で頷いた。
「…帰りたい」
「え?」
「帰ろう!お兄ちゃん、お姉ちゃん!!」
凪が急に声を大きくした。
透と陲は、お互い顔を見合わせたが、凪のただならぬ表情に、頷いた。
「帰ろう」
凪が何かに怯え、陲の腕にしがみついてきた。
「大丈夫だから」
「『コクン』」
3人はベンチから立ち上がり、公園の出入り口に向かう。
突然、液体が3人に降りかかった。
透が拭う。そして、顔色を変えた。
「血だ!」
赤黒い雨が降っていた。
透、陲、凪の3人の頭上だけ、降っていた。
凪が上を見上げ、目を大きく見開く。
陲は凪の見る先を見た。
この、彼らにかかっている血液のあるべき場所が、街灯に吊されていた。
性別も判別出来ない。
眼球はくりぬかれ闇を見、手足はエネルギー切れのロボットのように力無く垂れ下がっていた。
人間の死体。
陲は凪の顔を手で覆った。
凪は叫び声をあげた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
第二話 第一節
「不思議の国のアリス�」
「…」
「………」
「………………」
「ねぇっ!」
「わっ!?」
陲は慌て、イスからバランスを崩して落ちた。
昼休みの教室が、静けさに包まれる。
陲を驚かせた本人である茶々でさえ、「え?」と驚き、目をパチパチさせていた。
「いたたたた…」
「ぶっ…」
「ちょっと啓介!こっちはかなり痛いんだからね!」
啓介の噴き出しから皆耐えられなかったか、クラスは爆笑の渦に巻き込まれた。

「ごめんっ陲!」
茶々は陲に頭を下げる。
しかしその肩が震えているのは気のせいだろうか。
「笑っていいよ」
「ううん、だって陲いたそうだもん」
陲の後頭部に出来ているたんこぶを茶々は見つめていた。
拳骨一つほど、かなり大きい。
帰り道、陲はいつものように啓介、茶々と別れ、買い物に向かう。
商店街をぶらつき、その外れにある大型食品量販店に向かうのだ。
いつもなら、「今日の夕飯は何にしようかな?」とか「良い掘り出し物はないかな?」などときょろきょろするが。
今日は…朝のあの出来事が気になって、それどころでは無かった。
「あれは、何だったんだろ」
「陲?」
「お兄ちゃん?」
量販店には、お兄ちゃんとフードを深く被った誰かがいた。
おそらくは
「凪、珍しいね…」
「『コクン』」
陲の予想通り、凪だった。
「珍しく凪が外出したいって言ったんだ」
「そっか」
「3人で買い物も悪くないだろ?」
透は、3人で買い物するために、陲をここで待っていたらしい。
「ほんとシスコン」
凪の呟きに陲も「ははは…」と苦笑するしかなかった。
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第一話 第六節

気がつくと、教室はいつも通り、生徒達の声でにぎわっていた。
「あれ?私…」
「お目覚めか?陲」
顔を覗き込んできた啓介に、いつもは覗き込まないでと言うが、今回は「あ、うん」と曖昧に頷く。
この事は忘れろ
あれは夢だったのだろうか?
「陲?さっきからどうしたってんだよ」
「え?ううん、別に」
「…ならいいけど」
啓介が茶々と話し始めるのを確認してから、陲は呟いた。
「あれはゆめだったのかな」
第一話 第五節

危ない!
陲の中で危険を伝える鐘がなる。
しかし
身体の表面が泡立ち、身体のあちこちが膨れ上がった谷田部から逃げられなかった。
恐怖と何か得体の知れないものが、陲を動かさなかった。
「危ない!」
男に半ば抱えられた形で立ち上がらせられる。
そこで陲はようやく、自分が座り込んでいたことに気付いた。
「大丈夫か?」
「あ、はい」
「朱の女王を渡せ」
谷田部は既に、人間の形をしてはいなかった。
「先生が…」
「…これは夢だ」
呟くような男の声。
「夢…?」
「今からある事は、誰にも言うな」
次の瞬間。
紫色の髪の男は、頭に角を生やし、謎の言葉を呟いた。
谷田部は一瞬にして、赤い泡になって消滅した。








