その日は冷静になるために、息子には電話の内容を確認しなかった。



次の日になって、

少し気持ちが落ち着いたので


私は息子に

《なぜ大学から電話がかかってきたのか?》

と聞いてみた。



「実験をしていて、それで卒業論文を作成している。

その中間発表が近いため、決められた期日までに原稿と資料を提出する必要があったが

その日は体調が優れず、休んでしまった。」


と息子は言った。



「体調が優れず、って言うけど大学へ連絡してないよね。」

と私が言うと、息子は小さく頷いた。


自分で連絡していれば、わざわざ土曜日の朝に大学から電話がかかってくるはずは無い。



「大学行くのが面倒くさくなったのか?」

と聞いてみた。


体調が優れ無かったとは言っても

食欲が無かった日は無かったし

顔色が悪いと感じた日も無かったので


ただ行くのが面倒になったのだろうと思ったので、そのまま素直に聞いてみた。



息子は一瞬目を逸らした。

戸惑っていたが「うん、まぁ。」と言った。




『面倒だから欠席とは!』

と言いたいところを我慢した。


今日は私の意見は言わずに、息子の話を聞こうと決めたのだ。




提出書類は、電話があった土曜日の夜24時までにネットで提出するように言われたらしく

私と話をした日曜日には、既に提出済みだと息子は言った。



提出した書類を見せてもらったが、膨大な実験経過が丁寧にパワポで作成されていた。


少し直して提出するだけだったようだ。




これだけのものを作成したのに

少し直すだけだったのに


大学を休んだ息子。




期限を守れ、とか

連絡くらいしろ、とか

大学を休むな、とか


親として言いたい事はたくさんある。

社会的に通用しないぞ、と。



でも全部飲み込んだ。

小言は今日はお休みだ。




そして私は


「これだけの資料が作れるなんて、凄いね。」

と息子に言った。

「直ぐに提出出来れば良かったね。」とも。



しばらく沈黙の後



息子は少し考えるようにこう言った。

「期限を守らないといけなかった。」




私が周りでうるさくあれこれ言わなくても


息子が自分で答えを見つけるまで


【待つ】事も、時には必要かもしれない。