今週は以下のニュースが世間を騒がせていました。
成田氏の「高齢者は集団自決」発言を聞いた時の筆者の個人的な反応は、「『年金貰いすぎだぞ』『早く引退しろ』と言った話ならともかく『死ね』は無理でしょ」「よくわからないこれ、アメリカだったら集団訴訟でも起こされて凄い金額の賠償請求突きつけられるやつ?」といったものでした。ニューヨーク・タイムズの日本報道は昔からあまり評判は芳しくなく、この記事もおそらく「日本ではこんなおかしなことが起こっている」といったメッセージとなることを想定していたものと思いますが、この記事を見たアメリカ(及びその後追い報道が出た各国)社会の反応は大きく異なったものでした。
These are the people teaching in our universities.
— Wall Street Silver (@WallStreetSilv) February 12, 2023
🥲 pic.twitter.com/XiG27LNsEv
インドでの報道だそうです。
Yale prof thinks that murdering oldsters is a “complex, nuanced issue” | Statistical Modeling, Causal Inference, and Social Science (columbia.edu)
コロンビア大学統計学教授のポスト。滅茶苦茶怒ってます。
この報道を見た人の多くが、特に日本だからということでなく「イェールの経済学の先生が自分たちに対してこんなことを言っている、けしからん」という反応を示しています(少なくとも先進国では)。これは、背景にある高齢化・世代間の所得配分といった問題が、程度の差はあれ日本だけに留まらないグローバルなものであることを示しています。恐らく当の記者の想定を超えて、この報道はアメリカや世界の世論に一石を投じるものとなりました。
もう一つの背景としては、アメリカの社会における、アイビーリーグに代表される所謂アメリカ東海岸エリートに対する反感、というものがあるのではないかと思います。
アカデミックコミュニティを含めた東海岸のエリートコミュニティの競争は激しく、時には傍から見たら異常とも思えるような上昇意欲と自意識がないと上がっていけない世界ではあるのですが、時にそのような人からいわれのない偏見と侮蔑を受ける普通の人たちの中には、そういうエリートたちを疑いの目で見ている人も少なくありません(ハードコアなトランプ支持者、というわけでもなく、都市部でプロフェッショナルな仕事をしていて、日本人の感覚で言えば高給(日本で「外資系って給料が良くていいね」と思うような額よりもずっと高給)を得ているような人も含む)。これは、例えばアメリカのバイデン大統領がなかなか引退できない理由の一つでもあります(氏はもちろん民主党員ですが、ペンシルバニア州の中産階級の家庭に生まれ、デラウェア大学卒→シラキュース大学ロースクール卒と、こうしたコミュニティの一員ではありません)。
本ブログの過去記事。アメリカの分断についてはこちらもご覧ください。我々がともすれば「白人のアメリカ人」とひとくくりにしてしまいがちな人たちも、歴史・民族・文化等により様々な文化圏に分かれており、それが現在のアメリカ社会の分断にも影を落としていることが伺えます。
これは筆者の中だけの連想ゲームのようなもので、成田氏がそのような背景を持ってあの発言をしたというわけではもちろん全くないと思いますが、氏はアメリカ社会では日本人とはいえそのようなエリートコミュニティの一員ととらえられてしまいますので、そうした側面からも氏の発言は極めて負のインパクトが大きいものだったのではないかと思わざるを得ません。