僅かな時間を使いつつ、Juniorについて更に調べてみた。ちょっと気になる「DeepJuniorの謳い文句 」を見つけることができた(但し、内容はちょっと古い)。これを要約すると、次の様になる。


・マルチプロセッサマシン上で走る世界初の商用チェスプログラム

・デュアルプロセッサにおいては、約1.8倍速く探索する


DualProcessor と DualCore では少々意味が異なるが差はないものとして考えてみる(また、バージョンが異なることも考慮しない)。すると、並列探索効率は1.8/2=0.9となる。従って315/0.9=350で、2.4GHzのAMD64系シングルマシン上で走らせると350万局面/秒を読めると推定でき、1局面あたりのコストは700[clocks]を切ることになる。並列化の効率も非常に高いということも含めて、ますます発狂しそうな数字だ。また、先の記事ではFritz9についての記述もあり、これも少し引用すると、


>Fritz 9 running at 1.6 million positions per second on a 2 GHz Centrino notebook


このことから、2G/160万=1局面あたり1250[clocks]のコストで、これも相当なものである。Centrino[*1]とAMD64系プロセッサではIPC値が異なるが大差があるわけではないことを考えれば、Fritzも気合の入った最適化が行われていると想像できる。しかし、それでもJuniorの方が明らかにブッ跳んでいる。フォーミュラエンジンで喩えるなら、「Fritzは毎分2万回転まで廻るが、Juniorは毎分3万回転以上で廻る」というくらいビョーキ的で常識では考えられない。


余りに信じ難いのでAmirにメイルで訊ねてみようと思ったが、彼のアドレスを調べても判らないので一旦諦めた。もし私の解釈が誤りで「Multi-Dualで(即ちDualCoreのOpteronを複数用いて)毎秒630万局面」ということなら、ChessBaseに抗議のメイルを送りたいところである。日本語でもなく英語でもなく機械語で書いて、だ。しかし本当に事実なら、計算機将棋にも適用できる最適化技術が存在する筈だ、ということで研究を続けてみようと思っている。


全く余談だが、コンピュータチェスの世界で "Deep" の冠をプログラム名に付けている場合、それはマルチプロセッサマシン上で動くことを示す、という慣習があるようだ。


[*1] Centrinoの正体は、Banias(PentiumM)をベースとした3つのチップの組み合わせブランド名である。PenMは、条件分岐予測とL2キャッシュアクセスのレイテンシにおいてはAMD64より優位性がある。Pen4-Mと比べるなら遥かに「買い」であるし、実は本業の方でPenMノート(但し、1.86GHz)を私は使っている。惜しむらくは、動作周波数が低いということ。これが2.6GHzくらいで動いてくれて且つSMP化が可能ならAMD64が危なくなる話になるのだが、そうなったら完全にPen4の息の根が止まるので、Intel的にもそれが仮に可能でも商品化できないジレンマがあるような気がする。