かつてモトローラは、体重800ポンドのゴリラ[*1]を凌ぐ全米第一位の半導体メーカだった。その立場が入れ替ったのが今から約十年ほど前のことである。今度は、そのゴリラとAMDの立場がひっくり返りそうな勢いになって来た。


一般のユーザにとっては、CPUの性能競争というのはそれほど意味がない。ブラウザとメイラが動けばOKというのであれば現存最低クラスのx86系CPUで充分快適だし、ゲーマならむしろビデオカード(GPU)にお金を掛ける。

AMDはブランド力(信頼性含む)という意味においてIntelに勝ったとは未だ言えないと思うが、価格対性能比という意味では、既に5年程前から勝っていた気がする。俗に「1GHz戦争」と呼ばれていた時代からだが、特に初代Athlonが出た頃には頭角を現していた。


AMD64プロセッサ、世界コンピュータ将棋選手権で連続優勝


今年、選手権で使われたマシンにおいて、AMDはシェア6割を獲ってしまっている。これはAMDが協賛していたからという理由ではなく、自然にそうなってしまったのだ。

Itanium2はFP性能は高いが探索処理向きのCPUではないし、Pentium4は「IPC[*2]値が低くても、動作周波数をそれ以上に上げることが出来れば、それが一番速いCPUになる」という設計思想で作られたのだが実らず、PentiumMはIPC値は高いものの動作周波数を上げることが出来ず、結局のところ選手権参加者の心を鷲掴みにするほどの訴求力のあるプロセッサをIntelは作れなかった、ということになる。

但し、この状態が長く続くことが好ましいことだとも思えない。寡占であることはしょうがないとしても完全な一社独占状態に入れば競争原理が働かなくなるからだ。ただですらCPUの性能が頭打ちになっている中で競争が止めば「暖簾に胡座」になってしまいかねない。


と書きつつも、個人的には本田(技研工業or技術研究所)に似た技術屋魂をAMDに感じている。DualCoreの発表はタイミング的にはIntelの方が先だが、その造りの良さを比べればAMDの方が遥かに上だ。恐らく来年の選手権はDualCoreマシンを中心とした争いになると思われるが、AMDのシェアをIntelが奪い返すことは相当難しくなってきていると思う。


[*1] 体重800ポンドのゴリラとは、Intelを指すために米AMDのW.Jerry Sanders元会長がよく使った言葉。

[*2] "Instructions Per Clock" の略で、1クロック当たり実行できる命令数を意味する。