女性Aは共働きの会社員で、保育園に通う子供が2人おり、更に近所に住む自分の父親が認知症を発症。母親は5年前に他界し、老人ホームも順番待ちのため、一人娘の女性Aが介護している。つまり、女性Aはダブルケア※を余儀なくされているのだ。
そんな中、勤務先の会社で上司Bから新しい「プロジェクトを任せたい。」と言われたが、女性Aはダブルケアを理由に断った。そこで上司Bは「他の人にもチャンスを与えたいから給料は下げないが、プロジェクトリーダーを外すと言うことで降格してもらう。」と告げられるが、女性Aは「これは違法だ。」と反論する。
果たして、ダブルケアを理由とした降格処分は違法なのか?
※ダブルケア…「親の介護」と「子どもの育児」を2つ同時に面倒を見なければならない状況のこと。内閣府によると、ダブルケアをしている人はおよそ25万人。仕事との両立が困難になるため、仕事量を減らしたり、離職を余議なくされる人が今後増えていくと予想される。
北村弁護士の見解:違法
「これは違法です。今年、育児介護休業法などが改正されまして、人生の中にある出産、育児の期間時期、あるいは誰かの介護をしなければいけない時期、こういう時期に男女ともに仕事をやめざるを得ないということにならないようにしようっていうのが、法の目的なんです。本件の場合は、これまでと同じ仕事量でできるようにしましょうという配慮をしなければいけないって言うことなんです。その配慮がなかったために、降格は違法っていうことになります。」
菊地弁護士の見解:違法
「違法ですね、これは。給料下がらないからいいじゃないか、ということかもしれませんが、新しいプロジェクトのリーダーを断ったから降格というのは、ペナルティーともとれるんですよね。ペナルティーに相当するようなことを、この人はしたのかと。それはやっぱり否定せざるを得ないと。この人が悪いわけではないと。」
北村・菊地弁護士の見解は合理的。但し、これは女性Aがこれまでしてきた仕事できちんとしたとした成果を出していることが前提。本件についてはVTRを見る限り、そのような問題は特にないと考えられる。それで降格処分を食らうとなれば、違法性が出て来るだろう。今回は問題ないが、これで更に減給も伴うとなればより強い違法性を帯びると考えられる。
本村弁護士の見解:違法ではない
「この育児介護休業法の不利益取り扱いの禁止には解釈上大きな例外があります。それは会社の業務上の必要性が高い場合です。つまり、労働者が受ける不利益、ダメージの大きさに比べて会社の業務上の必要性が上回る場合には、これは例外としてこのような取り扱いも許されると。で、今回の場合はどうか。会社のプロジェクトのリーダーが交代するというのは、これは日常的によくある人事です。」
本村弁護士の見解は分からなくはないが、例外を持ち出して揚げ足を取っている印象を強く受ける。確かに労働者の不利益等が会社の業務上の必要性を上回る場合はこういった処分も止むを得ないだろうが、果たして本件のVTRはそのような場合に該当するかと言われたら非常に疑問である。リーダーとしての職責を果たせていないのであれば、降格も止む無しだが、恐らく女性Aについてはそのような問題はないものと考えられるため、本件では労働者が受ける不利益が会社の業務上の必要性を上回るとは考えにくいため、違法となる可能性が高いのでないかと考えられる。